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没落した元高慢悪役令嬢で結構。シーフとして成りあがります(いえ、短剣士ですわ)~イバラ屋敷の姫と令息、そして聖女~  作者: 未玖乃尚
第三章 イバラ屋敷の姫と令息

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13 記憶の残響

 門の外は背丈ほどの雑草で生い茂り、手入れがされなくなってからの時間の経過を示していた。


 鳥の囀りに紛れて、風がそよぎ、擦れ合う葉の音が、頭上から注ぐ。


 汗が滲む額には心地良かった。

 古びた門を仰いで辺りを見回す。


 セレーナさんから聞いた話によると、ここがノエランとナージャが出会った場所だ。


 通用口が風で軋んだ音を立てていた。イズルが扉を押して中に入った。後に続く。


 庭園が広がった。

 伸びた草花が屋敷までの小径を隠し、鮮やかであったであろう光景を過去のものへと変貌させていた。


 足元に降りたセバスチャンが、トテトテと小径を駆けて、古ぼけた木の幹を上る。枯れ枝を飛び移り、楽しそうに、鳴き声を出した。


 一番乗りで屋敷の正面に辿り着いたセバスチャンが、こちらを向いて小首をかしげた。


 私は思わず足を止めた。イズルの肩越しに白骨が横たわっているのが見えた。


「何でしょう、これは」

「骨じゃね?」

「それくらい分かってます!」


 知りたいのは、ここに白骨化した遺体が横たわっている原因だ。


 間近で確認することに躊躇い、距離を取って観察する。イズルの背中に隠れる。


「気になるなら、もっと近づけば?」

「動き出したら、どうするんです。しっかり私を守りなさい」


 肩に手を置き、顎を出して覗くと、間近にイズルの視線を感じた。


「へいへい」


 それでいいのです。私はお化けが苦手なのです。

 白骨は一つではなかった。複数の骨が雑草に紛れていた。


 セバスチャンが私に向かって声を出す。ぼんやりとした光に反応しているようだ。キラキラ輝く胞子が規則性を帯びて集まり、一本の筋を描いていた。


 手を伸ばして掴もうとする。

 指先と白骨が糸で結ばれた。


「どうした?」


 近づこうとする私にイズルが尋ねる。


「これ」


 手を振って、白骨と繋がる糸を揺らした。


「なんだ?」


 眼前に迫ったイズルの額を叩く。


「しれっと近寄るんじゃありません」

「お前が手招きしたんだろ」

「違います。私はこの糸についてお聞きしようと思って」


 イズルは怪訝そうにするばかりだ。


「私の手と、あそこの白骨の間が糸で繋がっているんです」

「どれどれ」


 イズルは私が示す遺骨にズカズカ進み、傍らに腰を落として覗き込む。

 この人は、全く躊躇しませんわね。無神経さが、少し羨ましくなる。


「糸なんてないぞ」

「そんなはずは」


 背後からイズルの腕を掴んで、彼の手を頭蓋骨付近に浮かぶ光の塊に触れさせる。


「この辺。この辺を見て」

「骨だけだって」


 イズルには糸が見えていない?


「以前にも、同じことがありました」


 ノエランの屋敷での出来事だ。警備兵の短剣と糸が繋がり、確信した上で抜き取ることに成功した。


「それがサラの能力なのかもな。糸で繋がったものを自分のものに出来る、とか。さすがシーフ」

「私のジョブは短剣士です」

「ならば短剣士よ。その糸で、頭蓋骨を盗むのだ」


 大仰に言ってますが、短剣士と呼称しただけで、文脈で私を盗賊扱いしてますけど!


 あと、頭蓋骨ではありません。頭蓋骨の上を漂う、球状の何かです。


 空間に浮かぶおぼろげな輝きが、私を招いていた。


 ぴくりと指が跳ねた。吸い寄せられる。

 これが自然なことなのだと本能的に察した。


 光に触れた。

 意識しているわけではなかった。


 呼び寄せられた、いや、私自身が手繰り寄せたというべきなのか。重なると、光は指の中で騒めき、輝きだした。記憶が、流れ込んでくる。


 イズルの言葉に従えば、過去の記憶を自分のものにしたということなのだろうか。


 私は、注ぎ込まれる意識に感覚を委ねた。

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