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世界のために

「そんじゃ、次はどうすりゃーいいんだ」


尋賀のその質問に答えることなく、ナゲリーナは魔導砲の側に近づく。


「次はコネクターズカオス現象を利用して世界の狭間に行く」

「あん? つまり、作業はオレ達の世界でやるのか?」

「違う。世界は様々な次元に存在する。こちらの世界とあちらの世界は次元がどんどん近づいているからコネクターズカオス現象が起きる。わたし達は魔法で、強制的にコネクターズカオス現象を起こし、その二つの次元の間に行き……その次元を消滅させて引き離す」

「……それ、やっちまったら消滅させた次元の世界はどうなるんだよ」

「それなら問題ない。そこは何も存在しない世界。犠牲の話をしているなら、何も問題ない。ただ問題なのは……」


珍しく彼女の声は感情のこもっていた。

しかし、それはひどく暗く、落ち込んだものだった。


「強大な力ってやつか? 次元を消滅させる程の」


尋賀は前にナゲリーナの言っていたことを思い出す。彼女が言うには魔力が足りないらしい。


「そう……。それが致命的に足りない」

「じゃあ方法はねえのかよ?」

「あるにはある。だけどほとんど賭けになるのは覚悟しなければならない」

「前に『強すぎず、弱すぎずの絶妙な力』って言ってたな」

「……破壊する次元が、両方の世界に隣接している。もしかしたら力の余波が届くかもしれない。だから、二つの世界が無事に存在し、間の次元を消滅する事を成功とした場合、その成功率は……」


彼女の言葉を、全員は息を飲んで聞いている。

ほとんど聞いたことのない、この暗い声から、その答えはほとんど分かってしまう。


「僅か1パーセント。つまり、奇跡でも起こらない限り二つの世界は……消滅する」


その言葉に全員が暗く沈んだ顔になる。

どう足掻いても成功しない確率を宣言されてしまった。

100回、挑戦して1回成功する確率を、やり直しなしで挑戦しなければならない。

それは不可能と言われているのに等しかった。

全員の暗く沈んだ顔が、諦めているようだった。

しかし、一人だけ……暗い顔一つせず、尋賀だけは諦めてはいないようだった。


「それで、1パーセントってのは分かった。んじゃあ、それ以外に世界を救う方法は?」

「……どちらかの世界を消滅させること。力が大き過ぎても余波が届くことはない……つまりは問題はない。それで二つの世界がぶつかり合う事はなくなる」

「んじゃ、1パーセントに賭けてみっか」


すぐさま、尋賀は答えを出した。迷うことも、悩むこともなく。


「尋賀、1パーセントだよ!? そんなの、ほとんど成功しないじゃないか!」


ほとんど諦めの言葉を吐く優作。1パーセントの確率などないに等しいものを信じられなかった。だが、尋賀はそうは思ってはいないようだ。


「うるせえーって。成功率が1パーセントもあるんだ。まだ高いほうだろ?」


美玲もまた、尋賀に詰め寄る。


「高いと言われてもだな。助かる可能性があるならば、どちらかの世界を消滅させた方がいいのではないか!? 十割と1パーセントでは十割のほうが圧倒的に良いに決まってる!」

「それ、生贄って言うんだぜ? じゃあ片方の世界の人間は、もう片方の人間のために死ぬことになるだろうが」

「む……。そこまで考えていなかった」


美玲は引き下がる。

入れ替わるようにルシェールは提案する。


「それなら片方の世界の人間を全て、もう片方の世界に全員移すの! それなら問題ないの。うんうん、私って天才なの」

「なに一人で納得してやがる。どうやって世界中の人間全員を、もう片方の世界に連れてくるんだよ。そもそも今が世界のピンチって言われて、信じる奴がいるかっつーの」

「そ、そんなことないの! 全員に呼びかければ全員、応じるの!」

「……いいか? 人間、ピンチにならねえと、今の状況が理解できねーんだよ。狼が来てるって言われるのと、狼が目の前にいるのとでは、信用性が全然違うだろーが」


尋賀はそう一蹴すると、全員に向かって言い始めた。


「オレ達の選択肢は3つ。1パーセントに賭ける。何もしねえ。どっちかの世界を犠牲にする。これのどれかだ」


尋賀は三本の指を立てて、全員に見せる。


「でもな、世界が滅ぶのを黙って指くわえて待っていられる奴はいねえだろ。だからと言って、オレはどちらかのために、どちらかを犠牲になんてさせねえ」


そう言って尋賀は二本の指を折る。彼は涼しい顔をしながら続ける。


「なり行きだけどな、オレ達が背負っているのは、二つの世界分の数百億くらいの命だ。それだったら誰一人犠牲にせずに、両方の世界、救おうぜ。これが0パーセントだったら、諦めなくちゃーならねーけどな。だけどな、まだ1パーセントも世界を救えるからな」


軽い口調で言う彼の話を全員は前を向いて聞いている。


「なーに、数百億の1パーセントは、数億。だったら成功率は数億パーセントだ。数億パーセントならぜってえ成功するだろ」


彼の根拠のない自信に無茶苦茶な理論に励まされたかのように、全員が暗い表情をしていなかった。ナゲリーナも含めてさっきまで落ち込んでいた表情が嘘のように。


「……元より、わたしは片方の世界を消滅させるつもりはない。魔導砲を調整して、成功率を上昇させる」


ナゲリーナは早速、魔導砲の側に寄って、壁に貼付けられた設計図のようなものを目を凝らして見ている。


「生きている限り、平等じゃないと。そんな大事なこと、ボク、忘れてたよ。数億パーセント理論は無茶苦茶で意味不明だけど、君の言う通りだと思うし」

「ふむ、そうだな。私は何を怖じ気ついていたのだろうな。我らの力が集まれば、世界の一つや二つ、救うことなど容易い!」

「私の生きることのできる世界がなければ、困るの! 仕方ないから協力してやるの!」


尋賀の無茶苦茶理論と言っても納得する優作に、いつものように自信満々の騎士の演技をする美玲、そして仕方ないというものの敵対していたときよりも協力的なルシェール。


「んじゃあ、全員オレの意見に賛成ってことでいいな」


尋賀が言うと、全員頷く。

そして少し離れた位置にいるナゲリーナは、全員に聞こえやすいように少し大きめの声で告げる。


「これから一週間掛けて、魔導砲を強化させる。その間、色々手伝ってもらう」


ーーー


尋賀達は、ナゲリーナに案内されて、扉を開け、部屋に入る。

そこは大広間で、木製で出来た机や椅子、研究資料や、娯楽本、それから浴場に繋がる扉など、人が生活をするのに適した空間だった。淡い水色で塗装された壁や床のおかげで、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。

ここが地下であるため陽の光を浴びれないことと、先ほどの生活という言葉の後ろに最低限の、という言葉がつく欠点もあるが。


「この部屋で好きにしているといい。わたしはしばらく魔導砲の強化、改造をしている。何かあれば言いに来るといい」


ナゲリーナはそう言うと、一人、部屋から出て行く。


「さてと、急にやることなくなったな」


尋賀はそう言って、その場で仰向けに寝転ぶ。


「くつろぎすぎじゃない?」

「まあ、いいじゃねーか。どうせこれから一週間、ずっとここにいるんだろうからさ。少しでもゆったりとしねーとな」

「……ねえ、尋賀。その……やることがないんだけど」


優作は少し退屈そうな表情だ。


「そうか? 寝たり、筋トレとかできるだろ」

「君はそういう生活で毎日暮らしてただろうけどさ」

「ま、しゃーねーだろ。魔王様、信じて待とうぜ」


その一言を聞いた優作は不安からか、ため息をつく。


「これから一週間、ボク達、五人で共同生活か」

「む、不満なのだろうか。今までだって、家に泊りに行ったりしたではないか」

「いや、まあ、そうだけど……」

「別に人数が増えただけで問題なかろう!」


その二人の会話を聞いていたルシェールは勘違いする。


「もしかして、ヤナギとアマギの二人はできてるの? あー、そう言う関係なんて気づかなかったの。お幸せに、なの」

「違うよ! ただ単に遊びに来てるだけだから!」


あらぬ誤解をされた優作は、慌てて訂正する。だが彼女の勘違いは悪化するだけだった。


「遊びの関係なの!? 許せないの! 女の敵なの!」


そう言って彼女は細剣を今にも抜こうとしている。


「違うよ! いや、違わなくもないけど、とにかく違うよ! ボク達は、何もやましいことも、何もしてないから! 雑談とかして遊んでるだけだから!」


ジト目で睨みつけるルシェールに、追い詰められていく優作。実際にやましいことをしている訳ではないが、剣で脅されたら焦りもする。

そして、それを訳も分からずに傍観してる美玲。

事態を収拾できなくなって来たので、尋賀は仕方なく、起き上がり、助け舟を出す。


「大丈夫だって、のの女。オレたちゃーそんな関係じゃねーよ。そんな関係だったらオレ達のほうが頭、抱えてるっつーの」

「どういうことなの? どうしてサカマキが頭を抱えるの?」

「んなもん決まってるだろ? 騎士殿が女に全然見えねーからだ。顔が良くても、中身があんなんだからな。……てか馬鹿だと思ってたけど、名前覚えれたのかよ」


急に話題を変える尋賀。こうして別の話題をすることで話を終わらせようという魂胆だ。


「馬鹿じゃないの! 人の名前を覚えるのだけは得意なの!」

「だったら魔王様の名前くらい覚えてよーぜ。得意だってんなら」

「ちゃんと覚えてるの! 魔王、シュヴァルツレーヴェなの!」

「いや、何とか・フォン・シュヴァルツレーヴェの何とかの部分を答えろって言ってんだ」

「……へんわきゅうだいなの! 話を元に戻すの!」


尋賀はいらぬことをつついたために、答えを出せなかったルシェールが逃れるように話を戻してしまった。


閑話休題かんわきゅうだい、な。強引に話題を戻すなって」

「それで、中身があんなんってなんなの?」


ここで話題が優作の女の敵の話題にまで戻らなかったのは、優作にとって幸いだろう。


「言ったろ、女に全然見えねえって。黙ってりゃー美人なのに、もったいないぜ」


尋賀の言っているのは性別ではなく、性格の問題で女に見えない、と言うことだった。彼の失礼な発言に、美玲は怒ることも、気にする素振りも見せない。

つまりは無反応。

続けて彼は言う。


「ま、安心しろって。オレと優等生、どっちも変な気は起こさねーし、起きもしねーよ。オレは基本的には喧嘩以外に好きなのは、ねえしな」

「……それでも変な気を起こしたら剣の錆にしてやるの」

「起こしたら、オレ達二人、魔王様に頼んで瓶詰めにしてもらうって誓ってもいいぜ?」


自信満々に言い放つ。


「そこまで言うなら信用できそうな気もするの」

「ボクを瓶詰めに巻き込まないで欲しいな……」


優作は眼鏡のブリッジを押さえながら呟く。彼は、動揺したときや自信を持って発言するときは眼鏡のブリッジを押さえる癖があった。

今回は瓶詰めにされると聞いて動揺して触ったのだろう。触ったときにルシェールが面白そうに優作の眼鏡を奪い、自分に掛ける。


「ちょっと、これクラクラするの! 度が少しキツイんじゃないの?」

「いきなりボクの眼鏡取らないでよ。……君たちの世界にも眼鏡、あるんだ」

「まあ普通にあるの」

「へえー。それじゃあ返して。それがないとほとんど目が見えないんだよ」

「やーなの! 返して欲しかったら取り返して見せるの!」


ルシェールは眼鏡を持った右手を挙げ、優作もまた手を挙げて取り返そうとするが、二人の身長差はほとんどなく、優作は眼鏡を取り戻すのに苦労している。

その子供のような行動に尋賀は苦笑いしつつ見守る。


「……眼鏡はこの世界にあるのか。考えてみりゃあ、オレ達はこの世界をほとんど知らねーんだよな」


走り回る二人を尻目に尋賀は考える。

そんな中で、退屈になった美玲が彼の思考を邪魔する。


「坂巻 尋賀! 暇だ! 決闘しようではないか!」


美玲はあまりにも突拍子もない発言をする。


「……決闘するなら、のの女が相手でいいだろ?」

「む、そうだな。よし、そうしよう!」


尋賀は適当にあしらうように言った提案にまさか乗るとは思わなかった。彼は呼び止めるように代案を出す。


「……危ねえから、やっぱ今のなしで。んな事よりも筋トレでもしようぜ」

「筋トレよりも実践形式の方が良いのではないか? 少しでも強くならねば、あの偽騎士団長とは戦えぬからな」

「倒したいのかよ。あいつとは、もう二度と戦う機会、ないんじゃねーの?」

「だが奴だけは許せぬ! 奴を必ず倒して見せる! だから私は強くなりたいのだ!」


美玲は怒っていた。彼女の思う騎士とは仲間を傷つけるものではないと信じているからだ。たとえ彼女の騎士の理想像が妄想でしかなくても、騎士団長がルシェールを傷つけたのは変わりはない。


「へいへい、んじゃ、筋トレすっか」


実践形式の方が良いと言う美玲を押し黙らせるように尋賀は言う。渋々、美玲は筋トレだけで承諾した。


「……どうせ異世界なら、一騎当千の強大な力か強力な武器を欲しいのだが」

「無茶言うんじゃねーよ。こういう地道な日々の積み重ねが人を強くしていくってな。千里の道も一歩からって言うだろ?」

「ふむ、そうだな」


尋賀は仰向けに寝転がり、腹筋を始める。

美玲もその隣で腹筋を始めるが、彼女は腹筋をしながら話しかける。


「今日も無限鍛錬か?」

「無限じゃねーよ。体が動かなくなるまで鍛錬してるだけだ」

「それが無限だと言うのに……。一体、一日に何時間鍛錬しているのだ」

「さあ、数えたことねーからな。二十四時間くらいだったか? それとも一時間くらいか?」

「……私は貴様と一緒に鍛錬して八時間で倒れた記憶があるのだが」

「そういやーそんな日もあったな。そん時みたいに無茶、すんなよ」


汗一つかかず涼しい顔をしながら尋賀は話す。


「くッ! 私は山籠りも経験しているのだぞ! 貴様に引けなど取らぬ!」

「オレの記憶が正しけりゃあ、その山籠りに何回か付き合った気がするけどな」

「だが回数の差が !」

「大事なのは回数じゃねえって。どっちが上か、だろ?」

「なら負けぬ!」

「へっ! オレも負けてられねー」


その言葉と同時に、二人の腹筋は激しいものになる。

美玲ならば尋賀に。

尋賀ならば美玲に、負けたくないという気持ちが二人の闘争心を燃え上がった。


「……もしかして、ボク達、このまま一週間、この調子でやっていくの?」


眼鏡を取り戻せないでいる優作は、取り戻すのを諦め、ポツリと呟く。


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