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うさ耳生徒会長 無理科学天才少女

「いつまで寝てるんだコースケ? あたしの声が聞こえないのかっ?」

「ん? 起きる起きる」

 近くでするこのアルトなお叱り声は?

 脳にダイレクトに響いてくるこの声は?

 まだはっきりとは目が覚めやらぬ僕だったが、薄らと目を開き顔を上げると。

「どうせ変な夢でも見てたんだろ?」

 机脇に一人の少女がいた。

 一風変わった少女だ。

 セミロングな青い髪の毛の上に、うさ耳をぴょこん。つぶらな瞳に控え目な各パーツ。左目が赤く右目が青いオッドアイ。背は普通で胸も普通だ。

セーラー服を着ているが、力強い目付きと強く結ばれた唇には、大人すら見せぬ強固な意志すら滲ませていて。その独特なルックスからして、厨二性と 大器の風格を同時に見せる珍・女子高生。

 実際彼女、厨二病天才科学者っていう世界的に稀有な存在で。

 前述の我が学園に在籍する無理科学者、麻元由佳である。

 凡百な頭脳では想像すらかなわぬ珍発明に耽る十六歳。

 封鎖者(ブロックナイト)のために分解武器(オーバーホールウェポン)を開発し、黒闇(ホール)との戦いを科学的に全面バックアップしてきた、学園の、引いては市と国家の運命を一身に背負う特待生である。

「コースケまだ起きてないぞ。えいっ♪」

「痛っ!?」

 机にもたれた右腕に顔を預けた僕の頬を、うさ耳生徒会長がつねってきた。

「変な夢ってなんだよ?」

 寝そべったまま、こっちが半眼で聞き返すと。

「さっききみ、なんか寝言言ってたぞ」

「寝言?」

 ……まずいぞそれ。あんな夢見て言ってたのとかろくなのじゃないぞ。

「言っちゃっていいかなあ?」

 天才少女が腰の後ろで諸手を重ねつ首を振り振り、青髪の上うさ耳を揺らしていて。何やら悪戯っぽい目つきでこっちを見つめ、唇を尖らせ思わせぶりな顔を作りながら。

「なんかそれ気になる。言ってくれよ。真実が知りたい」

 腕に預けた顔を下に向けて、目線をはずしそう言う僕。

 ……こんな弱気って我ながら情けない。

「じゃ、言おうか。きみが言ってた台詞はね。『おっぱいを取るべきか幼なじみを取るべきか、それが大問題だ』だったよ。歯ぎしりしながら超真剣な顔で」

「んな最低なこと言ってたの!?」

 ばっと机から体を起こし青ざめる僕に、少女は追い打ちをかけるように。

「なんかかんどー。そうやって自分を最低ヤローってすぐに認められる男子って、なかなかいないよね♪」

 アルトでありながらも冷めた口調で。

 ……こっちは別に認めた覚えないんだけど。


  ◆◆ ◆


「そう言えば、黒闇(ホール)注意報が、今くらいの時間に魔物が一匹この教室内にいるって予報してたぞ」

黒闇(ホール)注意報って……あれのことか……?」

 うさ耳生徒会長が制服スカートのポケットからスマホを取り出し、いじり出した。

 スマホ画面上に奈毘亜(なびあ)市マップが表示される。その中の青い点をこすると、マップが拡大されて学園周辺を表示。その学園内の赤い点をなぞると、「二年A組」と吹き出し文字が現れて。

 スマホ搭載、生徒会長発明の厨二要素満点黒闇(ホール)注意報。

 黒闇(ホール)の出現率&出現場所は、本来人間には予測できない性質のものだ。魔物たちは、市の至るところに気ままに出現するし、そこにたまたま居合わせた封鎖者(ブロックナイト)が対応してるってのが現実で。

 そんな状況にも関わらず、このうさ耳少女は的中率八十五パーセント程度の確率で(さすがの彼女も百パーは不可能だった)予測するソフトを開発した。それが黒闇(ホール)注意報(現在試用期間)。言うまでもないが、こんなアプリがインストール済みのスマホって生徒会長のだけだ(普通の人はいらないし)。

「そうだよ。カオス理論と超ヒモ理論、フィボナッチ指数とモルフォジェネティク・フィールド仮説ともぐら叩きアルゴリズムを利用して作ったアプリのこと♪」

「今、なんか変なの混じってたけど」

 軽くツッコむ僕に。

「ううん。もぐら叩き重要。あれだって次どこに出てくるのか分かってたらゲームになんないじゃん?」

「そりゃそうだけど」

 ……封鎖(ブロック)ってもぐら叩きじゃないし。

 基本、無理科学(=常識を超えた厨二サイエンス)なのだ。放っておけば毎度珍論を振り回し出すが、そんな頭でリアルに凄い発明をしてしまうところが天才たるゆえんで。

「ランダム性って、大いなる神秘のキーなんだよ。地球だって人類だって偶然で生まれたって説があるでしょ?」

 両手をお尻の後ろで合わせて、やや前屈みで青い髪を揺らし、うさ耳を振りながら。

 ……なぜ、もぐら叩きから人類や地球の話に?

「あ。そういうことか(分かっていない)。『神はサイコロを振らない』ってアインシュタインの言葉だったっけ?」

 こっちも知識動員して知ったかしてみる。

「そうだよ。でも、あたしが思うに、正しくは『サイコロは神をも転がす』だと思うの」

「ふーん、そうなのか(返事だけ)。で、魔物って何? きみの予報プログラムによればどんなやつがここにいるんだ?」

この黒闇(ホール)注意報が卓抜なところは、魔物の出現率&出現場所を予測するだけでなく、出現する魔物の種別まで導き出してしまうってとこで。

色魔(カーマ)よ」

色魔(カーマ)?」

 ……妙な名前持ち出してきたぞ。

色魔(カーマ)は、黒闇(ホール)から出現する人を色情漬けにしてしまう魔物。人をエッチな夢に誘い、正常じゃなくしてしまう怪しき存在だよ」

 青髪をかき上げながら、煙たい話してきた。

「よく知らないけど、それ、僕も噂でなら聞いたことある。黒闇(ホール)にはとんでもないのがいる。あのサキュバスを超える色魔がいるって。けど、その攻撃力は微妙だって」

 色魔と言えば、昔から有名なのはサキュバスだ。

超が付くほどの美少女に化けて現れ男に淫夢を見させ、その間に精を吸い取ってしまうという悪霊。民話や古代神話などに頻繁に登場するが、そういったものだけでなく、現代のエロゲや漫画なんかにもよく登場する知名度(悪名?)が高き色魔だ。

「カーマ」は、そのサキュバスを超える色魔だ。

 美少女に化けて現れるというサキュバスと、カーマは似て非ざるものだ。カーマは、美少女でなく専ら普通っぽい女の子に化けて現れるって話だ。正体がバレないよう、できるだけ人が見て違和感がない姿を取ろうとするからそうなるそうだ。

 それと、サキュバスが人を夢幻的な密界に誘い恍惚とさせてくれるのとも違うらしい。カーマの場合、浮世離れした夢幻ではなく、身近な友人や知り合いが現れる、よりリアルな色夢を見せてくれるという。場合によっては現実と思われるほどの。

「ある意味、もっともこわい存在ね。あたしたちの日常に紛れ込むことを意図した魔。ウィルスは環境に応じてあらゆる適応をするって言われるけど、敵と認識することすら難しい、そういう魔物。だって、あたしたちの世界に親しい者の振りして現れるんだから」

 生徒会長が胸の前で腕を組み、うさ耳を外側に曲げそう言っていて。

「んなやつがこのクラスに?」

「んと……」

 うさ耳を上下にぴょこぴょこ動かし出した。

 うぃぃぃん、ぴょこんっと伸ばし、ぺこっと曲がって。

 実は、彼女のうさ耳ってただの飾りじゃない。耳の中に自身で発明したセンサーが内臓されていて、周波数で魔物の存在を検知する探知機(レーダー)になっているのだ。

「いるわ。この教室のどこかに。探知機(レーダー)の精度いまいちだから場所を突き止められないけど」

 このうさ耳も試用期間だそうで。以前に生徒会長、モンスター検知精度がアップしたらうさ耳から猫耳にチェンジするとか変なこと言ってたけど、僕が会ってから一年以上ずっとうさ耳。

発明に難航してるのか?


 教室を見回す。

 しかし、席にはいつもと同じクラスメイトしかいない。変わったところもない。

 色魔(カーマ)なんてどこにもいないぞ。

 けど、魔物の仕業でもなければ、僕もあんな夢見るはずなかっただろうし? と考えると、どこかに潜んでておかしくない気もするんだが。

色魔(カーマ)って何がしたいんだ? さっき僕、色魔(カーマ)の仕業と思われる夢の中でおかしな体験したけど、実際にはなんのダメージも受けてない」

「そうね。精を吸い取るサキュバスと違って、カーマは直接攻撃しない。色夢を見せてくれるだけ。でも、だからと言って無害ではない。むしろ、あいつは災厄の番人(ハームフルガーディアン)と言ってもいいくらいの存在で」

「災厄の番人(ハームフルガーディアン)?」

 聞き返す僕に生徒会長がこくんして続けた。

色魔(カーマ)の催眠術で、脳と心が侵された人間の戦闘能力はどうなると思う?」

「がた落ち、もしくは眠ったまま立ち上がることさえできない……ってとこじゃないか?」

 さっきまで机にうっ伏していた自分を思い出し、言っていた。

「そこを他の魔物に襲われでもしたら?」

 生徒会長が両手で青髪をかき上げていて。

「ってことは、やつはパーティで現れる?」

「ご名答。そして、もう一匹の魔物の出現も注意報が察知している」

「まだ来るのか?」

 この学園って無法地帯だ。さっき魔物が現れたばかりなのに、矢継ぎ早に狙われる。いつもこんな調子ってことはターゲットオンされてるってことだろう。

「みたいね。でも、まだその時間になっていない」

「時間まで特定できる?」

「百パーじゃないけどアバウトに。出現予定時間は十時五十分前後。まだ二十分以上ある」

 ……厨二発明恐るべし。そこまで分かるとは。

「もう僕にかかった色魔(カーマ)の催眠解けてるし」

「あんな寝言言ってた最低ヤローの?」

「……あれは別に僕の意思じゃなくて」

「じゃ、魔物ちゃんが来るまで授業でもしてようかしら」

 生徒会長がそう言って、席から離れ教卓に向かっていった。

 


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