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第八話 兄との再戦と新たな仮説

俺の名前はリーン・ボーン。

世間では“鼻折れ王子”なんて呼ばれている。

子供の頃からよく転んで鼻をぶつけるせいで、いつのまにかそんな不名誉なあだ名が定着してしまったのだ。


だが本当の理由は別にある。

――鼻が折れるたびに、俺だけが秘めた「スキルガチャ」が回る。

このことは家族にも、幼なじみにも、誰にも話していない。俺だけの秘密だ。

まぁミザリーにはカッコつけたくて言っちゃったけど冗談って思われてるからいいだろう。


兄ギータは王都のシー・オタール学園に通う天才。

先日の教会での鑑定で「光・闇・風」の三属性を持つことが判明し、村人たちの期待を一身に背負っている。

俺? 公式記録では無属性。差は広がる一方だ。


そんなある日、ギータが言った。

「リーン。王都に戻る前に、もう一度模擬戦をしよう」


「えっ、また!?」

「お前がどれだけ成長したか、見ておきたいんだ」


村人たちは「おお!」と盛り上がる。

俺はプレッシャーで鼻がむずむずした。



村の広場に、再び観客が集まった。

「また兄弟対決だ!」「今度はどうなる?」

「リーン坊ちゃんは鼻を折らなきゃ本領を発揮できないんだろ?」

おい、その認識やめろ!


兄は木剣を手に立っていた。

「今回はスキルも魔法も使わない。純粋な剣の技だけで戦う」


「え……それでも勝てる気がしないんだけど」

「安心しろ、手加減はする」


……一番ムカつく台詞だ。


父の号令で試合開始。


俺は気合を入れて突進した。

「うおおおおおっ!!」


カキーン!

一瞬で木剣を弾かれ、地面に転がる。


観客「早い!」「もう終わった!?」


「ま、まだだ!」

俺は再び立ち上がり、必死に木剣を振るう。


だが兄の剣は容赦なく、俺の棒切れを何度もはじき飛ばした。

「ぐはっ!」「ぐえぇ!」

俺は転げ回り、観客は大爆笑。

「リーン様、倒れるのだけは一流だ!」

「おいおい見世物かよ!」


くそっ……違うんだ! 本気なんだ!


そのときだった。


兄の木剣が、偶然俺の顔に直撃した。

ドガッ!

「ぎゃあああ!!」


激痛に悶えた瞬間、脳裏に声が響いた。

《無属性スキル:身体能力を少し強化》


「……き、きたああああ!!!」


体が軽い。筋肉に力がみなぎる。

俺は木剣を握り直し、叫んだ。

「兄上、今度こそ!!」


地を蹴ると、さっきまでとは比べものにならない速さで兄に迫った。

観客がどよめく。

「はやっ!?」「リーン様が本気に!」


だが――兄は余裕で受け止めた。

「悪くないな。少しは速くなった」

軽く押し返され、俺はまた転がった。


「ぐぉぉぉ……」

結局、試合は俺の惨敗。



だが試合後、俺はひとつの仮説にたどり着いた。


(やっぱり俺のスキルは“願い”に引っ張られる。

でも、自分で鼻を打ったときよりも――他人に殴られたときの方が、明らかに強力なスキルが出やすい!)


つまり俺は、他人から殴られてこそ成長する男。

「被弾型鼻折れチート」……悲しいけど、事実だ。


兄は手を差し伸べて言った。

「リーン、お前は確かにまだ弱い。けど……今日のお前は、少しだけ強く見えたぞ」


その言葉に胸が熱くなった。


観客は「なるほど!」とざわつく。

「じゃあ今度から村人総出でリーン坊ちゃんを殴ればもっと強くなりそうだな!」

「それ修行ってよりリンチだろ!」


ミザリーが慌てて駆け寄った。

「リーン、大丈夫!? 鼻……赤いどころか紫だよ!」

「へへっ……でも今回は意味があった」

「無茶しすぎ……でも、ちょっとカッコよかった」


……カッコいい!? 俺が!? 鼻を折られた直後なのに!?



夜。


布団に潜りながら俺は考えた。

(俺は兄には勝てなかった。三属性の天才と、鼻折れの俺。

差は開く一方……でも!)


拳を握りしめ、鼻を押さえながら俺は決意する。

「俺は痛みによって強くなる! いつか兄を超えてみせる!」


こうして二度目の模擬戦は、やっぱり俺の惨敗で幕を閉じた。

だが新たな仮説を得た俺の鼻折れ革命は、さらに加速していく――!

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