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14話 涙の告白

ルミエールの町は朝霧に包まれ、大聖堂の尖塔が金色の光を放つ。

エリックは門前に立ち、両手の拳を握りしめる。

母が、アリシアがここにいるかもしれない。

その思いが胸を高鳴らせ、同時に不安で凍らせる。


「母さん…俺、ようやくここまで来たよ。

 でも…会ってくれるのかな?俺を、受け入れてくれるのかな?」

転生レースの記憶、母の悲鳴が脳裏をよぎる。

リナが三つ編みを振って、エリックの背をドンと叩く。


「おい、金髪!何だよ、まーだビビってんのか?

 母ちゃんのとこだろ、行こうぜ!」

彼女の口調は力強いが、目は心配そう。

マリアも、


「ハッ、金髪、母貴に会うんだろ?堂々と行け!」と後押し。

クレアが微笑む。


「エリックさん、大聖堂は希望の光よ。アリシアさんも、きっと…。」

だが、エリックは足を踏み出せない。


門の前に立つ修道士に「アリシアというシスターを…」と声をかけようとするが、言葉が詰まる。

リナがムッと三つ編みをいじる。


「金髪、動けよ!それとも、アタシが行ってこようか!?」

エリックが苦笑する中で、穏やかな声が響く。


「そこのあなた、なにか悩みを抱えているのではなくて?」

顔を上げると、白髪を結った年配の女性の姿がある。

修道院長だ。


彼女の目はエリックの動揺を優しく見透かし、


「こちらへおいでなさい。大聖堂は悩める子羊を迎える場所よ。」

と招き入れる。


エリックは仲間を見回し、リナが頷く。


「…行ってこい、金髪。アタシら、ここで待ってる。」

マリアが肩を叩き、

「しっかりな!」

ガイルとクレアも微笑む。



院長に導かれ、エリックは大聖堂の奥、相談部屋へ。

道中で院長は一人のシスターに声をかける。

「……呼んでほしいの。そう、急ぎで。」


相談部屋は木製の仕切りで空間が二つに隔てられており、

お互いの顔は見えない。

部屋は薄暗く、燭台の炎が揺れる。

院長が椅子に座り口を開く。


「こちらに、聖女セレナが同席しているわ。

 彼女と共に、あなたの心を聞きましょう。」

院長の隣に白いローブに身を包み、薄布で顔を隠した金髪の女性、聖女セレナが立つ。

金髪が燭光に揺れ、エリックの胸がざわつく


院長とセレナが仕切りの反対側に座り、エリックは一人、木の椅子に腰掛ける。

仕切り越しに、院長の声。

「子よ、心の内を話してごらん。何を背負っているの?」

エリックは拳を握り、深呼吸。

丁寧に、ポツポツと話し始める。


「…俺…いえ、私は、生き別れの母を探しています。

 この大聖堂に、母がいるかもしれないと聞きました。母の名は、アリシア…」

言葉に詰まる。


「5歳で生家を飛び出して、やっとここまでたどり着きました。

 でも、会う勇気がでません。拒絶されるのが怖いのです…。」


震える声で、言葉を続ける。


「私は、望まれずに生まれた子です。

 母は私を抱いてくれませんでした。

 心を閉ざして、修道院へ行ったと…。

 母が私を憎んでいるんじゃないかって、不安で…。

 私が、生まれてきてはいけなかったんじゃないかって…。」

燭光が揺れ、エリックの目から涙がこぼれる。


「旅をする中で、一緒にいたいと思える人ができました。

 仲間で…ライバルで、大切な人…。でも、私は、愛を知らないんです。

 母に愛されなかった私が、どうやって人を愛すればいいのか…人を愛することができるのか…。」

涙が頬を伝い、床に落ちる。


エリックは気づかぬうちに、声を詰まらせていた。

仕切り越し、聖女セレナのローブが微かに揺れる。

彼女は無言だが、息遣いが僅かに乱れる。

院長が静かに言う。


「子よ、よく話してくれました。あなたの心は不安に満ちているのですね…。

 まずは心を落ち着けなさい。

 少し聖女と二人で話してみると良いでしょう。」

院長は立ち上がり、

「お願いね」と聖女セレナに告げて部屋を出る。


扉が閉まり、相談部屋にはエリックと聖女セレナだけが残される。

仕切りの向こう、彼女の金髪が燭光に揺れる。

エリックの涙は止まらず、心は不安で揺れている。

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