13 記憶の残響
門の外は背丈ほどの雑草で生い茂り、手入れがされなくなってからの時間の経過を示していた。
鳥の囀りに紛れて、風がそよぎ、擦れ合う葉の音が、頭上から注ぐ。
汗が滲む額には心地良かった。
古びた門を仰いで辺りを見回す。
セレーナさんから聞いた話によると、ここがノエランとナージャが出会った場所だ。
通用口が風で軋んだ音を立てていた。イズルが扉を押して中に入った。後に続く。
庭園が広がった。
伸びた草花が屋敷までの小径を隠し、鮮やかであったであろう光景を過去のものへと変貌させていた。
足元に降りたセバスチャンが、トテトテと小径を駆けて、古ぼけた木の幹を上る。枯れ枝を飛び移り、楽しそうに、鳴き声を出した。
一番乗りで屋敷の正面に辿り着いたセバスチャンが、こちらを向いて小首をかしげた。
私は思わず足を止めた。イズルの肩越しに白骨が横たわっているのが見えた。
「何でしょう、これは」
「骨じゃね?」
「それくらい分かってます!」
知りたいのは、ここに白骨化した遺体が横たわっている原因だ。
間近で確認することに躊躇い、距離を取って観察する。イズルの背中に隠れる。
「気になるなら、もっと近づけば?」
「動き出したら、どうするんです。しっかり私を守りなさい」
肩に手を置き、顎を出して覗くと、間近にイズルの視線を感じた。
「へいへい」
それでいいのです。私はお化けが苦手なのです。
白骨は一つではなかった。複数の骨が雑草に紛れていた。
セバスチャンが私に向かって声を出す。ぼんやりとした光に反応しているようだ。キラキラ輝く胞子が規則性を帯びて集まり、一本の筋を描いていた。
手を伸ばして掴もうとする。
指先と白骨が糸で結ばれた。
「どうした?」
近づこうとする私にイズルが尋ねる。
「これ」
手を振って、白骨と繋がる糸を揺らした。
「なんだ?」
眼前に迫ったイズルの額を叩く。
「しれっと近寄るんじゃありません」
「お前が手招きしたんだろ」
「違います。私はこの糸についてお聞きしようと思って」
イズルは怪訝そうにするばかりだ。
「私の手と、あそこの白骨の間が糸で繋がっているんです」
「どれどれ」
イズルは私が示す遺骨にズカズカ進み、傍らに腰を落として覗き込む。
この人は、全く躊躇しませんわね。無神経さが、少し羨ましくなる。
「糸なんてないぞ」
「そんなはずは」
背後からイズルの腕を掴んで、彼の手を頭蓋骨付近に浮かぶ光の塊に触れさせる。
「この辺。この辺を見て」
「骨だけだって」
イズルには糸が見えていない?
「以前にも、同じことがありました」
ノエランの屋敷での出来事だ。警備兵の短剣と糸が繋がり、確信した上で抜き取ることに成功した。
「それがサラの能力なのかもな。糸で繋がったものを自分のものに出来る、とか。さすがシーフ」
「私のジョブは短剣士です」
「ならば短剣士よ。その糸で、頭蓋骨を盗むのだ」
大仰に言ってますが、短剣士と呼称しただけで、文脈で私を盗賊扱いしてますけど!
あと、頭蓋骨ではありません。頭蓋骨の上を漂う、球状の何かです。
空間に浮かぶおぼろげな輝きが、私を招いていた。
ぴくりと指が跳ねた。吸い寄せられる。
これが自然なことなのだと本能的に察した。
光に触れた。
意識しているわけではなかった。
呼び寄せられた、いや、私自身が手繰り寄せたというべきなのか。重なると、光は指の中で騒めき、輝きだした。記憶が、流れ込んでくる。
イズルの言葉に従えば、過去の記憶を自分のものにしたということなのだろうか。
私は、注ぎ込まれる意識に感覚を委ねた。




