混迷するバトル 油田な廊下で彼女は。。。
ったく。
学園に来てから、高校生活が容赦なく変だ。今日なんて朝からハプニング続きで、ポン刀娘強かったけど性格超ツンツン。しょうもない夢見るし教室に魔物襲ってくるし。幼なじみ脱いで脅してくるし。
こんな高校生活って……。
送りたくても送れないものだろうが、この状況を幸福と考えるにはちょっと、いや、いろいろ大変すぎる気が。
で今、油田と化した廊下で。
黒闇の魔物・黄金龍を前にし、白ブラ&パンティ姿になった半裸の幼なじみが、マシンガンを僕に突きつけ言ってくるのだ。
「コーくん!」「なんだよ?」
ホームルーム後の修羅場と淫夢に続き、再び理不尽な状況に陥っていて。
「これからこのマシンガンで鉢の巣にされたくなかったら、手を挙げてこっちに来なさいっ」
……なんでまたそんな捕虜扱い?
「分かった」
合点は行かぬが首肯した。
ここでためらっていたら、いつマシンガンをぶっ放されるか分からないから。
……綾香がおかしい。
普段から病的なほどのテンションで迫ってくる幼なじみ親衛隊長だけど、彼女にしたってこんなの変だ。こんな綾香って今まで見たことない。
ホームルーム後の時はまだ理由があった。あのポン刀娘が登場したっていう。けど、今回はそれもない。思い当たるふしもない。
……ひょっとして綾香、ポン刀娘のこと、まだ根に持っているのか? あの時だって、こっちが被害者だったんだぞ?
あれこれと考えつつも、マシンガンを持つ半裸の綾香の方へ諸手を挙げ歩いていき。
……投降兵士みたいだ。どうして綾香、こんな目に合わせてくれる?
幼なじみの前まで来ると。
「ふん。命知らず」
マシンガンの先をつんつん。こっちの腹に突きつけてきた。
……らしくないぞ綾香。いきなりぶっ放すことはあっても、きみそんな脅迫なんかしないタイプだっただろ?(大変困ったことに、彼女はいつも脅しではなく本気なのだ)
「頼むから発砲しないでくれ」
「それはあたしの気分による♪」
そう言ってマシンガンをぐいぃっ。また押しつけてきた。
……やっぱ綾香超変。
この幼なじみの性格を、僕はよく知っている。彼女ってとびきりの個性派だけど、今までこんな女王様然としてくることはなかった。痛いほど一方的な愛情ぶつけてくることはあっても、そういうのも今まで彼女なりの愛情表現と思えていたし。
でも今回は違う。なんか別人っぽい。
一応見た目は綾香だけど、性格が違う。
……きみの気分って何?
諸手を上げたまま、彼女の顔をふと覗き込むと。
……うわわ? 綾香、瞳孔が開かれて視線が定まってない。正気じゃないっぽい。
ぷちっ。
「”え……!?」
さらに予想だにしなかったハプニングが。
綾香のブラの前ホックが勝手に外れてしまったのだ。
「このブラ、最近止め金の調子悪くてぇ」
……んなこと言われてどうしろと?
そのホックが外れたせいでぷらりん。おっぱいの先にブラが引っかかっていて。
諸手を挙げさらに固まるしかない僕だったが、あまつさえ彼女がこんなこと言い出して。
「コーくん。これからあたしの後ろに回ってぇ♥」
「なんでだよ?」
「後ろからお願いしたいの、後ろから……揉んで……よ♥」
「え、それ、どういうこと!?」
台詞も行動もますます混沌化する幼なじみ。その言動に振り回されるだけの僕。
歯車が噛み合っていない。一つも了承できないのに武器抱えて言ってくるから逆らえない。だから、そそくさと綾香の後ろに回る。
「じゃ。触るよ」
……何宣言してんだ僕も。
「ふう……ふうふう……」
綾香の息遣いが荒くなっている。体温が上がっているのがそばで感じられた。
「できるだけHに愛情込めてね♥」
……できるだけHに愛情込めて?
何その普通の高校生にはハードルが高すぎる要求?
同い年の幼なじみからそんなこと言われたら正直引くぞ。本来の綾香だったら絶対んなコト言わない。綾香って行動が過激な反面、根は恥ずかしがり屋だからな。
「…ぁん……ぁあぁん……」
幼なじみの背後から前に手を伸ばしていた。
やわらかくすべっとしたものに指先が触れる。
「ぁん……ぁあん……♪」
彼女が小声で喘いできて。
そこで、油田廊下に居並ぶ生徒たちが、突如こんな反応をしてきて。
「ああっ、相場くんが後ろから葉室さんの胸触ってるぅ~!! 何あのいやらしすぎる手付き~!?」
「胸触るだけじゃなくて、あのまま、後ろから押し倒して馬みたいに襲いかかるつもりじゃないぃぃ!?」
「学内唯一の男の子だからって何考えてるのぉ!? 消すべきよ、あいつ。葉室さん、振り返ってマシンガンをぶっ放しなさい! 女の子らしく相場くんのお尻の穴にBANGBANGって!」
……なんだ、その恐ろしく下品な反応は?
何を勘違いしてるんだ、彼女たちは? 僕と綾香のやり取りを見てなかったのか? 肉食女子って強度妄想狂ばっかなのか?
常軌を逸しすぎたリアクションに、こっちまで頭が煮えてきそうだ。
ところが直後、そんな不埒な空気を振り払うかのように、パンパンパン!! 両手を叩く音がして。
「分かった!」
とアルトな声で叫んだのは、うさ耳生徒会長だ。
「分かったって何が?」
綾香の後ろから僕が尋ねると、うさ耳をぴーんと伸ばして。
「この状況についてだよ。葉室さんの様子が変なのも、相場くんまでそれに翻弄されてるのも……こんなおかしなことになってるのは、すべてあいつの仕業ってことが」
「あいつの仕業? あいつって誰だよ?」
「あいつだよ。色魔。さっきコースケに話した魔物が、葉室さんの意識に淫夢を送りつけ、起きている彼女の精神を蝕み続けていたの」
「はあ?」
……淫夢を送りつけ? 何その精神浸食?
すぐに飲み込みがたい話だが、僕もさっきあんな夢見せられたし。
色魔って夢だけでなく、起きてる人間の意識にも影響するのか?
「コーくぅぅん」
瞳孔を開いた綾香が喘ぎ続けていて。
意志がない操り人形のように、完全に魔に魅入られたかのように。
「変だと思ってたけど」
生徒会長にそう言った時、僕はつい綾香(?)の胸を触る手にむにゅっと力を込めていて。
「ぁあん!」
刹那、綾香が崩れ落ちてしまって。
両膝を地につき胸を抑えながら、その場にしゃがみ込んでいて。
「……あたし、今まで何してたの?」
跪いて顔を上げ、出し抜けにこれまでと違う冷静発言してきて。
……綾香、正気に戻ったのか!?
今になって恥ずかしくなってきたようだ。肩から背中までを隠すように、すりすりと掌でさすっていて。さっきまでと打って変わり、いじらしき少女そのものになっていて。
「葉室さん、あなた色魔に催眠術かけられてたのよっ」
膝立ちになった綾香が、生徒会長がそう言うのを見つめていた。両腕で胸を抱えふるふるとその身を震わせながら、その瞳は迷子の小犬みたいに薄らと濡れていて。
「コーくん、なんであたしの後ろにいるの?」
……綾香、覚えてないの?
「コーくんのエッチィィ。あたしになんか変なことしたでしょ!?」
「え……僕……」
……ご免、綾香。きみが催眠術かけられてたなんて知らずに。本人ではない綾香の命令でしたこととは言え、きみの異変にこっちこそ気づき早期に止めるべきだったのに。
しゃがみ込んだ綾香越しに生徒会長と話す。
「授業前に生徒会長が言ってた。黒闇注意報が予告してる。さっきからこのクラスに色魔がいるはずって。うさ耳も反応してた」
「完璧に分かったんだ。彼女が今どこにいるのか何を企んでいるのかが。うさ耳レーダーは精度悪いけど時間をかければちゃんと検知できるから」
「分かった? どこにいる色魔なんて? さっきからここには生徒しかいないぞ。怪しいやつなんていない」
「何を言ってるのコースケ。 色魔はあいつ! あいつの体を依代にしてるのっ」
と言って、青髪を振ってうさ耳を立て生徒会長が指差したのは。