04話 再会のライバル
俺、佐藤健太、今はエリック、12歳。
壮絶な転生レースを勝ち抜き、中位貴族バルトン家に生まれたが、
貴族社会の冷たい目に耐えかね、5歳で家を捨てた。
修道院を魔物から救った一件で冒険者集団に拾われ、今は彼らと旅をしながら剣と魔法を磨いている。
母・アリシアとの再会は叶わなかったが、いつか彼女を見つけるため、俺は強くなる。
そんなある日、旅の途中で立ち寄った交易都市で、妙な冒険者と出会う。
都市の市場は活気に溢れ、商人たちが大声で客を呼ぶ。
俺は冒険者ギルドの依頼で、薬草を買い付けに来ていた。
そこに、腰まで届く長い三つ編みを揺らす少女が現れた。
年の頃は俺と同じくらい。
商家の娘らしい派手な服を着て、自信満々に胸を張っている。
「おい、そこの金髪!その薬草、良い品だろ?でも、オレならもっと安く仕入れられるぜ!」
彼女はニヤリと笑い、俺の持つ薬草の束を指差す。
…なんだコイツ、初対面で喧嘩売ってんのか?
「は?お前、ただのガキだろ?商売舐めんなよ。」
俺も負けじと返す。
すると、彼女は三つ編みをビシッと振って一歩踏み出す。
あの三つ編みどうやって動いてんだ?
「ガキ?ふん、ここの市場でオレに敵う奴はいねえ!
よし、勝負だ!同じ薬草、どっちが安く大量に仕入れられるか!」
こうして、わけがわからんまま競争が始まった。
市場を駆け回り、値切り、商人と舌戦を繰り広げる。
彼女の交渉術は鋭く、まるで熟練の商人だ。
結局、俺が50束を10シルバーで仕入れたのに対し、彼女は55束を9シルバーでゲット。
僅差で俺の負け。
「へっ、オレの勝ち!どうだ、金髪!」彼女は三つ編みを振り回し、勝ち誇る。
その仕草、妙に記憶に引っかかる。
「…どこかで見たような…?」俺が呟くと、彼女は目を細め、
「お前も…なんか初対面って感じがしねえな」と笑う。
その夜、冒険者たちのキャンプで、彼女が再び現れた。
名前はリナ。商家の娘らしい。
両親は行商の途中に山賊に遭遇して死亡。
祖父母の元に預けられたが、数年前に冒険者として家を飛び出したのだ。
ギルドに薬草を卸しに来たついでに、俺に「もう一戦」を挑みに来たってわけか。
今度は剣の素振り勝負。
リナは商人なのに剣まで扱えるらしく、木剣を軽快に振る。
「お前、冒険者ならこのくらい朝メシ前だろ?かかってこい!」
素振りのリズム、剣の構え、尾を振るような三つ編み…。
俺の頭に、あの転生レースの光景がフラッシュバックする。
ベテラン精子。
あの筋骨隆々の奴が、ゴール直前で「俺が勝つぜ!」と叫び、尾をビシッと振ってた姿。
…まさか、こいつ!?
勝負後、息を切らしながら、俺は単刀直入に聞いた。
「なあ、リナ。お前…前世の記憶…とか、持ってない?」リナの目が一瞬鋭くなる。
だが、すぐにニヤリと笑った。
「お前もか、金髪。…へっ、面白いな。まあ、オレもだ。
転生レース、覚えてるぜ。あのクソみたいな戦場のこと!」
彼女の話は衝撃だった。
リナも女神の転生レースに参加し、
敗北した後、別のレースで勝利してこの世界に生まれたらしい。
女神のルールでは、負けた転生候補者は別の機会に再挑戦できる。
「オレ、8回めのレースでトップ集団だったんだぜ。
なのに、僅差で負けた。悔しくてよ、今でも夢に見る!」
リナは拳を握り、熱く語る。
「だから、9回目のレースで大差で勝利して、今ここにいるって訳さ!」
「8回目…お前、あの時のベテラン精子か?尾をビシッと振って、
俺を抜こうとした奴!俺が勝つぜ!って言ってた!」
俺が言うと、リナは目を丸くし、爆笑した。
「ハハッ!マジか!お前、あの時勝った新入りか!やっぱり初対面じゃねえわけだ!
くそ、負けたままじゃ終われねえな!」
それから、俺とリナは何かと競い合う関係になった。
市場での値切り勝負、剣の稽古、魔法の詠唱速度。
リナは負けず嫌いで、いつも俺を煽ってくる。
「お前、転生レースじゃ勝ったかもしれねえけど、今度はオレが一番だ!」
三つ編みを振る姿は、あのベテラン精子の闘志そのものだ。
けど、競い合うだけじゃない。
夜のキャンプで、俺たちは前世の話をした。
リナの前世は、商人だったらしい。
交渉事に強いのは、前世で培った商人の技術を引き継いだのだろう。
「行商の帰りに山賊に襲われてよ、あっけなく死んじまった。今世の両親と同じだな。
転生レースは…まあ、別の意味で地獄だったな!」
彼女は笑うが、ほんと、シビアな世界だ。
「誰とも知らねえ野郎のキンタマスタートとか、意味わかんねえ!まあ、後の親父だったんだがな!」
「そっちかよ」
リナとの出会いで、俺の旅に新しい火が灯った。
母・アリシアを探す目標は変わらない。
だが、今はリナと切磋琢磨しながら、冒険者として強くなるのも悪くない。
「ははっ、リナ。次もお前をぶっちぎってやるぜ!」
「ほぉ、言ったな!かかってこい、金髪!」
女神の気まぐれな転生ルールのおかげで、俺は最強のライバルと再会した。
この世界で、俺たちはどこまで行ける?