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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

優先するのは……

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/05/27

手慰み第数弾であります。

お楽しみいただければ、幸いであります。

 婿入りする筈だった伯爵家から、正式に契約を白紙にする旨が、通達された。

 可もなく不可もない子爵家の三男坊の子息は、困惑した。

 伯爵家の長女との縁談は、伯爵家と子爵家のある事情から気が合い、その事情が幸いして実現した。

 伯爵家の方々にも、こちらの事情を納得してもらった上で縁談が進み、令嬢が成人したら結婚する事になっていた。

 婿入り先が突然消えた子爵子息は、慌てて伯爵家に先触れを出し、令嬢との面会を申し出た。

 そして、突然の婚約の解消の理由を問いただした。

「理由も、子爵家に通達済みと、聞き及んでおりましたが……」

「聞いていません」

 不思議そうに首を傾げた伯爵令嬢に、子爵子息ははっきり答える。

 理由を知る前にやって来てしまっただけだが、指摘されて焦る子息に気づかず、令嬢は答えた。

「弟の病に回復の目処が、立ちましたの。わたくしが伯爵家を継ぐ必要が、なくなったのですわ」

 唖然とした子息に、令嬢は輝く笑顔を見せた。

「わたくし、お嫁に行けるんです。あなたも、肩身の狭い思いをしなくて、良くなったのですよ」

「そ、そう、ですね」

 手放しに喜ぶ令嬢を前に、子息は乾いた笑いを向ける気力しか、なかった。


 本当に、タチの悪い婚約者だったのだなと、伯爵子息は屋敷の二階の自室の窓から、姉の元婚約者が辞す後ろ姿を見下ろしながら思った。

 元々、姉とあの子爵子息の縁談がまとまった理由が、身内にそれぞれ不治の病の者がいる、と言う共通点があったからだ。

 伯爵家は嫡男の自分が、子爵家は夫人の妹の娘の男爵令嬢が、この世界ではまだ、根治法がない病で苦しんでいた。

 実際、前の人生での今頃、伯爵子息は生死の境にいて、姉が婚姻に漕ぎ着ける前に、命を落としていた。

 今回、回復どころか、後継ぎに返り咲くまでに至ったのは、前の人生で口伝された虚弱な伯爵子息の知識を、今人生で前倒しして研究し、病の根治を実現してくれた、顧問医のお陰だった。

 伯爵子息には、日本と言う国の片隅で、闇医者をやっていた記憶がある。

 元々優秀な医師だったが派閥争いに負け、病院を去った後、裏稼業に落ちた経緯がある。

 良心を無視して様々な事をやっていた報いが、虚弱な子息への転生だったのだろうと、自分では納得していた。

 この世界では、前世の記憶を持ち、有意義な知識を伝えられる人材には、国から補償が出るらしいが、子息は黙ったまま、この人生を終えるつもりだったのだが、皮肉にも姉の婚約者の事情を知ったのをきっかけに、国への報告を決めた。

 同じように、病に苦しむ令嬢を、元気にしたい。

 その一念が、余命がない令息に火をつけ、顧問医となった男と、その弟子に、持っていた全ての知識を伝えて、満足して息を引き取った。

 と思ったのに、息苦しさで目を覚ました。

 前の人生と変わらない、虚弱な体だ。

 ああ、まだ報いは足りないのかと、この世界の唯一神を頭に思い浮かべる。

 女好きの獣神だから、令嬢を救うために知識を使えば、慈悲を貰えると考えたのだが、甘かった。

 と嘆いたものだったが、ある事がきっかけで、違うと確信した。

 まだ、国に前世の記憶持ちの申請をしていないのに、顧問医が伯爵家を訪ねて来たのだ。

「あなたの事は、誕生の報告と同時に、申請しておきました」

「は?」

「今度こそ、あなたの病を治し、伯爵家を継いで貰います」

 矢継ぎ早に言い切った顧問医は、子息が世を去った後の出来事を話してくれた。

 男爵令嬢も、伯爵令嬢が子爵子息と婚姻後、数年で世を去った。

 小伯爵夫妻は、嘆き悲しんだが、それと前後して、小伯爵に隠し子が発覚したのだ。

「男爵令嬢との間に、ではありません。彼女の家の使用人が、そのお相手でした」

「? 男爵令嬢の見舞いに行って、使用人とねんごろになっていた、と?」

「男爵家も、未婚の娘の寝室に、身内とは言え男を入れるような非常識なことは、していませんでした。あなたから要望されて、国から派遣した医師も、女の看護師を同行しておりましたから」

 小伯爵は、事実が判明した時、ヤケクソ気味に言った。

「あんなに心配していたのに、一度も二人きりで会ってくれなかったっ。だから、仕方なくっ」

 ?

 どこに、だから以降の話が繋がる?

 目が点になった伯爵子息に、顧問医は真面目に頷いた。

「要領を得ないので仕方なく、伯爵は彼に離縁を申し出、伯爵家を追い出しました」

 慰謝料を請求されたが、それは元小伯爵が手をつけた使用人とその子に渡るよう手続きし、令嬢に戻った姉は、親戚から養子をとって養いつつ、伯爵家を支える人生を送った。

「ご存じの事だったと思いますが、私の弟子とお嬢様は、思い合っておりました」

「……ああ」

「弟子はっ。前回出遅れましたっ。お嬢様の婚約の前に出会っていればっ、絶対に、あのような不幸は、起きませんでしたっ。ですから、私はっ」

「あ、すまん。もう、出遅れだ」

 顧問医の力説を、伯爵子息は申し訳ない気持ちで遮った。

「僕の主治医、男爵令嬢の主治医でもあるんだ。子爵子息とも既に、会ってる」

「はあっっ?」

 顔を引き攣らせた、中年医師を見つめながら、ぼんやりと考えた。

 前回は、身近な女全員、幸せとは言い難かった。

 やり直せと言わんばかりな巻き戻りは、そのせいかもしれない。

 姉の婚約は、止めなかった。

 男爵令嬢との縁を、深めたかったのだ。

 その間に、自分の病は回復していき、後継ぎとしての勉強も、できるようになった。

 

 伯爵家にしがみつきながら遊ぶ気だった子爵子息は、婚約解消の前に、男爵家からも出禁を食らっているらしい。

 勉強途中、お茶を淹れてくれた婚約者が、そう教えてくれた。

「わたくしの見舞い後、長く屋敷に居座っていたそうです。わたくしの全快を知られては、何か間違いが起きそうだからと、父は申しておりましたわ」

 闘病中に文通を始め、意気投合した男爵令嬢と伯爵子息は、回復してからも交流を続け、いつのまにか両家公認の仲になっていた。

 姉も、顧問医の弟子に告白され、嫁入り出来ると喜んでいるし、今回はいい話に収まりそうだ。

 だが、いいのだろうか。

 前世の因縁を引きづっている身としては、このうまい具合の幸せが、居心地悪いのだが。

 まさか、これを罰だと言わないだろうな?


 


婚約者を病弱な知り合いと秤にかけて……と、言う話のつもりが、また迷子です。

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― 新着の感想 ―
そっち目線の話しとは面白い。 慰謝料請求したのに使用人や子供に渡るようにしたとは? 身分低い方が浮気をして隠し子がいたのに慰謝料を支払ったって事? ちょっと、そこが気になってしまった。
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