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狩りの時間

「完成だ! 見たまえ皆の衆! そして私を褒め称えるのだ!」


勢いよく扉を開ける美玲。その手には紙に描いた服と同じものを見せつけるように持っている。


「はえーよ。騎士殿は何やらしても完璧だな」

「いや、後は貴様、坂巻 尋賀を完全に超えることができれば完璧なのだが」

「はあ? オレなんてできることなんざぁーほとんどねーよ。これでもただの人間だからな」

「……私の憧れなのに」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでもないぞ! それよりも早速着てみてくれ、ルシェール!」


彼女の大きな声に、ルシェールは目を覚ましたのか、小さくあくびをすると、まだ眠いのか、もう一度寝ようとする。しかし、そんな彼女の気持ちを無視し、美玲は肩を強く揺する。


「さあさあ、その目を開けて見てくれ!」

「ふあ……。眠いの」

「ふむ、ならば強引に着せるまで!」


美玲のその言葉に尋賀と優作はこれから何をするのか直感的に分かってしまった。二人は黙って部屋から出て行く。そして間もなく部屋の中から奇声が響き渡る。


『ちょっと!! 何するの!! 服を引っ張るななの!!』

『サイズを間違えていないか早急に確認しなければならぬ! さあ服を脱ぐのだ!』

『ちょっ! 自分で脱げるから離すの! って、ふぎゃああああああ!』


中で何が起きているのか。尋賀と優作は一緒になってただただ頭を抱えている。


「何をしている?」


声と同時に廊下の数ある扉のうちの一つが開き、ナゲリーナが顔を覗かせる。


「騎士殿とのの女が暴れてんだよ」

「好きにするといいとは言ったけど、暴れられるのは迷惑」


ナゲリーナはそう言って、扉のドアノブを掴もうと手を出す。だが尋賀は扉の前に立ちはだかる。


「魔王様、この先は子供が見るには刺激的だからな。しばらく待ってくれ」

「だからと言って暴れられては困る」

「もうしばらくの辛抱だから我慢な」


しばらくとは言ったものの、そんなに時間は経たずに尋賀の背にある扉が開く。美玲が先ほどのナゲリーナと同じように顔を覗かせる。


「おおー! 魔王、ナゲリーナも来たか! では早速私の作品を見てほしい!」


美玲は手招きしながら言う。

全員が部屋に集まると、部屋には美玲の作ったという服を着たルシェールが立っていた。


「くっ……! 強引なの! 服なら自分で着れるの!」


ルシェールは腰をさすりながら怒っている。美玲とのやりとりしてる時に腰をどこかで打ったらしい。


彼女の新しい衣装は、美玲のデザイン画とほとんど同じだった。

足下にまで伸びる燕尾服のようなデザインの青い服に、首から伸びる一本の紐のようなもの。細部の何から何までほとんど忠実に再現している。


「元とはいえ、騎士団の服を異世界の騎士が着るとは! 感慨深いものがあるぞ!」


美玲の言う騎士団の服とは、彼女の妄想の騎士団のことだろう。


「黙れなの! 痛い目にあった上に、辱めを受けたの!」

「わりー、のの女。騎士殿は自分の妄想で周りが見えなくなる時があるから」


尋賀は美玲の代わりに謝る。しかし、美玲はお構いなしだ。


「ではルシェール! その場で一回転してくれ!」

「え? いいけどなの」


彼女はその場でバク宙をして見せる。華麗に空中で一回転し、華麗に着地する。


「ぬ! その格好でバク宙も中々! しかし私がやってほしいと言っているのは、ターンのことだ」

「……分かったの」


そう言って、ルシェールは言われるがまま、その場で一回転する。彼女の動きに合わせて服の長い部分や、ルシェールの髪の代わりだと言う紐もまた動く。


「おお! 我ながら上手く完成したぞ!」

「……まあ、これくらいで喜ぶなら、また着てやるの」

「ならばもっと服を作ろうではないか! まだまだアイディアはあるぞ!」

「やーなの! 落ち着いてないとやーなの! でないと背中、また痛い目に合うの!」

「む……すまない。だが私の作りたい服はまだまだあるぞ!」


そう言って、美玲は部屋から出て行こうとする。

そんな彼女を優作は呼び止める。


「ねえ、美玲。服はいいけどお腹空いてきたよ」

「そんな時間か? 時が経つのは早いものだ」


優作は空腹をアピールする。

陽の届かない地下であるが故に、現在の時刻が分からない。

当然、夕食の時間は感覚で決めなければならない。


「そうだな。腹ぁー減ってきたし、飯食うならちょうどいいかもな? 魔王様、食料は?」

「……化石化してた」

「……外で調達すっか」


尋賀はため息を吐きながら、立てかけてある鉄パイプを手に取る。


「騎士殿、肉、調達しようぜ」

「うむ。ならば地上に出るか。ルシェール、君もついて来るといい」


彼女も弓と矢の入った袋を持って、ルシェールに話しかける。


「うーん、そんな面倒なのは嫌なの」

「そんじゃー、食器用意するとか、火でも起こすか?」


今度は尋賀が尋ねる。


「それも嫌なの」


ぷい、とそっぽを向くルシェールに、顔には出ていないものの、尋賀は少し怒ったようだ。


「おい、騎士殿。のの女の分はいらねーってよ」

「さーて行くの!」

「手のひら返し、早いことで」


感心してなのか、呆れてなのか、尋賀は何も言わずにいる中、ルシェールは一足先に出て行く。

美玲も弓と矢が入ったお手製の袋を担ぐと、尋賀と一緒に彼女の後をついて行く。


ーーー


「では、狩りを行う。私の指示をちゃんと聞くように!」

「へいへい、そんじゃー頑張りますか」

「狩りなんてやったことないの。やる気起きないの」


モチベーションがバラバラな三人。

ちなみに残りの優作とナゲリーナは地下の方で、食器と、生き残った調味料を調達している。


「では私の言うとおりに行うように」


美玲は右手に弓を持ち、左手に矢を持つ。

近接戦闘で有利に戦えるようにと、両利きになるように訓練した結果である。


「まずは風向きを確認する!」


美玲はまず指に唾をつけて、手を上げる。


「次に獣の匂いを確認する!」


そう言って匂いを嗅ぐ。


「そして射つッ!!」


矢を放ち、矢は山なり軌道で草原のはるか彼方に飛んでいく。最後に矢は垂直で立っている。目を凝らすと、猪の頭に命中したらしい。


「……と、まあこんな感じで覚えてくれればいい。簡単だからすぐにできるようになるぞ!」

「無理なの!」

「無理だって」


尋賀とルシェールは同時にツッコム。


「そんな簡単にできるわけねーだろが」

「む! 私の指導のどこがいけなかったのだろうか」

「んなもん、世界中のどこを探してもてめえしかできねえ狩りの方法だろうが」


美玲は考え込むが、分かっていないようだ。

尋賀がもういいからと言うと、美玲はマントのような服の裏側から、肉の解体用のハンティングナイフを取り出し、猪の元に向かう。


「ったく、騎士殿みてえにやってみてーよ」


と、尋賀は呟いたところで、彼は悪寒を感じる。

昨日の夜に外で寝た時にあった岩。なんの変哲もない岩であるそこに何かがいるような気がした。


「異世界の狩りはあんなことが出来るの? ……サカマキ、どうしたの?」

「……なんでもねえよ」

「随分と険しい顔してるの」

「大丈夫だって。多分な」


尋賀はそう言って、美玲の元に走っていく。

何者かの視線から少しでも離れるように。




現在、今まで書いていた話をもっと良くするために、一話から編集し直しています。

作品をもっと良くして、多くの人に楽しんで読んでもらうため、見直し作業が終わるまで、しばらく更新をストップさせてもらいます。

今まで楽しんでご覧になっていた方には申し訳ありませんが、物語はまだまだ続きますので、その時を楽しみにしていてください。

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