第五話 鼻折れ農業革命!?
俺の名前はリーン・ボーン。
鼻が折れるたびにランダムでスキルを得る、村一番の残念無属性だ。
世間からは“鼻折れ王子”なんて呼ばれ、笑われている。
兄ギータは王都の学園に旅立った。残された俺はどうしているかというと……家の手伝いだ。
父バーバリーは領主といっても、この辺境村では王侯貴族みたいにふんぞり返っているわけじゃない。
むしろ仕事は農業と畜産、それと魔物狩り。村人と一緒に畑を耕し、牛の世話をし、たまに森でオオイノシシを退治する。領主というより“働き者のおっさん”だ。
だから必然的に、俺も畑や家畜の世話を手伝うことになる。
が、この世界の農業と畜産は……とにかく遅れている!
牛は木の棒で叩かれて進むだけの原始的な農具を引き、畑は石だらけ。水路は泥が詰まり、肥料は「牛糞をとりあえず撒け」で終わり。
料理も地獄だ。塩が高級品だから味は薄く、肉は固くて臭い。前世で食べたカップ麺の方が100倍マシだ。
―
「リーン! もっと腰を入れて鍬を振れ!」
父に怒鳴られ、俺は汗だくで畑を耕していた。
(くそ……どうにかならんのか、この効率の悪さ)
俺は昔の自分を思い出した。
前世では、ただの会社員。趣味も特技もなかったが、ネットで調べ物をするのだけは好きだった。
暇さえあれば「農業 収穫率 アップ」「牛乳 消費期限」「麦 保存方法」なんて記事を読み漁っていたのだ。
その知識が今、頭の片隅から蘇る。
(そうだ……畑は輪作をすればいい。ずっと同じ作物を植えるから土が痩せるんだ。水路も溝を掘って傾斜をつければ流れる。牛糞だけじゃなく、落ち葉や灰を混ぜれば肥料になるはずだ)
ただの雑学だが、この世界では誰も知らない革命的アイデアだ。
俺は鼻を石にぶつけた。
ゴンッ!
「ぐわっ!」
《無属性スキル:作物の成長がわかる》
「おお! ネット知識と組み合わせれば使えるかも!」
―
次の日。
「みんな! 俺に任せろ!」
畑に村人たちを集めた俺は、堂々と宣言した。
「この畑はもう栄養が尽きてる! 来年は違う作物を植えろ!」
「土は牛糞だけじゃ足りん。落ち葉と灰を混ぜて腐らせろ!」
「水路はこっちに傾斜をつけろ!」
村人「はぁ?」「またリーン坊ちゃんが妙なことを……」
父も腕を組んで唸った。
「そんな面倒なことして意味があるのか?」
「ある! 俺は見えるんだ! 作物の成長率が! こっちは30%で止まってる! だが肥料を変えれば50%まで伸びる!」
村人たちは半信半疑だったが、とりあえず俺の指示通りにやってみた。
―
数週間後。
カブは青々と茂り、小麦の穂は黄金色に実った。
「すげぇ……! 本当に育ちが早い!」
「こんな大きなカブ、見たことねぇ!」
「リーン坊ちゃん、もしかして天才か!?」
ちがう、ただのネット雑学と鼻折れスキルだ。
―
さらに俺は実験を重ねた。
鼻を柱にぶつける。
ゴンッ!
《無属性スキル:土の栄養がわかる》
牛小屋で角にぶつかる。
ゴンッ!
《無属性スキル:牛の体調がなんとなくわかる》
「これは……畜産にも使えるぞ!」
牛がどれだけ疲れているかが見えるから、休ませるタイミングがわかる。乳の出も安定し、村の食卓には初めて「新鮮な牛乳」が並んだ。
母はスープを作りながら感動していた。
「味が……前よりずっと良くなった!」
「そりゃそうだ、今までは腐りかけの野菜と臭い肉しかなかったからな!」
「リーン! 食事のときにそんなこと言うんじゃありません!」
―
夜。
幼なじみのミザリーが、改良されたスープを持ってやってきた。
「リーン、これ美味しいよ! ほんとに革命だね!」
「だろ? 俺の鼻折れ農業革命だ!」
「鼻折れって言うと美味しくなく聞こえるけど……でもすごいよ!」
ミザリーが笑ってくれると、鼻の痛みも悪くない気がしてくる。
俺は拳を握った。
「……俺は痛みによって強くなる! そしてこの村を豊かにしてみせる!」
その夜も石に顔をぶつけた。
ゴンッ!
《無属性スキル:鶏が卵を産むタイミングがわかる》
「……いや、地味すぎるだろ!」
でも、きっとこれも役に立つ。
俺の農業革命は、まだ始まったばかりだ。