未来詩 空を裂く
月下、空が裂けた。
白銀の斬撃が夜を切り開く。
「──斬域制御、起動。オルド、合わせて」
月明かりに照らされた荒野に舞う、一人の剣士。
大きな狐耳と自慢の尾が彼女──ルナシアの動きに合わせて揺れる。
風が草原を撫でていく。静寂が支配する戦場で、ただ二つの存在が対峙していた。
「了。感覚同期完了、いつでもいけるよ、ルナシア」
白銀の髪を夜空に靡かせる彼女の肩には、一足単眼の異形の梟──戦術支援AI。
海のように深い瞳は、今は主ではなく標的へと向けられている。
月光が二人を包み、運命の瞬間が近づいていた。
「挑むか! 否定するか! 我らの進化を!」
声が荒野に響く。
「永遠を生きる新たな人類を! 我らの進化は、滅びの先にある。 永遠に死なぬ新たな人類を──神の殻を脱ぎ捨てた”終端”だ!」
顔を髑髏で覆った、全身に闇を纏った存在が声高らかに宣言する。
新たな人類の誕生を。
その言葉は夜空に吸い込まれ、やがて重い沈黙が戻ってきた。
「ごめんね」
ルナシアの声は静かで、しかし芯が通っていた。
「私はあなたを認められない。だから、これは祈りでも赦しでもない。
人間のエゴ」
鍔のない黒刀が月光を受けて鈍く光る。
拡張された斬撃が、髑髏面へと伸びる。
「吐いた色、消した匂い。名もなく、因果もなく──」
紡がれるのは彼女にのみ許された、唯一スキルへ捧げる詩。
斬撃をなぞるように白銀の焔が流れていく。
『白銀の亡霊』の今や代名詞となったこの二つのスキルで、幾度もの死線を潜ってきた。
「刃より細く、赦しより静かに。灰を踏んで消える指先──」
本当に、これでよかったのか──そんな迷いすら、刃に沈めた
「我ここに至れり! 憤慨する魂の権化──」
髑髏面もまた、詠唱を始める。
二つの意志が、二つの力が、月下で激突しようとしていた。
プレイヤーとAI。
人類の進化を決定する魂の極技が、
今、
交差する。
──夜が、すべてを呑み込んだ。