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騎士団の団長


「…………」


ナゲリーナは一人、何を考えているのか、虚空を見つめ続ける。

そんな彼女の姿を見た優作は、尋賀に問いかける。


「……ナゲリーナ、まだ泣いてるよ。もっと家にいればいいって君は言ったはずだよね。どうして出て行くのさ」

「ああ、言ったさ。でもオレ達には時間があまりねえんだ。悠長にしてたら時間切れするかもな」

「それでも彼女がお母さんと一緒にいる時間くらいはあるよね」

「だから言ってるだろ。……もうこれ以上は充分だって。あの母親のところにいつだって帰れるし、ナゲリーナもそれを望んでいる。世界さえ滅んでなかったらの話だけどよ」


とにかく、と尋賀は仕切り直す。


「とっとと行こうぜ。騎士達に見つかってめんどーな目にあってもいいってヤツがいるならもたもたしてやるけどよー」


美玲は辺りを見回し、騎士の姿を探す。


「……騎士などいないではないか、坂巻 尋賀」

「そんなはずねーと思うけど、騎士殿」


言われて尋賀も辺りを見回す。

美玲の言う通り、騎士と思われる人間や、武装した人間が一人もいなかった。

尋賀はこの光景が不自然にしか思えなかった。


「騎士団長が来てるって話じゃなかったっけか」

「ナゲリーナのお母さんの話だと、騎士団長の人と、北の方の定期的に来る馬車を騎士が見張っているようだね」


優作はナゲリーナの母親の話を思い出す。


「騎士団長が来てるなら大部隊でもおかしくないと、ボクは思うんだけどな……」


そして、彼もまた、尋賀と同じく不自然だと考えていた。

だが、考えても仕方ないものはどうしようもないと尋賀は飽きたかのような表情になる。


「考えてもしゃーねーだろ。さっさと行くぞ」

「尋賀、どうして君はもっと慎重に行動しないの?」

「今は考えて時間かけてたら見つかっちまうだろ。とっとと馬車の見張りをぶっ倒して、この村から出て行こうぜ」


尋賀はそう言うと歩き始める。

優作はため息を吐くと、尋賀の決断の早さも道理だと考え、ポケットからコンパスを取り出す。


「ちょっと待ってよ、尋賀。北は……あっちだよ」


磁石が北を指し、優作の指さしたのは、尋賀の反対方向にある建物だった。


「あん? 異世界で磁石なんてちゃんと使えるのかよ」

「使えないなら、『北』なんて言葉ないさ」

「……ちゃんと機能してるって言うなら文句は言わねえよ。あの建物、曲がって左か?」


優作が頷くと、尋賀は、さっきまで歩いていた道とは反対方向へと歩く。

四人は慌てず目立たないように、それでいて早めに歩いていく。

建物の角に差し掛かった途端、尋賀は後ろを歩く三人を止める。


「……誰かいやがる」


何人かの話し声が聞こえた尋賀は、ゆっくりと物陰から様子を伺う。

そこには三人の鎧の人物がおり、二人が一人の男に膝をついていた。


(あの膝ついてる奴ら、昨日の騎士じゃねーか。まだこの村にいやがったのか……)


二人の騎士は、尋賀が始めて異世界に来た時に戦った騎士だった。

膝をついている、長いブロンズヘアーで丸顔の女騎士は、一人の男に向かって大きな声で謝罪する。


「グレゴワース団長閣下、申し訳ないの! 魔王の討伐、及び魔王の研究所を発見できなかったの!」


女騎士は、見た目の年齢こそ尋賀達とほとんど変わりがないように見えるが、恐らく目上の人間であるはずの男に敬語を使わず、その話し声はまるで子供のようである。


「ルシェール! 団長閣下にその言葉使いはマズイですよ! 団長閣下、気分を悪くされたのなら申し訳ありません。我々は税金を払わない村民から税金の回収任務にあたっている途中、魔王を発見。即交戦致しましたが、緊急事態であることと、協力者がいたため、魔王討伐に至りませんでした!」


特徴的な曲がり方をした髭の男が騎士が膝をつきながら、頭を下げる。こちらは女騎士よりも十歳、二十歳は上に見える。


「あの白髪しらがを次こそは絶対に倒してやるの! 私もレングダも、まだ本気を出していないの!」

「ルシェール! 黙りなさい!」

「しゅん……ちょっと黙ってるの……」


怒られ、落ち込むルシェールと呼ばれた女騎士。

その二人を尋賀はこっそりと眺めている。


「……あの騎士達、なにやってんだ? っていうかあのゴツい鎧着て、タッパのあるカの字みたいな前髪の奴が騎士団長なのか」


尋賀の言っているのは、騎士団長と呼ばれている男だった。

身長が高く、整えられているのかそうでないのか分からない髪型は、シルエットにしたらカタカナのカに見えなくもないかもしれない。

結局のところ尋賀の適当な発言だが。


「ほう、この国の騎士団長だと? 坂巻 尋賀」

「カの字って言い方はひどいんじゃないのかな? 尋賀」

「わたし、騎士団長は一番嫌い」

「……おめえら揃いも揃って覗いてるんじゃねーよ。バレるだろうが」


尋賀は一緒になって物陰から隠れて見ている三人に嘆息するが、誰一人としてやめようとしなかった。

仕方なく四人で様子を見守っている中、ついに騎士団長が口を開く。


「お前たち二人の事情は分かった。しかし魔王に関する成果を得られなかった場合、お前たちには罰を与えねばなるまい」


団長のその言葉に、レングダと呼ばれた騎士の男は顔面蒼白になる。


「き、騎士団長閣下! 魔王討伐の失敗の責任は私にございます! ルシェールの上司である、この私が全ての責任を負います!」

「レングダ、急に声を荒げてどうしたの? なんというか声が上擦っているの……」


騎士団長は、全ての罰を負うというレングダを顔色一つ変えずに見つめる。


「貴様の部下の責任を負う覚悟、見させてもらった。しかし、この村の証言は既に集まっている。その結果、お前たちの刑は既に決まっている」


騎士団長は鞘から剣を抜く。


「魔王の討伐及び、研究所の発見に至らなかった騎士は除隊、並びに処刑だと騎士団の法によって定められている。お前たちは本日をもって騎士団の除隊式、及び処刑をこの場にて行う。罪人、レングダ・シェハー及び、ルシェール・ノノ。執行者、ブルエンス・グレゴワースが、罰をもって罪を制す」

「そんな……! 処刑なんて聞いていないの!」

「……騎士団の法には、そういうものがあるのです」


騎士団長は剣を持ち、二人の騎士に向ける。

鋼色に脈のように青白い光が走る剣。


「あの剣、わたし達の、『友情の証』……」

「あん? 確かどっかでそんなの聞いた事があるな」


ナゲリーナは隠れながら、目を見開きながら呟く。

心なしか、ナゲリーナがそわそわしているように見える。


「ちょっと尋賀! なんでそんな冷静なのさ!?」


今にも斬られそうな二人を優作は黙って見ていられなかった。


「冷静? オレは冷静にしてるんじゃなくて黙って堪えてんだよ。今飛び出す事が得策か? ちげーだろ。助けよーとしてる奴が今度は敵になるかもしれねえんだ。ほら騎士殿も飛び出すんじゃねぇぞ?」

「ええい離せ! 私の服を掴むな! この服はお手製なんだぞ! 破れたらどうするつもりだ!」


こそこそと助けに行こうとしていた美玲。彼女のマントのようなお手製の服を尋賀は掴んでいた。


「坂巻 尋賀! 今、助けに行かないでどうするつもりだ!」

「やめろ。オレだって黙ってみてられないんだよ」


尋賀は堪えるように言う。

今、飛び出して騎士を助けようとすれば、助けようとしている騎士の方から攻撃されるかもしれない。

第一、こちら側には魔王、それに魔王に協力した自分の情報が知れ渡っているかもしれない。

飛び出しそうになる自分と仲間達を必死に抑え、状況を判断する尋賀。

しかし、尋賀、優作、美玲の三人の気持ちがどうにかして助けようとする方向に傾いていた。

ナゲリーナは騎士の二人を助けようという気が微塵もなかったが、騎士団長の剣に強く反応して、彼女もまた飛び出そうとしていた。

結局は全員飛び出したいのだ。それを必死に堪えている。


「まずは除隊式を行う。女性騎士の除隊は髪の毛を切るのが伝統だ」


ルシェールの髪を騎士団長は強引に引っ張る。

頭髪を引っ張られる痛みから、悲痛な叫びをルシェールは挙げる。


「痛い! 痛いの!」

「やめてください騎士団長!」


レングダは騎士団長にやめるように懇願するが、聞く耳を持たずに騎士団長はルシェールの髪を剣で切る。

ルシェールの長かった金髪の髪は、短髪になり、その髪は肩のところまでしか届いていない。

騎士団長が切った髪は風でさらさらと飛んでいく。


「い、痛いの……」


頭を抑えながら、涙混じりに呟くルシェール。

騎士団長は非情にも、ルシェールの首筋に剣を向ける。


「次は処刑を行う。抗うなよ」


騎士団長はゆっくり、ゆっくりと剣の切っ先をルシェールの首筋に近づけて行く。


「ちょっと……嫌……やめてなの!」


ルシェールは尻餅をつき、涙を浮かべながら恐怖に支配された顔になる。


「騎士団の一員なら潔く自決すればいいのだが、やはりお前達にはその覚悟はないのだな。お前も騎士団の任務で人の命を殺めたのなら、自らの命を捧げることも容易いはずだ」

「!……それでも……死ぬことは怖いの……」

「そうか。騎士としての資格すらも持っていなかったのだな」


騎士団長は剣を振り上げる。


「ノヤロォー!!」


尋賀は走りだす。

我慢の臨界点を超えたらしい。

同じ気持ちの美玲、優作も走り出す。

尋賀は布から鉄パイプを取り出しながら、距離を詰めて行く。

しかし、無情にも剣は振り下ろされ、鮮血が宙を舞った。


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