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泣いていた私のために、彼がうたってくれたあの歌を。
ずっとうたい続けてくれた、その歌を。
――私は。
大きく息を吸い込んでから、私はゆっくりとうたいはじめた。
私の声は彼よりも高いし、うたうのが特別上手いというわけでもないけれど。
私はうたう。
耳に残っている彼の声に、今は聞こえない彼の声に、合わせるようにして。
「君が笑ってくれるから、僕はうたうんだ。君の姿が見えなくても、ずっと、ずっと。僕は今日もうたい続ける。この声が、いつか君に届けば、それでいい」
彼のために、私は今日もその歌を、うたう。