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神との対峙

今まで連載を休止していて申し訳ありませんでした。訂正作業が終了したので、連載を再会します。と言っても今までと変わらないマイペース更新ですが。

「…………」

「尋賀? さっきから黙ってどうしたの?」


ナゲリーナの研究所から食器類を調達してきた優作が、さっきから様子のおかしい尋賀に尋ねる。


「……これからこんな日が一週間も続くと思うと憂鬱なんだよ」

「そうかな。ボクは賑やかで楽しくなるんじゃないかな。人数も多いし」

「んなこと言ってもダブル騎士が何かトラブル起こしそうな気ィするんだよな」

「ははは……そうだね」


優作は苦笑いすると、尋賀から離れていく。尋賀の嘘に気づかなかったようだ。

彼が去った後も尋賀は岩の方を警戒し続ける。


(動かねえ、か)


尋賀は岩の方から感じる視線と悪寒がずっと止まないことが気がかりだった。『向こう』もとっくに尋賀に感づかれているのに気づいているハズだが、一向に動こうとしない。隙を伺うにしても、猪を焼いている美玲に、薪や燃えるものを集めて火の中に入れているルシェール。研究所の中にあった、持ち運びできる折りたたみの出来る木製の机と椅子を一人で往復して運んでいる優作。そして鉛筆と紙を両手に何かを書き続けるナゲリーナ。隙ならば十分である。


(一体なんだってんだ。気味わりい……。喧嘩してえなら、かかって来いってんだ)


尋賀は顔に出さないがかなり警戒しているようだ。

ちなみに、現在尋賀は、優作から借りた小型の双眼鏡そうがんきょうを用いて魔物が来ないかの警戒係だ。彼が一番警戒しているのは、魔物ではなく近くにいる何者かしか警戒していないのだが。


「尋賀、準備できてるよ?」


優作は、机に皿を並べながら言う。どうやら美玲が焼いている肉も焼きあがったようだ。


ーーー


「ねえ、ナゲリーナ。食事中に紙にものを書くのはよくないよ」

「これは世界のため。世界とテーブルマナー、どっちが大事?」

「そ、それは世界だけど……」


真面目な優作は、食事の態度の悪いナゲリーナに注意をするが、すぐに撃沈してしまった。


「ははは。流石の優等生も魔王様の前じゃあ言い負けちまうか」

「……確かに行儀は悪いけどさ。これが世界のためなんて言われたら言い返せないし」

「確かにな」


尋賀はへらへら笑っているが、警戒していることを周りに悟られないように普段通り振る舞っているのだろう。


「ていうかナゲリーナ! さっきからほとんど食べてないじゃないか!」


優作はナゲリーナの皿の上に残る大きな肉がほとんど減っていないことに彼は怒る。怒ると言っても親が子供に対して怒っているようなものだ。


「肉が固くて食べにくい」


ナゲリーナはそう言って、肉に興味をなくしたように呟く。


「むぅ……。この猪、私の狩った猪の中で一番肉が固かったのだ」

「ならもういらない」


美玲のせいではないが、彼女は申し訳なさそうな顔になる。

ナゲリーナは完全に食事の手を止めて紙に何かを書くことに没頭しようとしている。

優作は仕方なく、彼女の肉をナイフで細かく切り分ける。大きさとしては欠片とまで言っていいほど細かくなる。


「これでいい?」

「…………」


ナゲリーナは無言でフォークを手に取り、肉を刺しては口に運んでいく。もちろん、紙の方に目を向けたままだが。


「今度は袖!」

「……うるさい」


長い白衣の袖が食べ物につきそうになり、彼女はまたもや怒られる。度重なる注意にナゲリーナは気分が悪そうだ。


「流石は優等生。今度からお袋とでも呼んでやろーか?」

「……優等生でいいよ」


尋賀は冗談を言いつつ、それでもなお警戒を続ける。尋賀はこの視線に全く気づくことのない他の仲間達に呆れるどころか、心配にもなって来る。ならば言えばいいのだが、彼はそうしない。


「ところでミレイの世界ってどんなとこなの?」


ルシェールは食事中の雑談を美玲としている。


「うむ。騎士団と魔法が世界を繁栄されていてな。全ての者が魔法を使えるのだ」

「そうなの? ということはこっちの世界の人間はシュヴァルツレーヴェ以外は魔法を使えないけど、そっちの世界では全ての人間が魔法が使えるの?」

「それだけではないぞ! 魔法の中には禁忌の魔法があり、それらを操るのが機関の連中で、その禁忌の魔法を使われると甚大な被害が起きる。我々騎士団は被害が及ぶ前に機関の連中を……」


勝手に自分の世界が壮大な世界観にされ、尋賀はこっちの会話には参加しようなどという気が全く起きなかった。


「ごっそーさん」


彼は肉を食べ終えると、すぐに椅子から立ち上がる。


「ちょいと夜風に当たってから研究所入るわ」


そう言うと、布に入った鉄パイプを持って草原を散歩し始める。


「ちょっと待つの! 片付けるの!」


ルシェールは食事中に立ち上がる。


「残しといたらオレが後で片付けとくぜ」

「そうなの? だったら全部残してやるの」

「…………」

「……文句言わないの?」

「ん? 別に文句なんてねーよ」


妙に素直な尋賀にルシェールは不気味に感じる。彼女は尋賀に何も言わずに、食事に戻る。


ーーー


残った四人の食事が終わる。

四人は、食器類と椅子は研究所に運び、机だけは残した。机は尋賀担当と言うことだろうか。

全員が研究所に戻った後、尋賀はやっと岩に近づく。


「じっと見てて楽しかったか? オレ達の食事風景はよぉ」


尋賀は一人だけ、いや尋賀とさっきからずっと動こうとしない姿を消した何者かの二人だけの草原に残り、岩に向かって話し始める。周りから見れば独り言を言っているようにしか見えない。


「……へっ。一発、殴られねえと気が済まねえってか」


布から鉄パイプを取り出し、構える。

それと同時に観念したのか岩の上に男が姿を表す。


「……何が目的でオレ達を見ていた」


何もない虚空から現れた男に、野生の勘にも似た尋賀の本能が警鐘を鳴らす。


「……見定めに来た」


男はフードのついた茶色のローブを着ていた。髪はナゲリーナの白衣と同じく地面を引きずるほど長く、その髪の色は蒼い。見方によれば男は物語に出てくる魔道士に見える。


「は? 何を」

「『蒼炎』の弟子を……いや、『蒼炎』から聞いた話だと貴様は『蒼炎』をジジィと呼ぶそうだな」

「ジジィを知ってるのか? つーかジジィは異世界の人間だぞ。どうやって知ったんだよ。そんで魔法は魔王様の唯一品だぞ、どうやって姿を消していた? 魔法具ってやつか?」


尋賀は、警戒しつつ話す。


「……一度に大量に聞くな。だがその質問は全て一言で説明できる。我はこの世界の住人ではないからだ」

「……オレ達の世界出身ってわけじゃないよな?」

「そう。コネクターズカオス現象では行き来することの出来ない……はるか彼方の世界出身だ」

「てめえは自由に世界を行き来できるみてえな言い方だな」


尋賀は鉄パイプを握りしめる。例え、彼の師匠と話したことがあると言っても、油断をするわけにはいかない。


「さて。我は話し合いするつもりもあるが、貴様の成長を『蒼炎』の代わりに見ようとも思う」


男がそう言うと、彼の周りに三角形の何かが宙に現れる。それは鋼色で、三角形で言うならば二辺に刃がついている。


(持つ部分のねえ苦無くないかよ)


尋賀は苦無を見たことはなかったが、一番近い物はそれかもしれない。


「まずは様子見を」


男がそう言うと、宙に浮かんだ『それ』は尋賀に向かって直進する。

鉄パイプを振り下ろし、『それ』をはたき落とした。


「お前達がこの世界に行く時、『蒼炎』に一度会い、その後もう一度用事があって会って来た。その時、『蒼炎』は貴様を息子を自慢するが如く喋っていた」


男は口を動かしながら、その側では苦無のような物がまた二本宙に浮いている。


(野郎! 喋りながら喧嘩するってか!)


別にそれ自体に悪いわけではない。だが喧嘩を楽しみたい尋賀には、遊ばれている気がしてどうも気に入らなかった。


「じゃあてめえとジジィの関係は、と」


尋賀も負けじと話しながら二本の苦無のような物を同時に鉄パイプで受け止める。


「我の千年来の友人だ」

「千年だと。てめえがジジィの言っていた普通の人間では築けない友情とか言ってたやつか」

「そうだ」


今度は尋賀から動く。

草むらの中に落ちている石ころを拾うとトスをし、


「ホームラン!」


鉄パイプで男目掛けて打つ。


「それで他に聞くことは?」


男に石ころが到達する前に、金属の壁のような物が阻む。


(やべっ!)


尋賀は何かに気づき、その壁のような物に後ずさりする。

その壁はバラバラに分かれる。それらは、全て苦無のようなものだった。


「……もしかして、友情の証やらってのはてめえら。魔王様とジジィとてめえの、友情の証ってか。普通の人間では築けない友情の証ってな」


余裕なんてないハズの尋賀は精一杯の強がりで喋って見せる。


「そうだ」


男の一言と同時に一斉に苦無のようなものが尋賀を襲いかかる。


「うおッ!」


地面に伏せて回避する。


「我ら三人の友情は……全員が人間を辞めたという友情で繋がっている。我は人を辞めて世界の管理者を、一人は転成を繰り返して擬似的な永遠の命を得て、一人は呪いを受けて永遠の命を得たのだ」


男は地面に伏せている尋賀に追撃する。

尋賀は新たな苦無もどきが来ると、転がって回避する。


(くそ! 近づけねえ!)


男は一歩どころか、なに一つ動いていない。なのにひっきりなしに遠距離攻撃をされこっちから攻撃出来ない。しかも相手は岩の上にいるため、鉄パイプを使った直接攻撃は届かないだろう。


「おい! てめえ! そっから降りやがれってんだ」


尋賀は急いで立ち上がると鉄パイプを投げる準備をする。しかし、男はその発言に予想外の答えを返す。


「そうか。ならば降りよう」


男はそう言って、ふわりと宙に浮き地面の上に立つ。鉄パイプを投げて攻撃して無理やり岩から降ろすという尋賀の作戦は実行する必要がなくなってしまった。


「は? 素直すぎだろ……」


男の行動に尋賀は心の中で面食らう。


「舐めてんの? オレ、喧嘩で舐められたら何が何でもぶっ倒したくなるんだけど?」

「貴様は降りて欲しいと言った。故に降りた。それだけだ」

「んじゃ、この調子で本気出せよ。てめえーが本気だしてくれねえから喧嘩が楽しめねえんだよ」

「それは断る。我が本気を出せば跡形もなくなるぞ」

「へへ。それじゃあ本気が楽しみだ」


尋賀はその言葉に嬉しくなり、笑顔を見せる。戦闘狂の彼にとって強い未知なる敵との戦いは何よりも嬉しいものなのだろう。この点は昔からなにも変わっていない、成長していない部分だ。


「行くぜッ!」


尋賀は男に向かって一直線に走る。


「…………」


男は相変わらず一切動かず、苦無もどきだけが空中に浮かぶ。今度は二本だった。

苦無もどきは尋賀の右のこめかみと左のこめかみを狙って飛んでいく。


(もういい加減それには慣れてんだよ!)


尋賀は急ブレーキで、その場で止まると、尋賀の前に苦無もどきが交差し地面に刺さる。


「沈めよ!」


尋賀は肩に目掛けて鉄パイプを振り下ろし、男の肩に見事にヒットした。


「……なぜ首や人体の弱点を狙わない」

「は? んなことしたら死んじまうだろーが」


この点は尋賀の成長した点だ。昔は人殺しはしたことはないものの危険な場所を狙って攻撃していたが、今はそういった場所には攻撃していない。例えどんな相手でも。


「我は気にはせぬ。持てる全力を出すがよい」

「応えてねえーのな」


たらりと一筋の汗が頬を伝う。

尋賀は距離をとって、鉄パイプを構え直す。手応えとしては骨は折れていなくとも、もう少し反応があっておかしくないハズだ。なのに眉一つ動かない。


「それで他に質問することはないだろうか」


尋賀は戦いの途中だが、男の発言に拍子抜けし、どこか落胆した表情になる。この男は騎士団長……グレゴワースに話し方が似ており、さらに強さもグレゴワース以上だと感じる。

だが、グレゴワースが頭の固いという印象が強いのに対し、この男は……。


(ボケ担当かよ……)


尋賀はこの男とグレゴワースが隣に並んで漫才をする姿を思い浮かべてしまい、すぐに首を振ってイメージを消そうとする。


「何度でも打ち込むが良い。魔法の加護がある限り我は無傷だ。心配する必要はない」


そう言って男の目の前には宙に浮いた槍が八本、どこからともなく現れる。

男はそれを指と指の間に挟んで、全ての槍を持って構える。


(槍の八刀流ってか! んなもん打ち込みたくても無理だっつーの!)


今まで一切動かなかった男がついに動き出す。男は両手に持った槍を振り回し、八本の槍が尋賀に襲いかかる。


(無茶苦茶すんじゃねーよ!)


槍の射程圏内に入れば躱すことも鉄パイプで受け止める事も難しい。

尋賀は男に背を向けて走る。


「なければ我から質問だ。お前達はコネクターズカオス現象をどこまで知り、どうしようとしているのだ」


男は槍を振り回しながら、男の方から質問して来る。だが、質問している間も休むことなく槍を振り回し、尋賀に余裕を全く与えない。


「聞きたきゃあ止まれよ!」

「我々は戦いをしているのだぞ。止まるわけなかろう」


じゃあ戦いに集中してろよ、と尋賀は心の中でツッコンでも向こうはどちらも止めようとしない。男は逃げる姿勢を続ける尋賀に余裕な表情を見せつつ、八本の槍を振りかぶり投げる。槍は回転しながら尋賀に向かって飛んでいく。


「うおッ!」


彼は飛んできた槍を飛びついて躱す。ギリギリで、もう少し反応が遅れたら先端の刃が刺さっただろう。尋賀は急いで立ち上がり、顔には余裕が完全に消え失せていたが、それでも男に負けじと戦いの途中で質問を答えようとする。


「オレ達はこっちの世界に来る時にコネクターズカオス現象の発生率が高くなっていることに――」

「行くぞ!」


男は手を尋賀に向ける。その手からナゲリーナと同じように火球が飛び出し、尋賀に飛んでいく。ただナゲリーナと違う点はいつもの幾何学模様が存在しないことだ。


「いい加減に……しやがれ!」


さすがに怒った尋賀は鉄パイプを左手で持ち、左手を鞘のようにして居合抜きの要領で火球を真っ二つにする。火球は尋賀のすぐ目の前で爆発し、黒い煙を吸い込んでしまう。彼は咳込みそうになるが、意地になってそれを我慢する。


「こっちの世界に来た時に魔王様がコネクターズカオス現象が高くなっててオレ達はコネクターズカオス現象で世界が滅ぶと聞かされて、それを阻止しようとしてる最中……」


そこまで一気に言い終えた尋賀は、煙で喉を痛めたのか、咳き込んでしまう。


「では次だ。我の魔法に耐えて見せよ」


男は手を高く天に向けて上げる。そして、パッチンという音が草原に鳴り響くと、空を埋め尽くすほどの武器が浮いている。刃を持ったものから銃口を持ったもの、果ては見たことのない武器まで数多く揃えられている。

尋賀は逃げようとしたが、彼の目の前に炎が噴き上がる。それはまるで行く手を阻む壁のようで、彼は別の方向から逃げようとするが、四方八方から炎が邪魔をする。


(囲まれた!?)


完全に逃げられなくなった尋賀に、残された逃げ場は炎の壁を越えること。鉄パイプを両手で握りしめ、炎の壁に突撃する。


「なっ!? 炎じゃねーのかよ!?」


鉄パイプが炎に触れた瞬間、本物の壁にぶつかったかのように弾かれる。これでは完全に尋賀の逃げ場を失ってしまったことになる。


「おい! てめえはオレを殺したいのか!?」


尋賀は壁の向こうにいるローブの男に話しかける。男は、すぐに答えを返す。


「我は力を試しているのみ。ただ本気を出さねば死ぬぞ」

「いや、本気を出しても死ぬから」

「……これは戦いだ。貴様が死ぬギリギリまで全力を出さねば失礼かと思ってな」

「ああ、そりゃあ感謝してるぜ。おかげさまで余裕で死ねるからな。……もうひとつ聞いていいか?」

「なんだ?」


このような絶望的状況で尋賀は、強気でいようとする。


「てめえは何者だ?」

「我は神と呼ばれる人間。世界を管理し、コネクターズカオス現象によるトラブルを解決するため、異世界を飛びまわる者」


男は再び指と指を擦り合わせ、乾いた音が鳴り響く。それと同時に空から無数の武器が降り注ぎ、発射され、作動し、発動する。


(いくらなんでも強すぎだろ……)


彼の知る誰よりも強い……どころか同じ人間と思えぬ相手の強さに尋賀は奥歯を噛みしめることしか出来なかった。


「……気ィつけろよ。オレは首だけになっても髪の毛一本になってもてめえに襲いかかるぜ」


壁の外にいる男に向かって、負け惜しみを言う。ただの人間では到底敵いそうにもない相手だった。




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