第七話 属性鑑定
俺の名前はリーン・ボーン。
鼻を折るたびにランダムでスキルを得る無属性。
農業と料理では少し役立ったけど、村人たちからは未だに「鼻折れ王子」呼ばわりだ。
今年、俺は六歳。
そして兄ギータは九歳になった。
この世界では、生まれた子は九歳までに“属性鑑定”を受けることになっている。
赤ん坊のうちはまだ属性が安定していないが、九歳を迎えると完全に定まるのだ。
そのため、各村の教会で正式に鑑定を行う。
俺はまだ対象外だけど、兄の鑑定を見に行くことになった。
―
兄ギータは王都のシー・オタール学園から一時帰省していた。
学園は七歳から入学可能で、難関試験を突破した天才ばかりが集う場所だ。
兄はその中でも優秀で、すでに“未来の英雄候補”と噂されているらしい。
村人たちは兄の帰郷に大はしゃぎ。
「ギータ様が帰ってきたぞ!」
「学園でも優秀なんだってな!」
「やっぱりボーン家の誇りだ!」
一方の俺は……
「おっ、鼻折れ王子も一緒か」
「最近は料理でちょっと役に立ってるらしいな」
「でも鼻、まだ赤いぞ」
……うるさい! 鼻は俺のアイデンティティなんだよ!
―
教会の中。
白い石造りの祭壇に、属性を見抜く魔法具が置かれている。
大きな水晶玉のようなそれに手をかざすと、属性が光となって現れるのだ。
司祭が厳かに言った。
「さあ、ギータ・ボーン。あなたの真なる属性を示しなさい」
兄は堂々と前に進み、水晶に手を置いた。
最初に現れたのは――眩い光。
「光属性……やはりな」
誰もが納得の声を上げる。
だが次の瞬間、水晶は黒く染まり、さらに風のような緑の光を放った。
「なっ……!」
「光に、闇……それに風……!?」
司祭は震える声で告げた。
「三属性……! これは十万人に一人とされる奇跡の才!」
村人たちがざわめき、歓声が広がる。
「三属性!?」「ギータ様すげぇ!」「学園でも絶対に英雄になる!」
父バーバリーは鼻を鳴らし、母キヨルは涙ぐんでいた。
「我が子ながら誇らしい……!」
そのとき俺は、胸がズキリと痛んだ。
俺と兄の差は……さらに広がった。
ギータは三属性。俺は“鼻折れ無属性”。
でも、ただ落ち込んでいるわけにはいかない。
俺には仮説がある。
(思いがスキルになる。強く願えば、俺だって――!)
俺はこっそり教会の柱に鼻をぶつけた。
ゴンッ!
《無属性スキル:スプーンを回すとちょっとカッコいい》
「……いらねぇぇぇ!」
さらにもう一発。
ゴンッ!
《無属性スキル:剣を握ると小声で効果音が鳴る》
「ぶぉん……って鳴った! けど弱ぇぇぇ!!」
必死に鼻を押さえてうずくまる俺を見て、兄は苦笑した。
「リーン、お前は本当に変わらないな」
でもその目は、ほんの少しだけ優しかった。
村人たちは兄を称え続ける。
「ギータ様がいればこの村も安泰だ!」
「リーン坊ちゃんも……まあ、面白いしな」
面白いってなんだよ!
幼なじみのミザリーだけは、俺の肩を叩いて言った。
「リーン、大丈夫だよ。ギータはすごいけど……私はリーンが好きだよ」
……お、おおおお!?
今“好き”って言ったか!?
いや、“人として好き”の可能性大か……!
―
夜、布団に潜りながら俺は考えた。
(兄は三属性、俺は鼻折れ無属性。でも……俺にしかできない道があるはずだ)
俺は小さな拳を握り、鼻を押さえながら決意を固めた。
「……俺は痛みによって強くなる! 兄にだって負けねぇ!」
こうして、俺と兄の差は歴然となった。
だが俺の鼻折れ革命も、まだ終わっちゃいない。