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二日目の異変

尋賀は目を覚まし、そして異変にすぐに気づく。


「うぅ〜」

「やっぱひどくなってきやがったか」


尋賀はうなされている優作の額を触る。


「あち。こりゃー相当ひでえな」


あまりの熱さに触った手を振った。

尋賀は緊急事態だと判断し、大きな声で呑気に寝ている二人を起こす。


「のの女、騎士殿! 目ぇー覚ませ!」


その大きな声にルシェールは目を覚ます。

もう片方の妄想騎士は目を覚ましていないが。


「なんなの。どうしたの?」

「優等生の風邪がひどくなっちまった。ちょいと手伝ってくれよ」


ルシェールは目を擦りながら、起き上がる。

彼女は優作を一目見ると、特に慌てた様子もなく答える。


「シュヴァルツレーヴェに風邪を治す薬でももらったらどうなの?」

「そうっすかな。でも魔王様また探さねえとな」


尋賀のその言葉でルシェールは仮眠室を見回し、ナゲリーナの姿を探すが見つからない。


「シュヴァルツレーヴェはどこなの? もう起きてどこかに行ったの?」

「あー、まあそんなところだな」


尋賀は適当に答える。

実際にはナゲリーナは昨日の夜には寝ていないのだが。


「オレは魔王様を研究所内を探す。てめえは優等生の頭を冷やしてやれ。騎士殿は……」

「まだ寝てるの」


尋賀は黙って床で寝ている美玲に近づく。


「おい、騎士殿」

「むにゃむにゃ。女々しい尋賀〜」

「寝言で鬱陶しいこと言ってんじゃねーよ」


尋賀は寝ている美玲の背中を足で小突くと彼女は目を覚ます。


「あ、おはよ」

「……なあ騎士殿、起きてすぐに悪いんだけど優等生見ててくれねえ?」

「ん〜? 分かった〜」


美玲は寝ぼけつつ、毛布にくるまった状態で起き上がると、ふらふらとした足取りで寝ている優作の隣にまで歩く。

そしてたどり着いたと同時に力尽きたのか、彼女は倒れる。


「うっ!」


優作の上に。


「誰がトドメを刺せって言った?」

「すぅ〜……すぅ〜……」


寝息を立て始め、聞いているかどうか分からぬものの、尋賀はツッコミを入れる。


「見ていて思ったの! サカマキはボケ兼ツッコミ、アマギはツッコミ、ヤナギはボケで、シュヴァルツレーヴェはボケなの!」

「そんでお前もボケな」

「ふふんなの! ツッコミの仕事増やしてあげてるの!」

「……その分ツッコミがすげー疲れるんだけどな」

「何言ってるの! ツッコミはツッコムのが仕事なの! だから私に感謝するの!」


ルシェールはドヤ顔で尋賀に言う。

反対に尋賀は呆れてツッコミもしたくないとでも言いたげな表情だ。


「……どうでもいいけど早く優等生をどうにかしようぜ」

「仕方がないの。仲間だから、看病の一つしてやるの」

「素直なこって」


心にもない事を言うと尋賀とルシェールは仮眠室を出る。


ーーー


尋賀が再びナゲリーナを見つけた時、また彼女は床に座り込んでいた。


「またかよ、魔王様」

「……なんでもない」

「なんでもねえ訳ねえだろ。……まさか死因は過労か?」

「何か言った?」

「いや別に」


彼女は自力で立ち上がる。

尋賀は昨日の彼女の異変を思い返し、今回の事と併せて考えても、これが死に繋がるのかどうか分からなかった。

そもそも、尋賀は彼女と知り合ってまだ四日ほどしか経っていない。

つまり、尋賀は彼女の事をそれほど知っているわけでもない。

千年の付き合いがある『神託』は彼女の事を知り尽くしており、ナゲリーナに死が近づいていると言った訳だが。


「……考えごと?」

「ああ。明日の晩飯はちゃんとしたもんが食いてえな」

「外の雑草でも食べればいい」

「食ったこと、あるのか?」

「食料がない時は」

「オレも昔は何でも食ってたけどよ。……雑草はそこそこだな」

「子供の味覚では少し食べにくいかもしれない」

「でもオレがてめえと同じ歳くらいの時に食って飢えを凌いでたからな。それなりに食えるんじゃね?」

「雑食生物だから?」

「ま、そんなところだな。……と雑草の飯の話じゃなくてだな」


言い訳で言った晩飯の話が、雑草トークで盛り上がってしまい、元の話題に戻す。


「なあ、魔王様。優等生が風邪引いちまってさあ。風邪を治す薬とかない?」

「そのために聞きに来た?」

「まあな」


そう言うと、彼女は袖が長い白衣を顎に当て、考える素振りを見せる。


「風邪に治す薬。検討はしてみる」

「は? くれるんじゃねーの?」

「そのような発想はなかった。しばらくしたら、実際に風邪を治す薬を作ってみようと思う」

「つまり、薬なんざねーってことだな」

「そのような薬があれば、全ての病気が治せる万能薬になる」

「……そーいやー優等生が前に一度、風邪に直接効く薬なんて出来たら世紀の大発明だとか何とかかんとか言ってたな」

「わたしならそれを作れる」

「へえーじゃあ作ってくれよ」

「数十年掛かるが」

「あっそ。もういいわ」

「そう」

「…………」


じゃあな、と尋賀が言うと同時に、彼女は白衣のポケットから薬品の入った注射器を二つ取り出す。


「魔王様、これは?」

「風邪を治す薬はなくても、自然治癒に任せるのが基本の手。片方は栄養剤。食事を摂るのも面倒な時に、良くわたしは使っていた」

「気が利くじゃねーか。でも魔王様、今はガキなんだから、食事には気ィつけろよ?」

「……検討する」

「んなこと言ってたらまた優等生に何か言われるぜ? そんでもう一つは?」

「体内の時間を止め、永遠の命を得られる薬。摂取して逆に命を失う確率は今わたし達がやろうとしている事よりも高いが」

「いらねーよ。誰がそんな物で風邪を治したがるんだよ」


彼女は、白衣のポケットに片方をポケットにしまう。


「なあ、魔王様。そんな薬品見せられてから栄養剤渡されても、使う気起きないんだけど」

「こっちは栄養剤。心配する必要は……ない……」


彼女は何の前置きもなく、突然床に膝をつく。

そして、無表情ながらも頭を押さえ始めた。


「魔王様も風邪引いたんじゃねーの」

「……昔を……少し思い出しただけ」

「……昨日もそう言ってたな。何を思い出したんだ?」

「別に。ちょっと人体実験をしているところを」

「はは、お前人体実験好きそうだもんな。……どれだけの人間を犠牲にした?」

「実験に使ったマウスをいちいち数えていない」

「そりゃーそうだよな」


ナゲリーナは立ち上がると、尋賀に注射器を渡す。

尋賀は、注射器を受け取ると笑顔……というよりもヘラヘラ笑う。

ナゲリーナが見ていないところでその顔は何とも言えない表情に変わる。


(やっぱ危険人物か)


尋賀は怒りよりも、彼女がそういう人間だと割り切り、彼女はやはり信頼できない人物だと改めて心を閉ざす。

初めの頃の印象最悪が少しずつ改善されていた物が、尋賀の中で再び底辺まで下がろうとしていた。


ーーー


尋賀が仮眠室に戻ると、優作の額には濡れた雑巾が、ベットの下には水の入ったバケツが置いてあった。


「優等生の様子はどうだ」

「だいぶ落ち着いてきたの」

「そうか。そいつぁーよかった」


尋賀は、本の一瞬だけ安堵の笑みを見せる。

だが、すぐにその顔は呆れた顔に変わる。


「おい、騎士殿」

「すぅ〜……すぅ〜……」


今だに優作の上で寝ている美玲。

これが一日中看病して、疲れて寝ていたと言うなら尋賀もまだ許せたが、彼女は何もせずに寝ているだけである。


「痛い!」


ゆえに、尋賀はチョップで起こす。


「お寝んねならベット空いてるからそっちでしてろ」

「痛た……普通に起こしてよ、尋賀ぁ〜」

「風邪引いてる奴の上で寝なきゃー普通に起こすかもな。ベット空いてるから寝てろ」

「ふあぁ〜……もういいよ。もう起きるよ……いや、もう睡眠は十分だ!」

「うるせえって! 病人が寝てるってのに急に大きな声出すな!」

「……サカマキも十分うるさいの」


ルシェールにジト目で言われると思わず、尋賀は黙る。

美玲の方はゆっくりと状況を確認し、優作の風邪がひどくなっていることにやっと気づく。だが時遅し、彼女ができることはもうない。


「栄養剤、うたねえとな。……って注射器ってどこに刺せばいいんだっけか? 騎士殿、お前はできるか?」

「む。私は無理だ」

「私も無理なの」

「……おめえには聞いてねえから」


ルシェールに対しては期待をしていなかったが勝手に答える。


「けっ。ちゃんと考えりゃー注射なんて出来るわけねえのに、こんな物受け取ってオレは何やってるんだか」

「ならば今から魔王、ナゲリーナを呼べばよかろう」

「そこまでする必要ねえよ。栄養剤なんてなくても風邪は治るだろ」

「しかし、治りが良くなるのではないか?」

「風邪なんて放っておけば治るもんだろ」

「うむ。もっともだ」


しかし、尋賀の本音はあまりナゲリーナの薬品を使いたく注射したくないというのが本音だった。

一度、手の怪我を治すために優作は注射をしてもらっているが、その時は本当に手の怪我を治す物だった。

だからと言って再び彼女が害のない物を渡すという証明にはならない。


「なあ、騎士殿。一緒に野草でも取りに行かね?」

「む。我々の知る植物と異世界の植物は違うのではないか?」

「心配しなくても同じだと思うぜ」


尋賀はナゲリーナのコネクターズカオス現象の話を聞いている。

だから、この世界は尋賀の世界とほとんど同じだから、同じ植物なども存在するだろうという確証があった。


「そういうことなら探してみよう」

「へへ。こういう時に狩人がいると大助かりだな」

「違うぞ! 私は狩人ではない! 騎士だ!」

「……どっちでもいいから摘みに行こうぜ?」


尋賀と美玲は出て行こうとする。

それに合わせてルシェールも付いて行こうとするが。


「のの女、てめえは優等生を見てろ」


と、尋賀に止められ、彼女は渋々引き下がる。


「ふんなの。別にいいもんなの。大変なのはやりたくないの」


そう言って、少しふてくされながら彼女は空いているベットの上に座る。

どうやら、彼女は退屈な方と、少し苦労な方、どっちを取るか選んだ結果、少し苦労な方を選んだが、尋賀に断られてしまった。


「少し退屈なの」

「あはは……。病人を見てるだけは暇だろうね」

「……起きてたの?」

「うん。野草の辺りくらいにね」


優作は笑顔を見せる。しかし、その笑顔は苦しげだった。


「ねえ、暇なら何か話でもする?」

「無理はしない方がいいんじゃないの?」

「ありがとう。心配してくれて」

「仲間なら当然なの。私が騎士だった頃も仲間が傷ついて倒れたら皆付ききりだったの」


ルシェールは誇るように言う。


「じゃあ、代わりに君の事を教えてもらっていい?」

「何が聞きたいの? 私の騎士時代の天才的ヒストリーでも聞きたいの?」

「あはは……じゃあ、どんな家で住んでるのかな?」

「私の家なんて普通なの。騎士団の寮よりは大きいの」

「へえー。どれくらいなんだろう?」

「まあそこそこの屋敷なの」

「大きいってどれくらいなんだろう……って屋敷? そういえばメイドがいるとか言っていたような……」


優作は熱が原因か、頭の中がはっきりせず、記憶が曖昧だ。

彼は言及せずに、自分の話を始める。


「じゃあ、今度はボク……っていうかボク達三人の昔話とかしようかな」

「昔話ならヤナギから話は大体は聞いてるの」

「多分それは全部妄想だと思うけどな……。尋賀は昔話は嫌がるけどね。それじゃあボクと尋賀と美玲の高校生活なんてどうだろう」

「コウコーってなんなの?」

「学校のことだよ。ボク達がその高校に入りたての頃……」


優作は、ゆっくり昔を語り始めた。



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