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「誰もいない……。それはどう言う事ですか?」
白い雪がしんしんと降るクリスマス会当日。
多くの準備と数々の交渉を成し遂げた当日となって、いきなり眼鏡をかけた気の弱そうな1年男子(確か名前は羽田とか言ったか?)が、ふざけた事を言って来たので、若干強めの口調で私はそう言った。
ちなみにクリスマス会と言う事で、皆実行委員の装いは普段の制服と違って、今日のため自身が選んだコスチュームへと変わっている。
雪だるまやトナカイ、サンタと言った分かりやすい物から、魔女や神と言った良く分からないコスプレまで色々とある。……一番分からないのは、アニメキャラのコスプレは違うと思うんですけれども……。
私のコスチュームは、ミニスカサンタ服。
赤いサンタ帽子と、同じく赤いサンタ服。肩からかけるタイプの雪をイメージする刺繍の入れられた鞄。そしてワンポイントとして、胸に真ん中に文字が書けるモミの木のバッジを付けています。
……実はその部分に相合傘を書いて、小さく『せのお・かじわら』と書いています。まぁ、普通に近くに寄って深々と見れば、分かるんですけどね。
「……梶原君が『何、これ』とよって見ている所に、『あれ?』と思っている所にすかさずキス。
相合傘の意味とキスとの二重コンボによって、彼のハートを。
まぁ、数ある策の1つしかないんですけれども」
「あの、先輩? どうしたんですか、先輩?」
「……! 別に何でもないです。気にしないでください、羽田君」
「万年山なんですけど……」
まぁ、無能で和服の侍格好の万年山の言う事なんて聞いている場合じゃありません。
今は問題に対処しませんと……。
万年山1年生の報告によると、パーティーの給仕テーブルに誰も居ないとの事です。
このパーティーで、2年生女子(ずっと携帯ばかりを見ている無口そうな女性)の提案によって、ジュースや食べ物などを給仕するテーブルを幾つか分類しています。パーティーでは人数も多いために、予め4、5個ほど用意して出来る限り、混雑するのを避けるようにしているのである。
1個1個に来る人数が少なくなるだろうと思い、給仕人数はそれぞれ1人にしていたのですが、
「まさかその言いだしっぺの新山さんが来ないなんて……」
まぁ、あの気の弱さがこんな派手なパーティーに来るって事の方が意外ですかね。
しかし、他の人は割り当てていて、残っているのは不備があった場合に代わりにやる(別の言い方をすると、そう言う形で堂々と梶原君とパーティーを楽しむ)役割を当てていた私のみ……。
「……仕方ありません。非常に不本意ですが、私の方で代わりをしておきます」
「ほ、本当ですか! 妹尾先輩! 早速、他の方に連絡しておきます!」
「えぇ、よろしく頼みました。万年山君」
そう言って、万年山は皆に連絡しに行ってしまった。無駄にカラカラと言う音を鳴らす下駄がとてもうるさく思える。
「さて、新山さんの場所はー確かあっちでしたね」
一番入り口に近いテーブル。
新山さんの場所は人が居ないと成り立たない、初めのテーブルでした。
これは受けないといけないですからね。
「出来る限り梶原君が来ますように……」
雪降り積もる中、私は手にはぁーと息を吹きかける。少し暖かくなったと感じた私は、すぐさまテーブルへと歩いて向かって行った。




