05話 ライバルの新たな顔
俺、佐藤健太、今はエリック、13歳。
貴族バルトン家を捨て、冒険者として旅を続けている。
母・アリシアを探す目標は変わらないが、最近、俺の頭を占めるのは別の存在だ。
リナ。
あの腰まで届く三つ編みをビシッと振る、負けず嫌いな少女。
彼女は俺と同じ転生者で、転生レースのライバル「ベテラン精子」の生まれ変わりだ。
…なのに、なんで最近、彼女を見る目が変わってきたんだ?
交易都市の冒険者ギルドで、俺とリナはいつものように競い合っていた。
今回の依頼は、森の奥で暴れる巨大猪の討伐。
報酬を山分けする条件で、どっちが猪を仕留めるか勝負だ。
「おい、金髪!オレの剣が先にブタの首を落とすぜ!」リナは剣を振り回し、ニヤリと笑う。
彼女の口調も態度も、まるで前世の体育会系そのもの。
市場で飯を食いながら「仕事の愚痴」を言い合う時も、男友達とつるんでるみたいだ。
実際、俺もリナを「ベテラン精子の奴」として見てるから、気楽にバカ話ができる。
森に入ると、リナは猪の足跡を素早く見つけ、「ほら、オレの嗅覚、最強だろ!」とドヤ顔。
俺も負けじと魔法「光球」で周囲を照らし、猪の気配を追う。
猪が飛び出してきた瞬間、俺とリナは息を合わせて動いた。
俺が「光球」で目を眩ませ、リナが剣で突進。
だが、猪の反撃でリナが弾き飛ばされそうになる。
「リナ、危ない!」俺は咄嗟に彼女をフォローし、魔法「風刃」で猪の足を斬る。
バランスを崩し急所を無防備にさらす猪。
体勢を立て直したリナがトドメを刺し、勝利。
「へっ、助かったぜ、金髪。…でも、トドメはオレのもんだ!」
リナは汗を拭い、いつもの勝ち誇った笑顔。
だが、その時、彼女の三つ編みが解け、長い髪が風に揺れた。
陽光に照らされたリナの顔は、いつもより…なんだ?柔らかく見える…。
俺の胸が、妙にドキッとした。
「…お前、髪、綺麗だな…」と呟くと、リナは
「は?何だよ、急に」と照れくさそうに髪を掴む。
その仕草、男友達のベテラン精子じゃなくて、ちゃんと少女だ。
その夜、キャンプでリナと焚き火を囲んだ。
彼女はいつもの調子で「次もお前をぶっちぎるぜ!」と拳を振り上げているが、
ふとした瞬間、変化が目につく。
少し前まで、彼女は剣の稽古で汗だくでも平気だったのに、
最近は「汚れた」とか言って川で顔を洗う。
市場で値切り勝負する時も、
商人のおっさんに「可愛いお嬢ちゃん」とからかわれると、顔を赤らめて「う、うるせえ!」と叫ぶ。
…リナ、お前、どんどん女の子っぽくなってないか?
「なあ、リナ。お前最近…なんか変わったよな?」
俺が言うと、彼女は薪を投げ込みながら鼻を鳴らす。
「変わった?ふん、そんなこと無えだろ!…まあ、最近、鏡見ると、なんか変な気分になるけどな。」
彼女は三つ編みをいじりながら、珍しく声を小さくする。
「男の感覚で動いてるから、この体が馴染んでないような、
それに最近、なんか、頭が…フワフワする時があってさ。
…お前は、変な感じすること、ねえ?」
俺はゴクリと唾を飲む。
リナの言葉に、前世の記憶と今の自分が入り混じる。
ベテラン精子だったリナは、ガチガチのライバルだった。
でも、今目の前にいるのは、剣を振る姿も、照れる顔も、全部が「リナ」だ。
俺は彼女の三つ編みを見つめながら、つい口に出す。
「…お前、なんか、最近、いい感じだよ。」
「は!?何!?急にキモいこと言うな、金髪!」
リナは顔を真っ赤にして立ち上がり、三つ編みをブンッと振る。
だが、逃げるようにテントに引っ込む彼女の背中は、いつもより小さく見えた。
俺は焚き火を見つめ、苦笑い。
「…やばい、俺、リナのこと、ただのライバルとして見れなくなってる…」
数週間後、ギルドの次の依頼で、俺とリナはまた一緒になった。
今度は遺跡探索。
リナは相変わらず「オレが一番!」と突っ走るが、
罠を避ける時に俺の手を握ったり、暗闇で「ちょっと怖えな…」と呟いたり。
彼女の男勝りな態度は健在だけど、少女らしい一面がどんどん顔を出す。
俺も、彼女のそんな姿に惹かれていく。
ベテラン精子の記憶は薄れ、リナ自身が、俺の胸を占める。
「なあ、リナ。俺たち、いっつも競いあって
いつまで転生レースの続き、やってるんだろうな。」
俺が言うと、リナはニヤリと笑う。
「へっ、お前が降りるのは自由だ。オレは今後もずっと一番になりたい!
…でも、なんか、お前と競うのは、嫌いじゃねえんだよな…。」
彼女の笑顔に、俺は頷く。
「ああ、俺もだ。嫌いじゃない。お互いにどこまで行けるか、試してみよう。」
女神の転生レースは、俺たちを再び引き合わせた。
この世界で、リナとどんな未来を切り開く?
母を探す旅も、冒険も、そしてリナとの関係も。
俺の転生人生は、まだまだ始まったばかりだ。