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伝説の不良

尋賀は今日の出来事の全てを優作に話した。


「異世界……魔王……」


優作は尋賀の話を聞いて驚愕している。


「なんで黙ってたんだよ……って当然かもね」

「だろ? 言ったら混乱招くかもしれねえし、美玲の妄想に影響されたって考えるのがオチだろ」

「そうだね。流石に魔法とあの魔物を見ない限り信じられないね」


尋賀は眼鏡のブリッジを一度上げ、再確認をする。


「それで、話を聞く限りでは君は異世界に興味はなかったはずだ。それなのにその考えを覆して異世界に行くと言い出した。それはなぜだい?」

「……オレの事をよく分かっている優等生なら言わなくても分かってんじゃねーの?」

「ただ単純な強さ。考えもいらない、理由も根拠も何もかもがいらない。

ただ力を求める。戦いが心を癒してくれる。戦いの中で楽しさを求める。力で何もかもが解決できる。君がかつて今よりも荒れていた時にそのように言った。君は今でもそうだと言うの?」


尋賀はコクリと頷く。ちょうどその頃に家の外が騒がしくなってくる。

魔物との戦いが原因でアパートの庭に穴が空き、空には炎のドラゴンが空を飛んでいった。

それを目撃した人がアパート付近に集まり、庭の穴を見て立ち止まり、人が人を呼び寄せ、どんどん騒ぎは大きくなって行く。

しかし、二人は外の声を気にも止めず話を続ける。

今の騒ぎなど二人の重要な会話の前ではただの雑音にもならないのだろう。


「オレはな、こっちには知り合いがいるし、住み慣れた家がある。だから初めはこっちに戻りたかったんだよ」

「それで異世界からこっちの世界に帰りたかったんだね」

「ああ。でもオレは知っちまった。異世界の奴は強い。だったらオレはもっと高みに行けるんじゃねーかってな。今日の勝利は魔物二匹に男の騎士の三勝。敗北は女の騎士に美玲、それからジジィに三敗だ。こんなんじゃダメだ。もっと強くならなくちゃーよ。でねえーと……」


尋賀は少し間をおいて続ける。


「オレを捨てた親、殺せねえからな」


その言葉を聞いた優作は悲しげな表情になる。


「まだ……殺したいって思ってるの? 君は過去の過ちを悔いてるんでしょ? そんなの矛盾してるよ!」

「言ったろ? オレは確かに自分のやった事を悔いている。それでも心のどこかに親への憎しみがあるんだ……」

「尋賀……」

「オレは異世界に行く。そんで強くなる。オレの心もそこで決着をつける。それがオレの異世界に行く理由だ。自分の辛いこととかどうにもならねえ事にぜってぇ目を逸らして逃げたりしねぇ。異世界で何もかもを忘れて生きたいなんて思わねえ。だけどオレは行かなくちゃならねえ。ちょっとした武者修行ってな」


尋賀は自身の覚悟を吐露した。

優作は何も言わずにただ聞いていた。


(君は……今でも変わらないんだね……。あの時から……)


ーーー


三年前。

とある路地裏で何人もの男達が倒れている中、一人の少年が財布のお金を数えている。


「ひー、ふー、みー。うお! こいつ金、持ってんじゃん」


少年は倒れた男から奪った財布を自身のポケットに入れる。


「さーてと、とんずらとんずら」

「ちょ、ちょっと待ってよ」


鉄パイプに簡素な布を巻き、その場を離れようとする少年の腕を優作は掴む。


「あん? てめえなんのつもりだ?」

「助けてくれて……」


ありがとうと繋げようとした矢先、少年は先に声を挙げる。


「はあ? てめえなんて助けたつもりないっつうの」

「でも……」

「うるせえ! しつこいとお前も殴るぞ!」

「ねえ! 君、名前は!?」


観念したのか、少年は白髪と黒髪の混ざった髪を掻く。


「オレの名前は坂巻 尋賀だ! 分かったらさっさとどっか行けっての!」


ーーー


その事件から一ヶ月後。

街中にて、優作はこちらに歩いてきた白髪と黒髪が混じった男、坂巻 尋賀に話かける。


「……またあったね?」

「あん? なんだぁ? 待ち伏せなんかしやがって、オレへの報復に来たやつか?」

「違うよ! ボクは君にちゃんとお礼を言いに来たんだよ!」


尋賀はお礼を言いに来たという優作に対して睨みを利かせる。優作は尋賀の威圧感で、思わず腰が抜けてしまい、その場に尻餅をついた。


「ひっ!」

「てめぇ、なんか弱そうだな。 おめえなんか憂さ晴らしになんねーっての。金でも置いてとっととどっか行けよ」

「だ、だからボクは君に!」

「だーもう、ウゼェ! 金がねえなら本当ッウゼェんだよ! 雑魚をサンドバックにしてたら面白くなさすぎて反吐が出るって! オレはもう行くぞ!」


尋賀の言葉は、本心だった。今の尋賀は捻くれて本心を内側に隠すものの、善悪の区別がつく人間なのに対し、この時の彼は他人を傷つけても屁とも思わない人間だった。

尋賀は気を悪くしたようにすぐにその場を去る。

その日は彼にお礼を言うことができなかったものの、優作は次の日も尋賀に会いに来た。


「あの……」

「あん? なんだぁ? ……どっかで見た気がするな?」

「昨日もこの場所で会ったんだけどね……」

「へっ! 興味ねえ事は思い出さねえ主義なんだ。オレの復讐以外に興味はねえ!」

「復讐って?」

「親を殺すんだよ。オレを捨て、惨めな人生を送る羽目になった親をな! 奴らのせいでオレは家もねえ、毎日命がけで! ……って、なんでオレはこんな奴に話してんだ? オレはもう行くぞ」

「ちょっと待ってよ!」


尋賀が行こうとすると優作も着いて行こうとする。

だがそんな彼を尋賀は蹴り飛ばした。


「あぐっ!」


急所は外してはいたものの、脇腹に激痛が走る。


「邪魔だっての!」


尋賀はそう吐き捨てるように言って、彼はその場を後にした。

また翌日。

優作は今日もしつこく同じ場所をきていた。

不良狩りの坂巻 尋賀。

路地裏のカツアゲ現場を狙って狩りをし、カツアゲする不良からカツアゲする戦闘狂。

彼には住む街が存在せず、しばらく決まったルートを徘徊しては、次の街へと旅立つ不良。

彼に挑もうとする不良も存在するが、決まった移住先が存在しないために、自分から出会うこともできない。

そのため、『伝説の不良』と都市伝説のように語られ、彼が一度道を歩けば、彼に襲われた被害者だけが残っているという一種の怪奇現象のようなものだった。

そんな男に礼を言う。

あまりにも無謀な行為だったが。


(今日で最後にしよう……。ってなんで思っちゃったのかな?)


優作は昨日、尋賀に蹴られた場所が痛み出す。

昨日の時点で彼にもう一度会ったところでまた蹴られるだけだから、と思っていたが、今日の朝になるともう一度来なければならないような気がした。

何故だか、尋賀の事を放っておけない。そんな気がしたのだ。

仕方なく彼は尋賀の徘徊ルートを待っているが、何故か今日はいつもよりも遅い。


(噂だと、鉄パイプを持った、『伝説の不良』は、ある程度徘徊すると次の街に行くらしい。もう、この街にはいないのかな?)


優作がそう思った瞬間だった。

いつものように尋賀は歩いてくるがどこか様子がおかしい。

布に入れた鉄パイプを持っておらず、いつもよりフラフラと歩いており、今にも倒れてしまいそうだった。


「ク……ソ……ジジィがぁ……!」


尋賀はうわ言を口にすると同時にその場に倒れた。


「ねえ、ちょっと!?」


優作は倒れた尋賀に駆け寄った。


ーーー


今日もまたカツアゲ現場に直面し、ちょうどいいと思っていたところだった。

尋賀が不良達を叩きのめす前に、不良達は地面に沈んでいった。

八十路に見える男が一人、木刀一本で全滅させたのだ。

それを見た尋賀はすぐに狂喜した。


(このジジィ、最高に楽しめそうだぜ!)


血が滾る、心の中の狼が牙を向ける。数年の時が磨いた自身の野生が、本能が極上の獲物を見つけた興奮を燻らせる。

尋賀はすぐに鉄パイプを布から取り出し、男に振り下ろした。


「なんじゃい。随分と活きの良いのが残っておるのう」


男は木刀で鉄パイプを受け止める。


「お前、最高に楽しめそうだぜ! おらぁ! 沈めよ!」


尋賀は何度も何度も鉄パイプを振り下ろす。

男は木刀を両手に持ち、余裕の表情で受け止める。


「なんじゃい。力に全て頼っておるのか。対したことないのう」

「言ってくれるじゃねえか! だったらこれはどうだッ!」


尋賀は腹を目掛けて蹴りを入れる。

だがその蹴りを男は脛で受け止めた。


「何ッ!」

「なんじゃ? それがどうかしたのかのう?」


尋賀は鉄パイプを持ったままバク転で距離をとり、即座に鉄パイプを構える。


「今のはなかなかの動きじゃ。そんな重い武器を持ちながらよくそんな事ができる」

「へっ、こんなくれぇー当然だっての」

「そう謙遜することはないぞい。

初心者がそれをすると手首を捻るんじゃ。 その上で片方の手は武器を持っておるからのう。 その状態で地面を手につければ常人なら怪我をしておったはずじゃ」

「本当かよ」

「さて、どうじゃろうな?」


尋賀は鉄パイプを数回素振りする。


「どっちでもいい! オレはてめえをぶっ倒す! オレは強くなるためにな!」

「なんじゃい。どおりでそこそこ強いと思ったら強くなりたいのかのう? どうして強くなりたいのか話してみるんじゃ」

「……オレはなぁ! 親に捨てられたんだよ、飢え死にしかけたんだよ! 生きるために強くなった! そんでオレはオレを捨てた親を探し出して……殺す! そのためにオレは強くなる!」


尋賀の言葉には憎しみが、黒く大きくなった憎しみが混じっていた。

男は黙って尋賀の話を聞く。


「オレは強い奴をぶっ倒してオレは強くなる! クソジジィ! てめえもだ!」


尋賀は走りだす。


「うおおおおおお! クソジジィがぁ!」


尋賀は勢い良く走り、ジャンプして身体を半回転させながら鉄パイプを地面に叩きつけるように振り下ろす。

鉄パイプの先が男の頭に直撃する。男の額から血が垂れ始めるが、男は倒れずに立っていた。


「なんじゃい。 軽い攻撃じゃ」

「なんで……沈まねえ!」

「お主が弱いからじゃ!」


男は木刀を振り下ろす。


「がっ!」

「他人を傷つけて得た力がその程度だからじゃ!」


男は尋賀を蹴り飛ばす。


「ぐはっ!」

「何人傷つけた!? お主の生き方にどれだけ人が巻き込まれたのじゃ!?」


男は立ち上がる尋賀を木刀で何度も叩く。


「がっ! ぐぅ!」

「お主は親がいないという不満を誰かにぶつけたいだけじゃろ! その程度など、強さなどとは言わん!」


男は木刀を振り上げ、尋賀の顎に直撃する。

尋賀は吹き飛び、背中から地面に落ちる。


「ガハッ!」

「どうじゃい。 これが力の差じゃって」

「クソ……がぁ……ぁ……」

「……来週、またここに来るがよい。強くなりたいのなら、お主をわしの弟子として、息子としてお主に生き方を教えてやるわい。 よく考えておくのじゃ」


それまでこれは没収じゃ、と男は言うと尋賀の鉄パイプを持ってその場を離れた。

尋賀は男が去った後、ゆっくりと立ち上がり、フラフラと歩き始めた。


ーーー


「ここは……?」


尋賀が目を覚ますと、ベットの上だった。

自身の上半身は裸になっており、その身体には包帯が巻かれていた。

辺りを見回すと、ここは病院ではなく人の家だと分かる。


(オレが意識を失う前にあのヘタレ野郎の声が聞こえた。んじゃ、ここはあいつの家か?)


尋賀はただただ辺りを見回す。

そんな時、部屋の扉が開き、優作が部屋に入ってくる。


「あ、起きたんだ」

「…………」

「ずっと心配してたんだよ。昨日一日中、ずっと眠ってたし」

「……た」

「ん?」

「何故オレを助けるような真似をした! てめえ、オレに蹴られたんだろうが! 仕返ししねえのかよ!」

「……なんで仕返しを?」

「当然だろーが! 復讐しなくちゃいけねー奴に復讐する! それがオレにとっては全てなんだよ!」


優作は首を横に振る。


「ボクは君に蹴られた。痛かったさ。でも、ボクはそれ以上に君に感謝してるんだ。 怖かった時に君は助けてくれたからね。それに……」

「…………」

「それに人を助けるのに理由なんていらない。そうじゃないの?」


尋賀は顔を歪める。

よっぽど気に入らない発言だったのだろう。


「……虫酸が走るぜ。 おめえの考え方にはよぉ!」

「なんでそんな事……」

「言うのってか? オレはなぁ! 全てを殴って! ぶっ壊して! 復讐する! その生き方を否定されるのが大きれぇーなんだよ! 人を助けるだぁ? そんなことに意味なんてあるのかよ! なんでてめえは復讐しない!」

「……君がなんて言おうとボクは助けるよ。君の生き方が親への復讐ならボクは人を助ける生き方を選ぶよ」

「……クソジジィと言いおめえと言いどいつもこいつも訳分んねえ!」


尋賀は舌打ちをするとそのままベッドの横になる。


「オレは寝る! てめえは失せろ!」

「……分かったよ」


優作は部屋から出て行く。

尋賀は横になって、一人になっても寝ることは出来なかった。


(……ぶっ壊して傷つけるやり方じゃ、オレは強くなれない、か。それじゃああのヘタレのように、誰かのためにすりゃあ強くなれるのか?)


尋賀は部屋の天井を見続ける。

そして答えのでない問いを考え続ける。


ーーー


夜になり、優作はお粥を持って尋賀の部屋に入る。


「あのさ、お粥炊いたんだけど……」

「……あっそ」

「それじゃあボクはこれで」


優作が立ち上がろうとする。その時、尋賀は彼を呼び止めた。


「待てって。……その……お前、親は?」

「え? 今は一週間ほど出かけてるけど」

「そうか……」


尋賀は考えていた。今よりも強くなるためには、今のままではダメだと。

だったらどうすればいいか。それを考えての結果が彼と話すことだった。


「それじゃあ、ボクはこれで……」

「だから待てって。てめえと話がしてーんだ」

「え? いいけど……なんで?」

「なんでもいい。とりあえずおめえと話したい。しばらく相手になれ」


尋賀にとって、人とまともな会話するのは久しぶりのことだった。

日付が変わり、時間ができたら色々な事を話し合う。

そんな日を繰り返し、尋賀が倒れた一週間後。


「え?」


尋賀はいつもの他愛もない話の中で、尋賀を倒した男に弟子入りすると言った。


「オレは強くなりてえ。でもオレの強さは間違いなんだとさ。だからオレはそいつに弟子入りする。親への復讐のために」

「ずっと親を殺すって話ばっかりだ聞いてたけど、そんな話は聞いていないよ」

「……今日、そいつは約束した場所に来ている。だからオレは行く」


尋賀は立ち上がり、自身のボロボロの服の上着を着る。


「……じゃあな」

「待ってよ!」


部屋から出て行こうとする尋賀を優作は止める。


「また会いに行ってもいいかな?」

「……好きにしろよ」

「それからまだお礼を言ってなかったね。あの時はどうもありがとう」

「あの時ってどの時だ。オレはもう行くぞ」


尋賀は黙って部屋から出て行く。


(こいつの考え方の方が強さなのかもしれねえーな……)


尋賀はこの時が今の彼になるキッカケの一つだった。

彼が今の彼になるのは、また、別の話。


ーーー


時は戻って現在。

尋賀は、優作に対して真剣な表情で口を切る。


「なぁ優等生。悪いけど、今日騎士殿の家に行って、明日、魔王様に異世界に行く手伝いを頼んできてくれね?」

「……決心してたんだね」

「それがオレの生き方だからな」


優作は静かに頷くと部屋から出て行く。

出て行くと同時に外にいた大家が優作に何が起きたのか聞いてきたが、後から部屋から出てきた尋賀が適当に話を誤魔化し、その隙に優作は美玲の家へと向かった。


ーーー


翌日の朝。

尋賀は目を覚ます。

彼はいつものボロボロの制服であるカッターシャツを着ており、布に包んだ鉄パイプを持って外へと出る。

彼が黙って、山に向かう道を歩いていると、彼の良く知る声が、背中の方から聞こえてくる。


「尋賀!」


尋賀は後ろを振り向く。

そこには。


「おまえら……」


ナゲリーナだけじゃなく、優作と美玲の三人がいた。


「ボクも異世界について行くよ尋賀。ボクは戦うなんてできないけど、君の力になるよ。判断力だけなら自信があるしね」


優作は眼鏡のブリッジを上げながら答える。

今は学校の制服とは違い、軽装で動きやすい、キャンプにでも行く時の服装をしている。ズボンにはポケットが複数ついており、その中には様々な道具を入れており、冒険の準備は満タンと言った感じだ。


「……優等生が学校、サボったらまずいんじゃねーの?」

「何言ってるのさ。今日から大型連休だよ」

「そういえばそんなのがあったな」


異世界の話を聞いたのか、美玲は弓と弓矢を持ってきている。

美玲も優作と同じで昨日とは違い、ゴーグルは変わらないもののワンピースの上に、お手製の騎士団の服を羽織っている。

足下にまで届きそうなマントのような服が特徴的だ。彼女もまた、優作と同じように道具を携帯しているが、彼女の場合狩りの道具や裁縫道具などと言った、彼女にしかできない、もしくは彼女にしか使えない道具を携帯している。


「おめえまでなんで来てるんだよ、騎士殿?」

「ふはははは! 異世界と聞いてな! 騎士として、ついて行かない訳にはいかなかろう!」

「さては優等生。話したな」


尋賀が優作を睨むと彼はそっぽを向いた。


「それで魔王様は随分と魔王様っぽくなっちまったな?」

「……着させられた。昨日一日中、騎士がこの服を作ってた」


ナゲリーナは身長にあっていない白衣は変わっていないが、その白衣の下には黒と紫の禍々しさ溢れるドレスのようなものを着ていた。

作成者の美玲は大きな笑い声を挙げている。


「洗脳された姫君、そのお召し物は闇の力で真っ黒に染め上がり……をコンセプトに作ったぞ!」

「はは。その能力とやる気をどうして別の方向に使わねーんだろうな?

やっぱ夢に生きているからか?」


尋賀は三人を見回す。


「おめえーら、マジで異世界についてくるつもりなのか?」


優作と美玲は笑顔で返事する。

ただ、ナゲリーナだけは無表情で答える。


「一度わたしの研究室から薬品を取りに戻りたい。それとあなたへの興味がなくなるまでついて行く」

「まだオレを狙ってやがるのか? ついて来るなって」

「わたしがいないと異世界に行けない。行けたとしても帰って来れるか分からない」

「……そりゃそっか。嫌だけど」


尋賀がそう言ったのも束の間、もう一人誰かがいることに気づく。


「ジジィ……」

「やっぱり、異世界へ行くつもりじゃったか」


師匠も武器を持って彼らの元にやって来た。しかし、彼はすぐに踵を返す。


「おい、ジジィ。あんたもついて来るんじゃねーのか?」

「さっきまでそう思っておったが、今はその気が失せた。じゃから見送りに来たのじゃ」

「ふーん。あんたがいてくれたら、こっちとら安心できるんだけどなぁ?」

「今のお主らなら、わしなんて必要ないわい」

「ん。それだったらじゃあな、ジジィ」

「……絶対に帰って来るんじゃぞ」


師匠は背を向けながら小さな声で呟く。


「……そやつらのこと、任せたぞ、『黒獅子』」


その声は尋賀達の耳には入っていなかったが、ナゲリーナには聞こえた。

彼女は一人振り返り、小さな声で呟く。


「さようなら、『蒼炎』、『神託』」


尋賀達は山に向かって歩き出す。ナゲリーナも彼らの後ろをついて行く。

師匠もまた、彼らとは反対方向に歩いて行く。

彼らの姿が見えなくなるほど離れると、突然、近くには誰もいないはずなのに虚空に話し始める。


「お主の事、『黒獅子』は気づいておったわい。のう、『神託』」


師匠はそう言うと、誰もいなかった場所に、まるで初めからそこに立っていたかのように、男が姿を現す。

男の漂わせる雰囲気は普通の人間とは圧倒的に異なっており、周辺の空気は凍りついたかのように冷たくなる。


「我の気配に気づいたとは思えぬ」

「気配じゃないじゃろうな。あやつはその手のものは苦手じゃろうて。恐らく、勘、じゃろうな」


師匠は尋賀達が歩いて行った方向を見つめる。

彼らの姿は、もう見えないところまできていた。


「『黒獅子』め、転成を繰り返して存在がちっぽけになっておるわい。これも永遠の命を求めた罪なのかもしれないのう」

「あの者は命の重さを理解しておらぬ。他の者の命を奪って得た命など、命を奪った他の者に押しつぶされるのみだ」

「それでもじゃ。あやつめがロマンチストなのは昔と変わっておらぬのう。根拠もないくせに、お主もこの場にいると思ったようじゃ」

「姿、形はおろか、人が変わってしまってもなお我らの友情は変わらぬと言うのか」


『神託』と呼ばれた男は背を向ける。

そして男はふわりと宙に浮き始めた。


「……我はもう行く。百数十年振りに友に会えた事、嬉しく思う」

「そうか。お主の仕事はわしら半端者の人間ですら想像できないんじゃろうな?」


のう神よ。

師匠はそう言うと、男は空中でその姿を消した。


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