メリーゴーランド なぜ僕は今おっぱいに顔をうずめているのか?
「百地さん……」
「ヘナチョコぉ♪」
よく晴れた昼下がり。かっと太陽が照りつけてくる熱い午後。
暑さと眩しさの中、僕らは奇妙極まりなきシチュエーションにいた。
遠くで、ジェットコースターが走っているのが見える。横八の字に曲がりくねったレール上を、猛スピードで登っては落ちてくる。その向こうで、雲突くばかりの大観覧車がスローに回っていて、バックには中世ヨーロッパ風のお城が聳え、最上階に設置された外晒しの鐘が「かーん、かーん」と音を響かせている。
そしてなぜか、僕と黒髪ツインテールのポン刀娘二人が、制服姿でメリーゴーランドの回るカップ内にいて。
……ここって……どこかの遊園地……?
変? を通り越し異常ですらある光景だった。
なぜ、僕とツンツン娘二人きりでカップ内にいるのか……まさかデエト中……? そんなことありうるのか、今まであんな犬猿の仲だったのに。
しかも、僕らが今していることときたら。
「ちゅちゅちゅ~♪」回るコーヒーカップの中、中央テーブル上に置かれたカップ入りオレンジジュース一つを二つのストローで飲み合っていた。飲み合いながら、二人見つめ合っていた。僕の目の前に、ストローを口にした美少女の顔が。
……なんかドキドキするぞ。それは否定しないが意味が分からない。
他にもよく分からないことが。
この遊園地には、僕たち以外に一人も客がいない。いるのは遊園地職員だけ。
絶叫が聞こえてこないジェット・コースター、誰も乗っていない観覧車、ショーも着ぐるみパレードもないお城、無人アトラクションが稼働し続けている。
謎だ。自分がその奇怪な状況の中にいて半ば無意識に行動しているのに、そこで起きていることを皆目理解できずに。
「ちゅぅぅぅ(ストローを口から外して)。ヘナチョコぉ~。ちゃんとケジメ付けろ~」
テーブルの向こうで少女が言ってくる。
「ちゅ、ちゅちゅちゅぅ(こっちも外し)ケジメって? ここで僕を責める気か?」
……こいつも今はポン刀携さえてないようだから余裕だけど。素手ならぜってー負けねえ。
「覚悟なさい!」
「”うぇ!?」
そう叫んだ少女がどこからか突然ポン刀を持ってきてそれを抜いて……、なんてことこそし始めなかったものの、それよりも僕の前でもっとおかしなことをし始めていて。
「何すんだよ!?」
それはあまりに衝撃的な事態だった。セーラー服の少女がお腹辺りの服の端を掴み、それを胸、顔辺りまで持ち上げ顔を出し、「んんん」と両腕を引っこめようとしていたのだ。
「そんなことやめろ……っ」
静止をよそに、するする腕まで抜いていて。
……覚悟ってなんだよ? こんな展開も「?」すぎるよ。
しかし、僕のぐだぐだ脳内とは無関係に、目の前ではさらに少女が絹のような白肌を露わにさせて、その胸部分を隠す黒ブラまで見えていて。
何この脱衣じゃなくて脱線振り?
彼女が脱ぐ理由なんて一つもない。前後関係からもありえない。
混乱しつつも努めて冷静を装い、僕は口走っていた。
「きみは何をしたいんだ?」
が、彼女はその質問に答えようとする様子もなく、たわわなおっぱいが今にも溢れそうな黒ブラの前ホックに手をかけていて。
「ヘナチョコ、目をつむれ」
「はい?」
まったくもってちんぷんかんぷん。言われるままに……うん、つむるけど。
すすっ。
……って今のブラ落ちた音?
「触りたいでしょ?」
「はいい……!?」
頓狂な声を上げるこっちに。
「いいよ。けどやさしくな。最初はソフトに掌で包み込むようにさわさわとな」
「そ、そんなご指南……へ、あの……なんでその、”ええええ!?」
目を閉じたまま狼狽する僕の頭の中で、無数の「?」がピヨピヨ回転していて。
……僕遊ばれてるのか? いや、単にからかわれてる? でも、普通、からかい目的で高校生がここまでやるか?
「いいんだ、ヘナチョコ。あんたにも安らぎってものが必要だ……こんな魔物がしょっちゅう襲ってくる街で始終神経が張り詰めてたら、誰だっておかしくなるさ」
キャラが変わったみたいに、諭すような口調でそう言ってくる少女。
……どう考えてもおかしくなってるのはこいつだろ?
「そのヘナチョコっての、いい加減やめてほしいな。僕には相場浩介ってちゃんとした名前があって……って、うわっ、何する気だああ!?」
「んあん!」と声を発した少女が、席を外し近づいてくるようだったのだ。ようだというのは、それを音や空気で察していたからで、目を閉じていた僕が実際見たわけじゃなかったから。
話聞く気がさっぱりなところは例によってだけど、さらに。
「うおお!?」
襲ってきやがった。上体を倒し、目をつぶるこっちにマウントして、下半身ごとズボンの上に跨ってきたのだ。おっぱいだけでなく、改造ミニの下から現れる水色のニーソ履いた生足まで(半目を開けて視線をちらっと下に向けた時にそれが見えた)寄せてきて。
「……はあはあ」
彼女の熱い息が、僕の耳元にかかる。豊満すぎる双乳が、顔面にぐにぐに押しつけられてくる。気づけば、彼女の谷間に顔をすっぽり埋めていて。
「浩介の息感じうるぅ♪」
……あ。今名前呼んでくれた。っていやいや。んなことどーでもいいよ!! 誰か説明してくれよ。このヒートする一方の破廉恥展開を。
く。苦しいっ。息がぁっ!! おっぱいに挟まれて息苦しいよっ。でもなくてっ。だから、この状況のどこが「ケ・ジ・メ」なんだよ!? 何もかも変だって。絶対おかしいって。
さっきから目をつむったままの僕だったが、何が起こっているかは丸分かりだった。視覚以外の感覚がありありと察知していたから。
「ほら、両手で」
ほああ!? 少女が僕の両手を掴み、自分の双乳へぴたりさせてきて。
……や、やわらか~っ!! って、違うよっ。単純にやわらかってわけでもなかった。女の子のおっぱいってこんな感触だったのか。初めて触れるおっぱいに、僕は感触革命すら覚えていた。
表面は滑らか。体温で生温かくて、白いクレープみたいにふわふわ。その表面をする~、するする~と両の掌で撫でると、指の隙間から豊乳の一部が溢れてきて。
って、だから、違うだろぉぉっ!! 何を冷静におっぱい感触分析してるんだ僕は!?
少女が、僕の手を上から自分の手でぐっと抑えてきて、掌がおっぱいをぐっと抑える形に。おっぱいって表面はやわらかいけど、中はぐっと張りがあるんだ……こんなデリケートな質感してたって……。
ってぜんぜん違うううっ!!
「ぁん……ぁああん……」
回り続けるカップの中。上半身裸の少女がマウントポジションでこっちの顔を胸にうずませ嗚咽していて。
意思とは無関係に文字通り晴天におっぱい続きな僕は、彼女の胸の中でこんなことを呟き出していて。
……もう限界だよ。こんなの、普通の男子高生にはエキサイティングすぎるよ。どうしたらいいんだ。
とそこに、またも超絶妙というか迷惑すぎるタイミングで。
「コーくん、何してるのぉぉ!?」
僕とポン刀娘の他に誰もいないはずの遊園地に、その声が響いてきたのだ。
この声、この呼び方。あいつだ。なんであいつがここに?
予期せぬ新キャラ登場に、僕は少女のおっぱいからぶにゅっと顔を出し、目を開け周囲を見回す。
「コーくん。あたしを裏切ってそんな淫乱雌豚とぉ!?」
「綾香……!!」
赤いリボンのポニーテールにふりふり改造セーラー服にマシンガン。
幼稚園以来の幼なじみ親衛隊長、葉室綾香がそこにいた。
純和風美少女の彼女が、ただでさえ白き顔を真っ白にして。
すさまじき形相だった。今にも泣き崩れそうな、それでいて目と口の端をひん曲げ額に青筋な般若面がミックスされた、なんとも壮絶なお顔で。
なんでいるのか知らないが、この状況デンジェラスすぎ!?
その時僕の目には、嫉妬(?)に狂う綾香の額に「殺」の一文字が浮かび上がっているのさえ見えた。
ぱっかぱっかぱからん♪
僕とポン刀娘がいるカップから少し離れた白い木馬の上。
幼なじみがメリーゴーランド木馬に跨っていた。
「こんなとこにまで現れるなんて、まな板女がぁぁ!!」
ポン刀娘も綾香の存在に気付き、コーヒーカップの中から半裸で叫び出していて。
「まな板女とは失敬な!! これでもちゃんとCはあるわよっ。スレンダーと呼びなさい、スレンダーと!! この雌豚がぁぁっ」
馬上から叫び返す幼なじみ。
……綾香って別に貧乳じゃないから普通にあるよな。そこは僕も弁護するが、やはりこんなこと考えてる場合か?
「死ね! 死んでしまえ! コーくんだました雌豚にあたしを裏切ったコーくん、二人とも一緒に死んでしまえええええ!」
木馬上から絶叫した幼なじみが背中に負っていたマシンガンをすちゃり。僕らの方に構えていて。
「やめろ綾香っ」
「ふ。誰が何を言おうがあたしはやめない。雌豚と痴れたことしてるクズも一緒にぃっ」
……ダメだ。綾香、目が据わってる。こうなった彼女は、いつも止められないのだ。
「雌豚と一緒にコーくん、ご免。逝ってもらうわ」
「逝くって!?」
「浩介と一緒なら、あたし地獄でポン刀使って料理しちゃうぅぅ♪」
上半身裸のツンツン娘も僕の上で何言ってやがる? あ。でも、それって僕のことを料理したいってこと?
日本語って難しすぎる。
幼なじみ親衛隊長まで現れ、何がなんだか混迷を深め続ける状況にまったくついていけない僕だったが、ここで言えることがただ一つあり。
……この状況、修羅場すぎるぜ。修羅場てか、僕に人権ないんですか?
「もうこんなのいやああ! 逝ってえええええええええ! 二人ともどっか逝ってえ!」
ズガガガガガ! 馬上から綾香のマシンガンが火を吹き。
僕とポン刀少女は……(そこで記憶がぷつり)。
「起きろ、コースケ!」
……うん? あれ、僕眠ってた?
「早く起きろ!」
「ふぁああ」
あくびをしながら机から顔を起こす。
ふう、すべて夢だったか。予想通りというか、軽く大人の事情だったというか。
おっぱいも生足もマシンガンもすべて儚く消えた。
そう言えば、感触したけどおっぱいが見えなかったな。そこがちょっぴり心残りな気もしないでもないが、こんなの夢で良かったよ。にしても、なんて夢見てんだ僕は。