8
夕日差し込む秋風吹く11月の廊下。
俺は1人、考えを巡らせていた。
「付き合いやすい方……ね」
先程の綺理ちゃんの言葉を思いだし、2人の事について考えてみる。
榎蓮華。
俺の幼馴染。勉強も運動も出来て、引っ込み思案で、俺の後ろをひっついていた、「ボク」と言うなんとも可愛らしい幼馴染。
肩を越えるあたりでさらさらと風を受けて流れる金色の髪。まるで神が直接作ったかのように精錬された整った顔立ち。リスを思わせる大きな青い瞳と、透き通るような白い肌。少し低めの身体つきながら胸のサイズは大人顔負けと言う、童顔ロリ巨乳で、さらにそれをまるで嫌味と思わせない笑顔は誰の瞳も引き付けられる。
月見山だんご。
俺のクラスのクラス委員長。真面目系の容姿端麗で勉強も運動も出来るクラス委員長。
月夜に生えるだろう銀色のツインテール。端正な顔立ちに赤の瞳の凛とした鋭い目つき。ボン、キュッ、ボンのモデル体型。そして学校指定の黒の制服を着崩さずに着た、人によっては見るだけでその者の性格が分かる着こなし。
……どちらも俺には相応しくない。綺理ちゃん、どうすれば良いんだよ。
頭の中で綺理ちゃんが『だーかーらー綺理ちゃん、言うな』って言ってる気がするが……気にしないでおこう。
と、そんな事を考えていると、
「……あーっくん」
むにゅ。
と、後ろから蓮華が抱きついてきた。大きな胸の感触が背中に伝わってくる。
「れ、蓮華!」
「えへへ……。あっくんの匂いだ―……」
そう言いながら、顔を俺の背中にすりすりと擦ってくる蓮華。
……こ、こいつってこんなに甘え症の奴だっけ? いや、違ったはずだが……。
「あっくん、今までどこに居たの? ボク、だんごちゃんと一緒に探したのに、見つからなかったんですよ?」
「そ、そりゃあ済まなかったな。実は綺麗ちゃんに話を聞いて貰っててな……」
それを聞いたとき、ビクッと蓮華は肩をすくませる。
「き、綺麗ちゃん先輩……ですか? もしかしてあっくん………綺理ちゃん先輩を好きになっちゃったの?」
「べ、別にそう言う訳じゃあ……」
蓮華は背中から離れて、一旦離れると俺の目の前に来る。
夕日で顔は赤かったが、その目は涙に潤んでいた。
「あっくん……。もしかして胸は駄目なの? 頼られる方が良いの? 大きめの服を着た方が良いの? 黒髪の方が良いの?
……ねぇ、あっくん。どうなの、あっくん? あっくんに捨てられたら私……」
涙目でそう言いながら、俺に抱きつく蓮華。上目遣いでこちらを赤らんだ顔で見つめるその姿は、とても可愛らしい姿であった。
そんな可愛らしい幼馴染の姿を見て、俺は昔の事を思い出した。
昔から彼女は俺にべったりだった。
異常なまでに、執拗なまでに、べったりと俺に執着していた。
俺はそんな彼女の事を妹のように感じていて、いつもこんな事をして彼女を慰めていた。
ぽん、と俺は蓮華の頭に手を置く。
「ほえ……?」
自分の頭の上に手を置いた俺に、蓮華は疑問符を浮かべる。上目遣いで俺を見つめる蓮華。
「大丈夫だよ、俺は綺麗ちゃんとはならないから。……大丈夫だから」
「……う、うん。ならボクは良いんだよ」
そう言って、蓮華は俺から離れる。その蓮華の顔は未だに涙の跡が見えるが、先程と違って涙顔ではなく笑顔であった。夕日のせいかどうかは分からないが、顔が赤らんでいる。
「じゃあ、ボクは先に家に帰っておくね。色々と準備をしないといけないですし」
「……準備?」
「気にしないでね、あっくん。あっくんには悪い話では無いから。
じゃあまた明日ね、あっくん」
すがすがしい笑顔で蓮華は帰っていた。まぁ、蓮華が元気になったのならそれで良いんだけど。
「……あれ?」
ちょっと背中に傷が出来てる? もしかしてさっき、蓮華に抱きつかれた時に爪でも立てられて、傷を付けられたのか?
「保健室に行って治しとくか」
「……あれ? 敦? どうかしたの?」
……何故、こうまで間が悪いかな。
俺の視線の先には、だんごが居た。
「血が出てるじゃない! 保健室に手当しましょ!?」
「……あーれー」
そして俺はだんごに引きずられるようにして、保健室へと向かって行った。




