第1話 — 変わらない日
「昨日と明日の間に、終わり方を知らない今日がある。」
「行ってきます、お母さん!」
玄関から声が響いた。彼女は急いで靴を履いていた。
「気をつけてね」母はコンロから目を離さずに答えた。
前の門がいつものように軋んだ。空は澄んでいて、雲ひとつなかった。
文句のつけようがない朝だった。
彼女は通学路を少し急ぎながら、肩のリュックを直した。
間に合うかも。間に合わないかも。最後に時計を見た時、あと7分だった。
また先生が怒鳴ったら…日誌に書かれて、家に電話されて、たった2分のことで大騒ぎ。
学校の階段を少し急ぎ足で登った。
左から三番目の教室。迷わず向かった。
何も考えずにドアを開けた。
「ここって、2-Bですか?」
少年は驚くこともなく彼女を見た。
「今週、もう四回目だよ…」
先生は書類から目を離さずに言った。
「隣の教室ですよ、嬢ちゃん」
彼女は返事もせず、静かにドアを閉めた。
今日は歴史だったっけ?それとも生物?
まあ、どっちでもいいか。
階段の隅で、小鳥が落ち葉をつついていた。
火曜日にも…いたような?
彼女は眉をひそめたが、長くは考えなかった。
遅刻してるんだから。
今度こそ、正しい教室に入った。たぶん。
いつもの窓際の席。リュックを床に置いて、ノートを机に。
陽の光が差し込んでいた。昨日と同じように。いや、同じすぎる。
「おはよう、みんな」先生は誰も見ずに言った。
同じ口調。同じ「みんな」の前の間。
昨日も聞いた気がする。いや、一昨日も?
さっきの2-Bの少年が廊下を通り、自分の教室へ向かった。
一瞬だけ彼女を見た。まるで、無意識に認識したように。
彼女は目をそらし、紙の端に何かを描くふりをした。
「42ページを開いて」先生が言った。「遺伝子変異の部分から始めます」
42ページ。また?
彼女は教科書を開いた。角が折れていた。
その段落は読んだことがある。ピンクの蛍光ペンで線まで引いてあった。
でも…そんな記憶はなかった。
隣の席のショートヘアの子がぼそっと言った。
「この先生、同じことばっかり言ってる。授業が全然進まないよね」
返事しようとして、止まった。
その言葉、聞いたことがある。まったく同じ口調で、同じタイミングで。
チャイムが鳴った。大きすぎる音。いつもと同じ音。
休み時間が、いつもの騒がしさと共にやってきた。
生徒たちは教室から出てきた。まるでリハーサルでもしたかのように。
同じ笑い声。同じ話し声。
彼女は中庭へ向かい、座れる場所を探した。
体育館の近くのベンチは空いていた。いや、ほぼ空いていた。
2-Bの少年がそこにいた。膝の上に本を開いて。
彼女は一瞬ためらったが、向かった。
「また教室間違えてたね」彼は目を上げずに言った。
彼女は立ち止まった。
「前に会ったことある?」好奇心の方が戸惑いより強かった。
彼はゆっくり本を閉じた。
「あると思う。たぶん。でも、いつだったかは分からない」
彼女は断りもなく隣に座った。
しばらく沈黙が続いた。
不快ではない。でも、何も説明しない沈黙。
「一日が変わらないって感じたことある?」彼が尋ねた。
彼女は空を見上げた。雲ひとつない。
いつもの空。
「分かんない。あるかも」
彼はボールで遊ぶ生徒たちを眺めた。
一つのミスキック。ボールはいつもの柵の角に当たった。
同じ子が走って取りに行った。
彼はそれを見たことがある。
「昨日も…君、2-Bかって聞いてたよね」
彼女は少し照れ笑いした。
「ドアのセンスがないの」
「でも、まったく同じだった。言い方も、表情も」
彼女は彼を見た。
「ちょっと怖いこと言ってるよ」
「ごめん。ただ…この日をもう経験した気がして」
彼女は立ち上がり、リュックを整えた。
「強めのデジャヴってやつかな」
「それ以上かも」
彼女は答えなかった。
チャイムがまた鳴った。
大きすぎる音。いつもと同じ音。
教室では、先生が同じ書類を持っていた。
同じ姿勢。
「42ページを開いて」
授業の終わりは、予告なしに訪れた。
いや、いつもの予告だったかもしれない。
彼女はノートをしまい、リュックを持って、流れに乗って教室を出た。
廊下で、2-Bの少年が彼女の横を通り過ぎた。
いつものように、ちらっと見ただけ。
彼女は何か言おうと思った。でも、言わなかった。
階段では、足音がいつものように響いていた。
何人かのクラスメートが、何かのゲームについて大声で話していた。
彼女は耳を傾けなかった。
「じゃあ、また明日ね!」背後から声がした。
隣の席の、ショートヘアの子だった。
彼女は顔だけを向けて、手を振った。
「うん、またね」
名前は知らなかった。
いや、知ってたかもしれない。でも忘れた。
彼女は急ぎ足で校舎の階段を降りた。
太陽はまだ空にあった。しっかりと。
同じ角度。同じ光。
門を押すと、ギィと音を立てた。
外の世界は普通に見えた。
いや、ほぼ普通に。
帰り道はいつも通り。
同じ家々。同じ犬たちが塀の向こうで吠えていた。
彼女はあまり見ずに通り過ぎた。
角を曲がると、自転車に乗ったおじさんがゆっくり通り過ぎた。
彼女は前にも見たことがある。
いつも水曜日だったっけ?
それとも月曜日?
「授業どうだった?」母が鍋をかき混ぜながら聞いた。
「普通。先生、42ページに取り憑かれてるみたい」
母は笑った。
「先生って、そういうお気に入りのページあるのよね」
彼女は自分の部屋に上がった。
リュックをいつもの隅に投げた。
スマホが震えていた。通知はどれも見覚えのあるものばかり。
友達からのメッセージ:「今日の授業、退屈だったね」
昨日も見た気がする、同じ言葉。
彼女は適当に絵文字を返した。
考えたくなかった。
この章は、指のすき間からこぼれ落ちる夢を思い出そうとするような気持ちで書いた。 大きな展開や答えがあるわけじゃない。 ただ、繰り返される一日に閉じ込められているような感覚について書きたかった。 魔法じゃなくて、習慣のせいで。
42ページ、きしむ門、間違った教室に入る少年… すべてが戻ってくる。すべてが響き合う。 その中で、どうしても消えない疑問がある。 時間って本当に進んでるの? それとも、僕らが混乱しないように、進んでるふりをしてるだけ?
この章を書いたのは、何でもない普通の日。 昨日と同じ空が広がっていた。 たぶん、本当に同じだったんだと思う。
もし君が「この日をすでに生きたことがある」と感じたなら、 君はきっと、正しい場所にいる。 あるいは、僕と一緒にこの終わらない物語に閉じ込められているのかもしれない。
でも、心配しないで。 まだ第2章がある。
そして、もしかしたら—— その章では、日が動き出すかもしれない。