積もる謎
「尋賀! ナゲリーナ!」
ナゲリーナの研究所に戻ると、優作が二人を安堵の表情で見つめる。
「よっ、優等生。探し物か?」
「ナゲリーナがいないことに気づいてね。それで聞きたいことがあるから、とりあえず探していたんだよ」
「聞きてえこと? 魔王様に?」
「……その、ここには一人用のベットが三つあるだけだし、毛布も三枚だけだし、夜寝る時どうすればいいのかなって」
「そういやぁーそうだっけか」
尋賀は昨日のことを思い出す。
彼が仮眠室に案内された時、その部屋には寝れる場所が三人分しか用意されていなかった。
現在、この研究所にいるのは尋賀、優作、ナゲリーナ、美玲、ルシェールの五人で、二人分の睡眠スペースがない。
「なあ、魔王様。本当に他に毛布とかねえのか? 毛布じゃなくてもそれっぽい物とか」
尋賀は一度、彼女に毛布は三枚しかないと言われており、現に優作は美玲とルシェールのために毛布もなしに外で寝るハメになった。
「…………」
「魔王様?」
「……え?」
ナゲリーナはどこか上の空と言った感じで、二人の話を聞いていなかったようだ。
「魔王様、毛布のことなんだけど」
「毛布ならわたしが仮眠室に戻しておいた」
「いやそうじゃなくてさ。毛布はもうないのかって聞いてんだ」
「ない」
結局、三枚しかないらしい。
代わりになるような物も今更期待はできないだろう。
「わたしは一日中起きていれば、何も問題ない」
「ちょっと、待ってよナゲリーナ。夜更かしは子供の成長に良くないからね」
優作はナゲリーナに子供に接する態度で怒る。やはり尋賀の言うとおり、彼はお母さんの素質でもあるのだろうか。彼は男だが。
「だったら、ちょっと狭いけど、一枚の毛布で二人一緒に寝るっていうのは」
「んじゃ、オレと優等生は毛布一枚ずつ、女どもは三人で一枚の毛布な」
「……それを美玲とルシェが聞いたらどんな反応するだろうね」
恐らくは尋賀に文句を言ってくるだろう。
「んなこと言ってもオレと優等生は昨日は毛布なしで、それも外で一夜を過ごしたんだぜ。それくらい妥協すんじゃね?」
尋賀が言っている隣で、ナゲリーナは文句を言いたそうな眼で睨みつけている。
彼女もまた、夜を外で過ごしたため寝ていない。
もっとも、口に出さなければ尋賀達にその事が伝わることはないが。
「ボクは心配だったからそうしたんだよ。君だって二人のために、自分の毛布をボクに投げつけてきたんじゃないか」
「覚えてねーな」
「しかも君はベットの上で寝てるのかと思いきや、気づいたら外で寝てるし。純粋に心配してたからの行動だろ? 見返りなんていらないし、君も必要ないよね」
「でもな、昨日オレ達はキツイ寝かたしたから、今度はてめえらの番だって言いたいだけだって」
「そんな小さいこと言わないほうがいいんじゃない?」
「……そんじゃあ聞くぜ。馬鹿なことして風邪をこじらせた馬鹿はどこのどいつだ?」
尋賀の言葉に、優作はそっぽを向く。
風邪を引いている事は悟られていても、それがやや深刻化している事は悟られまいとしていた優作だったが、尋賀にはどうやらお見通しのようだった。
「風邪引いてる奴は当然一人だよな? んじゃあ毛布は残り二枚で、残りは四人。その中からオレを引いた三人の中で誰が一緒に毛布に入ってくれるんだろうな? 答えてくれるか、優等生」
「……あまり良くはないね」
「だろ」
尋賀は、これで分かったろとでも言いたげな表情をしていると、不意に優作の口を開いた。
「じゃあ、君とボクで毛布を一緒に使って、残りの二枚を女性陣が使えばいいと思うよ」
「……オレはそっちのけはねえし、誰が嬉しくて風邪引いてる奴の隣で寝なくちゃなんねーんだよ」
「君なら風邪くらい平気だろ?」
「いい根性してやがるぜ、優等生。……わぁーたよ。オレは床で寝てやるからてめえは毛布被って寝てろ」
「流石尋賀。正直じゃないね」
「褒めてくれてありがとさん」
本当は尋賀も初めっから床で寝るつもりだった。その事を優作は見抜いていた。
彼は正直ではなく、その優しさを全くもって見せようとしなければ、どんな人物にも捻くれた態度でしか接しない。
その事を知っている優作には全てがお見通しなのだろう。
「そんで魔王様……おっと、なにも言わずに行っちまいやがった」
いつの間にか、ナゲリーナはいなくなっていた。
だが彼女がここにいないことは都合がいい。
尋賀は先ほどの出来事を優作に話し始めた。
「なあ、優等生。さっき、外で神様に会って来たんだけど」
「神様? どういうこと? この世界には神様がいるってこと?」
「そうじゃねーらしい。……長くなるんだけどさ」
尋賀はそう言って、外で起きた出来事を話し始めた。
ややこしい話が多く、一から全部説明するのに時間は掛かったが、なんとか優作は話の全容を理解したようだ。
「戦争、ナゲリーナの死……」
「どうだ、優等生。何か分かることはねえか?」
「そんな事を急に言われてもすぐには全部分からないよ」
「全部は分からなくても少しは分かるって言い方だな」
尋賀は確信していた。
尋賀以上に頭の回る優作ならば、自分の分からない、気づけない部分に気がつけるだろう。
「……戦争は言葉の通りかもね。あの騎士団長がデラッセ村にいた理由がルシェの処刑やナゲリーナを捕らえるとかじゃなくて戦争のためにいたなら説明がつくかもね」
彼は断片しかない情報から推理したことを、自信満々に話す。
きっと彼ならば、尋賀の気づけないことに真っ先に気づけるだろうという信頼は当たりのようだ。
「なんで騎士団長自らが一人で処刑しようとしていたのか。騎士団長と言うくらいなら、立場だって偉いはずだ。じゃあなぜ、立場の偉い人間がそんな仕事を率先してやっているのか」
「戦争のために周りの下調べでもしてたのか?」
「かもしれないね」
「それこそ下っ端の仕事じゃね?」
「かもね」
「優等生。あんまり分かってないだろ」
優作は顎に手を当て、考え込む。
そして、自信満々だった声が嘘のように滔々と言う。
「……だって、あの人、凄く真面目そうな感じがしたから。きっと大事な仕事なら自分で動いて、自分で解決しようと思うんだ」
「あっそ。仕事人間だから少数の部下を引き連れて、その部下全員を馬車の駅で待機させるのかよ」
「そこは性格の問題だからね。きっとあの村で異世界に行ける事は分かっていただろうから、後はルシェの処刑をついでに……ね」
「そーいや、オレと魔王様、のの女とおっさんでドンパチしてから一日しか経ってねえな。そこに都合良くカの字が居たなんておかしな話、だよな」
「うん。じゃあ騎士団長はなぜ、あの村に居たのかってことになるんだけど、ここでルシェの処刑とナゲリーナ関連……この二つは一日だけではちょっと考えにくいよね。だったら残るのは戦争じゃないかな」
「じゃあそれしか考えられねえってか」
「うん。おかしな要素、あり得ない要素を除外していったらたどり着いた答え……まあ間違いはないんじゃないかな?」
優作は消去法で答えを導きだした。
本人は疑問形で答えているが、顔はやはり自信満々だった。
しかし、それが本当ならば、冷静でいるのは間違いだろう。
「なあ、優等生。じゃあオレ達の世界、オレ達の町はどうなるんだよ。帰ったら焼け野原ってのは勘弁なんだけどな」
尋賀は冷静に振舞ってはいるが、彼は元の世界の事が非常に気がかりだった。
『神託』は今、街には師匠しかいないと言っていた。
もしかしたら既に戦争は始まっているのかもしれない。
確認することはできず、今、町がどういう状況なのか、確かめたくてもできない。
「……放っておくべきだよ」
「随分とらしくねえ発言だな、優等生」
尋賀は、今すぐにでも元の世界に戻って、戦争を止めようと優作が言いはじめると思っていた。
だが予想とは反対の答えに尋賀は驚いた。
「悔しいけど、ボク達が元の世界に戻っても何もできないよ」
「じゃあ、放っておけってか? 本当に無理だって言うのか?」
「無理だよ。騎士団の規模は知らないけど、ボク達だけなら勝算はないよ。君がいくら強くても、ルシェが騎士団の中でも強くても、美玲がどれだけ狩りの腕を持っていても、ナゲリーナが魔王と呼ばれる人間でも、規模と桁が違いすぎる。戦うならそれ相応の力を持ってないとね」
「へへ。もう無理ってか? 始めっから終わりってか?」
「そうだよ。諦めなよ。ボク達はあくまで人間なんだ。無理なことだってあるさ」
優作の発言に尋賀は自らの心の中に黒いもやを感じた。
誰に当たればいいのか分からない怒りに、どうすればいいのか分からない悲しみ。
尋賀は、すぐに感情を内側に抑え込もうとするが、どうしても奥歯に力が入ってしまう。
「でもちゃんと考えてよ尋賀。ボク達は世界を消滅から救おうとしている。もし戦争を回避出来たとしても世界が消滅したら意味なんてないんだよ」
「……まあ、そうだな」
「それに、戦争が起こる前にコネクターズカオス現象を止めたら、騎士団はボク達の世界に来ることはない。だったらボク達が優先すること……分かるよね?」
「……わぁーたよ。オレ達にしかできないこと、やりゃーいいんだろ」
尋賀は、観念したかのように、溜息を吐く。
本当ならば急いで元の世界に戻りたかったが、優作の言うとおり、勝算など全くない。
尋賀の望む、強敵との喧嘩も達成できるが、異世界に戦争を仕掛けると言うのだ。ただの人間でしかない尋賀など一瞬で終わってしまうだろう。
こればかりはどれだけ強くても仕方のないことだ。
悔しさも、怒りも、悲しみも、何もかもを心の隅に置いて隠す。
「とりあえず、戦争の話は終わりだね。この事を美玲には?」
「やめとけって。騎士殿がオレみたいに理解がはえーなんて思えねえ。オレとお前だけの秘密……」
尋賀はそこまで言ったところで、『神託』の言った事を思い出した。
仲間のために行動は出来ても、仲間を頼らないと。
師匠が尋賀の行動を見越して、『神託』に言ったことだが、完全に当たっていた。
仲間に危害が及ばないようにと、研究所に戻った後に、一人で『神託』と戦ったが、手も足も出なかった。
『神託』の力は強大で、明らかに人の身で敵う訳はなく、もし向こうが殺す気で掛かって来た場合、尋賀どころか全滅していただろう。
それでも、仲間がいればある程度の活路は見出せたかもしれないし、それに真っ先に尋賀がしなければならないことは、食事など呑気にしてないで、仲間達に危険が迫っていることを伝えることだった。
反省の意味も込めて、尋賀は反対の事を言い始める。
「――にはしねえ。美玲にはオレから伝えて、そんでバカなこと言い出したら全力で止めるわ」
「なんだい? 秘密にするんじゃなかったの?」
「別に。仲間外れにすんのは良くねーだろ」
「心配させるだけ損だと思うなぁ……。時には嘘だって人のためになるんだよ?」
「確かにそうだけどな。……んじゃ次、魔王様の死について考えようぜ」
戦争の話も重要な話な上に、こっちの話も重要な問題だ。
だが、優作は両腕を組んで、首を傾げる。
尋賀は『神託』の少し考えればすぐに分かると言う言葉を鵜呑みにしていたために、優作にでも考えれてもらえばすぐにでも分かると思っていた。
しかし、彼はお手上げとでも言わんばかりに、組んでいた両腕を解いた。
「ごめん。ちょっと分からないや」
「てめえが考えるのを諦めるなんて、珍しいな?」
「うーん、その神って人がナゲリーナの感情を揺さぶるな、記憶と意識を植え付けていることを考えればすぐに分かるって言ったんだよね? 他には?」
「特にはねえな」
「いくらなんでもヒントが不親切すぎるよ」
「あのボケ神め……。救って欲しいって言うくれぇならもっと情報を教えろってんだ」
「……急に死ぬとだけ言われても分からないよ」
「んじゃ、ボケ神の勘違いか?」
「う〜ん、気にはなるけど……君の言うとおりかもしれないね。君の話を聞く限りはどこか抜けてるって印象を受けるしね」
今度は二人一緒に腕を組んで考える。
それぞれ腕を組みながら眉間を押さえたり、こめかみを押さえたりするものの、どちらも答えには繋がらない。
「……その神って人がボク達について来てくれたらいいのにね」
「そりゃー、魔王様も死なねーだろうな」
「戦争も止められるかもしれないね」
「ははは。トラブルとか全部解決するかもしれねーな?」
「解決できるならしてくれるはずさ。きっと干渉してはならないルールでもあるんじゃないのかな」
ナゲリーナや『神託』が言っていたことを思い出す。
ナゲリーナは知る必要がないと言っていた。
それはつまり、あまり関わるのは良いことではないのだろう。
しかし反対に『神託』は今、尋賀達の街に師匠以外の人間はいないと言っていた。
そのような常人離れした何かしたとすれば『神託』しか考えられない。
となれば優作の言う、干渉してはいけないルールとは矛盾している。
「なあ、優等生。その干渉できないってのは――」
「別にボクは推論を話しているだけだよ。あまり外の知識を持ち込んではいけないって、物語では良くある話だしね」
矛盾を指摘しようとしていた尋賀は、簡単に優作に見透かされていたようだ。
「ま、そんなデタラメな強さのボケ神が味方について来たら、何もかもが下らねぇ終わり方するんだろうな」
「だろうね。味方ってのは間違いじゃないとは思うけど」
「オレはそうは思えねえけどな」
「どうして? どっちかの世界を消滅させるって言っていたのに、急にボク達に猶予を与えてくれたのに?」
「裏はねぇーんだろうよ。悪意もなさそうだ。でもなんか気に入らねえ」
「……勘、だね。尋賀の野生の本能剥き出しの勘は良く当たるからね」
「そんな言い方されると、オレが野蛮人みたいだな」
「現にそうだろ?」
「そうだな。言われちまったら、言い返せねーからな」
彼は自嘲する。
優作もまた、軽く笑っているのはこの程度では尋賀が傷ついたり、怒ったりしないことを知っているからだろう。
「結構、話込んじまった。騎士殿とのの女は今頃なにしてんだろうな?」
「……ボクが部屋を出る時には必殺技の名前を決めようとしてたよ」
「異世界でも騎士殿は常にいつも通りってか?」
ーーー
尋賀と優作は部屋に戻ると、美玲とルシェールが何か楽しそうにやっている。
「では次は天城 優作の真似をするぞ!」
美玲は戻ってきた二人に気づかずに、自身のゴーグルを目元に持って来ると、そのまま眉間を押さえる。
『ボクの考えだと明日、ボクの眼鏡が割れるよ』
「きゃははは! 結構、似てるの!」
ルシェールは美玲の言う優作のモノマネに笑う。
しかし、尋賀と優作は今のモノマネのどこが似ていて、どこが笑えるのかさっぱりだった。
「次は坂巻 尋賀だ!」
そう言って彼女は、ゴーグルを外して、鼻をつまみ始めた。
『オレ、お前の事が好きなんだ。結婚してくれ』
「きゃははは! 似合ってないの! そんな事、言わなさそうなの!」
ルシェールはお腹を押さえながら笑うが、尋賀と優作は白けた眼で見ている。
自身の鼻をつまんでいると、美玲は二人に気がつく。
『よっ。戻って来たか』
「……ああ、戻って来たぜ、坂巻 尋賀さん?」
『そんじゃあ、鏡コントしよーぜ』
「似てねえモノマネで、んなこと言うなっての」
「痛っ!」
尋賀は美玲の頭をチョップした。
顔には出していないものの、相当、嫌だったらしい。
それほど力が加わっていた訳ではないが、美玲は頭をさすりながらモノマネをやめる。
「むぅ。結構似ていると思っているのだが」
「どこがどう言う風に似てるんだよ。誰がそんなモノマネで似てるって言うんだよ」
「うむ。ルシェールは似てるって答えてくれたぞ!」
「そういやーそうだった」
尋賀はうっかり先ほどまで笑っていた人間のことを忘れていた。
その先ほどまで笑っていた人間は尋賀に尋ねてくる。
「それで、今まで散歩してたの?」
「ん? ああ、そういやそう言ったんだっけ」
尋賀は全員に対して、散歩すると言って外に残っていたのだ。
面倒に思いつつも、彼は外で起きた出来事を、優作にした時と同じように説明し始めた。
一度目と似たような説明をし、ルシェールは黙って聞いていたが、美玲は黙ってはいなかった。
「戦争だと!? なら早く止めに行かなくては!」
「言うと思ったぜ、騎士殿」
「何を悠長にしているのだ! 早く元の世界に戻らなければ!」
「んなこと言ったってこの面子だけでどうにかできるのかよ。何もできずに終わるのがオチだぜ?」
「いーや、そんな事はないぞ! 今の我らに負けなどない!」
「……止まってくんね? 騎士殿?」
優作とほぼ似たような説得だったが、美玲の暴走は止まりそうにない。
彼の言葉足らずなのか、それとも美玲の方の問題か。
何にせよ、この展開をすでに予測出来ていた優作は小さな声で呟く。
「美玲の言う通りこのパーティ、伝説の不良に、魔王に、騎士団の天才に、腕利きの狩人だからね。最強に聞こえるよね」
「伝説とか勝手につけられただけだし、魔王だってただの俗称だろ。騎士団の天才つってもそれがどれくらい上なのか知らねーし、熟練の狩人なのは良いけど、弓で狩りするのって法で禁止じゃなかったけか?」
「……なんにせよ聞こえだけは一騎当千できそうだよね」
だから美玲の目はこうも輝いているのかと、こうなることは予測出来ていたものの、尋賀は喋ったことを後悔し始めた。
「よし、世界の窮地に我ら最強魔王騎士団、出陣するぞ……と、その前にその神と言う者から神の加護を受けた神剣を受け取っただろうか?」
「やべ。机運ぶの忘れてた。ちょいと行ってくる」
「待つのだ坂巻 尋賀! 一体貴様はどんな物を貰ったと言うのだ!」
「変な石しか貰ってねえって!」
「おお! 恐らくそれには神にも匹敵する力が……どれ、見せてみるのだ!」
「ついて来んなって!」
尋賀は逃げるように部屋を出て行くと、美玲もその後を追う。
机を片付けていなかったのは逃れるための尋賀のわざとなのか、それともついうっかりなのか。
真相は尋賀の中だが。
「行っちゃったね」
「行っちゃったの」
優作とルシェール。
部屋に二人、残される。
「例の必殺技の話はどうなったの?」
「……疲れたの。ヤナギが一方的に喋ってくるばかりだったの」
「美玲はいつもあんな感じだからね。どうせ必殺技名なんて決めても明日には忘れてるだろうしね」
「……どうせ出来っこない必殺技の話ばかりだから覚えていても関係ないの」
「あはは……。そうだね」
優作は苦笑いしかできなかった。
「そういえばアマギの魔法はどういったものなの? サカマキ達とは一緒に戦っているの?」
「魔法なんて使えないし、そもそも美玲の言っていることは全部妄想だよ!」
美玲の嘘……と言うより設定の話を再び信じ込んでいたらしい。
もっとも、また設定と言うことには彼女はすぐ気づいたが。
「それじゃあ、アマギは戦わないの?」
「うん。ボクは戦えないよ。あんまり争いごとも好きじゃないしね。ボクは後ろから見守るだけ、かな」
「わぁ〜男の癖にヒロインみたいなことやってるの〜。ヤナギの言う通りなの〜」
「ちょっと! ボクの知らない間にそんな話しないでよ!」
「別にぃ〜なの。一緒になって戦うんじゃなくて守られてるだけの人をそう言うんじゃないの?」
「いや、そうだけど! どうして五人もいる中で、そのうち三人は女性陣なのに、その三人押し退けてボクがヒロインなのさ!?」
「一番弱いからじゃないの?」
「いや、そうだけど。なんで男のボクが……」
「顔にでも聞いてみたらどうなの?」
「女顔とでも言いたいわけ!? そんなことないだろ! ……ないよね?」
優作は自分の顔でも確認したくなり、鏡がないかを探す。
「ぷぅークスクスなの! 本気にしたの?」
「……もしかして、尋賀の性格の悪さが伝染でもした?」
尋賀なら言いそうな人を小馬鹿にするような発言をし、笑うルシェールに彼はつい、彼女と尋賀を重ねてしまった。
もっと言うなら優作一人に対して、尋賀と美玲とナゲリーナとルシェールで周りを囲み、四人掛かりでイジリ倒されるのではないかと思うと、優作は戦慄する。
「そんなに怯えなくったっていいの。アマギはちゃんとやってるの」
「ちゃんとやってるって何を? ヒロインじゃないよね?」
「ぷぅークスクスなの!」
「なんでそこでまた笑うのさ!?」
優作は不安になって声を荒げたが、すぐに彼も微笑する。
考えてみれば、彼女がこうして笑う事が出来るのは非常に喜ばしいことだ。
彼女の心の中では今もまだ苦しんでいるに違いない。
それでも心の底から笑えるのはいいことだと優作は考えた。
だがしかし、優作は一つだけ納得できない。
「……ボクには無理があるでしょ?」
「それこそ無理なの。ミレイと一緒に話して決定したの〜」
「そんな、ちょっと待ってよ!」
優作は吠える。
美玲が優作をヒロイン扱いするのであれば、当然尋賀も優作が嫌がるのを察して、追撃の意味も込めて、ヒロイン扱いするだろう。そうすれば彼の立場は間違いなく決定である。
顔を確認しなくても紛うことなき男だが。
「あっちゃ〜女性を泣かせてしまったの」
「もういい加減にしてくれない?」
優作は本当に鏡で自身の顔を確認したくなった。




