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アクセサリー  作者: 真麻一花
アクセサリー 本編
15/49

15

 やれるだけのこと。

 けれど、何をすればいいというのだろう。

 信じることはできない。どうしても疑ってしまう。そして疑り続けていたい。信じてまた傷つくくらいなら、疑って「ああ、やっぱり」とあきらめた方が楽だから。けれど疑り続ける自分に、一体どれだけのことができるというのか。

 どうして「好き」だけじゃいけないんだろう。

 そう思うと切なくなった。それだけなら、きっと辛くはなかった。

 けれどそれだけではいられなくて。見返りが欲しい。雅貴にも同じように自分を思って欲しい。

 たったそれだけの願いは、果てしなく無理なことのように思える。

 実咲は雅貴からただの一度も「好き」という言葉を聞いたことがなかった。

 分かっている。たぶん、雅貴には私に対する恋愛感情はない。

 その結論に実咲は溜め息をついた。

 それは最初から分かっていたことだった。雅貴の実咲に対する感情は、友情の上の好意だ。大切にされているのも分かっている。好意を持ってくれているのも知っている。けれど、それは恋愛感情ではない。実咲の想いと雅貴の想いは同じ位置にはないのだ。けれど、いつか、好きになってもらえたら……そう期待をしていたけれど。

 なのに彼の気持ちを得るために始めた二人の付き合いは、実咲が求めれば求めるほどに、遠ざかっているように感じた。

 雅貴の気持ちを求めて、追えば追うほど遠くに感じた。

 近くにいると感じた瞬間、突き放されるような。なのに突き放されたかと思うと、いつものように側にいたり。

 私だけを見て欲しいという想いは、ついに届かなかった。

 抱き合って名前を呼ばれる瞬間はあんなにも近いのに、呼ぶ声は求められていると感じるのに、終わってしまえば寒々しいほどに、遠くにいる。もしかしたら、嫌われているんじゃないかと思うほどに、いっそ冷淡に雅貴は去ってゆく。

 突き放されているのではと感じる瞬間が怖くて、身構える癖がついてしまったのかもしれない。期待しないようにする癖が。

 癖は抜けない。そして現実も辛いことの方が多い。

 雅貴を信じるのは、とても難しいことに思えた。

 自信を持っていた、彼の実咲に対する好意すらも疑りたくなるほどに。

 付き合っている間に、ずっとつきまとっていた他の女性の影。入り替わり立ち替わり数多の女性が雅貴の周りを立ち寄っては去ってゆく。

 人気があるのも考え物だ。実咲と雅貴がつきあっているのを知らない会社の同僚達はその話題で何かあると盛り上がるのだ。実咲はそれを知っていたから、彼女たちの情報界隈では雅貴と一緒に行かないようにしていたため、見つかったことがないのだが。

 それでも雅貴が他の女性とキスしているのを見たあの瞬間まで、ずっとそれらの噂を信じないようにしていた。噂に過ぎないと。それはただの友達だと。

 けれど、あの突き放されていると感じる瞬間を重ねたぶんだけ、目をそらしていても、確かに不安はふくらんでいたのだ。

 そして、実際に実咲を抱いたその腕で、他の女性も抱いていた。

 私と雅貴の気持ちは、あまりにも違うところにある。

 実咲は何度目かの溜め息を小さくつく。

 好きだと、ただそれだけ思えていた頃のままいられたなら、どれだけ楽だっただろうと実咲は想像する。友達として側で笑っていられるだけで十分だった、あの頃のままで。

 以前は一緒にいるだけで楽しかった。趣味が似ていて、話していていつまでも会話が途切れることがなかった。CDや本の貸し借りをしたり、雅貴の男友達に混ざって一緒に遊びに行ったりもしたこともあった。

 雅貴のことを友達として信頼していた。考え方も価値観も似ていた。一緒にいて気兼ねをすることもなくとても落ち着けた。自分にとってそうなように、雅貴にとっても自分は大切な友達なんだと感じていた。

 あの頃はまだ、雅貴のだらしない面が見えていなかっただけかもしれない。雅貴は友人に対してはいい奴なのは確かなのだ。頻繁に女性を取っ替え引き替え遊んでいる割に男友達が多い。

 あの頃の実咲は、女としてより友達としての付き合いしかせず、また雅貴も女としての実咲を求めてもいなかったから、見えていなくて当たり前だったのかもしれない。

 そのままでいればよかったのに。

 けれど、それは悔やんでも仕方のないことなのだ。

 もう、友達としてみていられなくなってしまったのだから。あの頃の気持ちには戻れないのだから。

 いつ頃だっただろう、女として見られていないことが辛く思えてきたのは。

 そして、いつからだったのだろう、雅貴の軽薄な側面を感じるようになったのは。

 実咲は思い返し、そしてまた溜め息をついた。

 雅貴への思いが変わったから、それまで見えなかった側面を感じるようになった自分に気付く。彼は、以前から女性に関しては何一つ変わっていないのだと、痛感した。



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