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13話 絆の夜

山間の村の宿、木造の部屋に月光が差し込む。

エリックはベッドに座り、剣を磨く手を止める。

ルミエールの大聖堂の光を温泉で見た。

もう手の届く距離にいる母アリシアへの思いが胸を締め付ける。


「母さん…聖女って、すごい人なんだろうな。俺に会ってくれるかな?

 …あの悲鳴、俺が産まれたせいで母さんの心が閉ざされた…。」


転生レースの記憶。アリシアの悲鳴が頭を離れない。


ドアがノックされ、リナが顔を覗かせる。

「よお、き…エリック…まだ寝てねえなら、ちょっと話さねえ?」

彼女の声はいつもの乱暴な口調だが、妙に柔らかく、

三つ編みが頼りなげに月光に揺れる。

エリックが驚き、「リナ?…お、お前、こんな時間に何だよ?」


リナは部屋に入り、ベッドの端に腰掛ける。

「…何だよって、なんか暗え顔してたからさ。

 アタシ、放っとけねえだろ、相棒として。」

エリックは苦笑し、剣を置く。

「…バレてたか。…母さんのこと、考えてた。

 ルミエールの大聖堂はすぐそこなのに…俺、怖いんだ。

 母さんは、俺を嫌ってるんじゃないか?って。」


エリックの声は震え、目を伏せる。


「転生レースの時のあの声…母さんの悲鳴が忘れられない。

 俺が生まれたせいで、母さんは心を閉ざして、俺から離れたんだ。

 なのに、俺の方からノコノコ出向いて、母さんに嫌なこと思い出させるんじゃないかって…」


リナは三つ編みをいじり、珍しく静かに言う。

「…エリック、アタシもあの悲鳴、覚えてる。

 あん時の、レースしか見てなかったアタシは、ゴールに向かうだけで精一杯だった。

 …今は、なんか、胸が痛え。

 お前の母ちゃんが()()()()()にあって、

 それでも聖女として誰かを救ってるなら…すげえ人だよ。」

彼女はエリックを見上げる。頬が微かに赤い。


「でも、さ…アタシ、思うんだ。お前が母ちゃんに会って、ちゃんと話せば、

 気持ち、絶対わかってくれるって。」

エリックが目を丸くする。

「リナ…お前、なんか、しおらしいな。いつもなら

 『ビビってんじゃねえ!』ってぶん殴るとこだろ?」

リナがムッと三つ編みを振る。

「う、うるせえ!アタシだって、たまには真面目になるんだよ!

 …エリック、お前がそんな顔してると、アタシまでモヤモヤすんだ。」

彼女は照れ隠しにそっぽを向く。

エリックは笑い、胸が温かくなる。

「…サンキュ、リナ。やっぱお前、最高の相棒だ。

 母さんに会うの、怖いけど…お前がいてくれるなら、なんかできそうな気がする。」


リナがチラッとエリックを見て、小さく言う。

「…バカ。母ちゃんに会うまで…いや、そのあとも、

 何があっても、アタシが、ずっと一緒にいてやるよ。いいな?」

部屋に静寂が落ち、月光が二人を照らす。

エリックはリナの手をそっと握る。

「…ああ、約束な。リナ、頼むぜ。」

リナの顔が赤くなり、

「お、お、おい!急に手ぇ握んな、…馬鹿…」驚きつつも、そっと握り返す。

彼女の小さな手は温かく、エリックの不安を溶かす。


「…なあ、リナ、今日はここで一緒に寝ていかないか?

 なんか、離れたくない気分だ。」

エリックがボソッと言うと、リナが真っ赤に。

「ハァ!?んな、何!?…ま、まあ、いいけど!

 変なことすんなよ、エ…金髪!」

二人はベッドに並んで横になり、手を繋いだまま目を閉じる。

リナの三つ編みが枕に広がり、エリックの呼吸が穏やかになる。

ただ互いの存在が心の支えに。


翌朝、マリアが部屋を覗き、ニヤニヤ。

「おお!ガキども、仲良く寝てんじゃねえか!温泉の後はもうこれか!」

リナが飛び起きる。

「バ、ババア!黙れ!ぶっ飛ばすぞ!」

エリックも赤面し、

「ち、違う!俺達は、ただ話して…!」

ガイルが笑い、

「坊主、青春だな!」

クレアが微笑む。

「二人の絆、素敵よ。」


宿の窓から、ルミエールの大聖堂の光が微かに見える。

エリックは手に残った感触を胸に、呟く。

「母さん…俺、行くからな。リナと、仲間達と一緒に。」

リナが三つ編みを振って、

「ハッ、金髪!母ちゃんに会ったら、アタシのこと自慢しろよ!」

エリックがニヤリと笑う。

「ああ、最高の相棒ってな!」


新たな旅は続く。

聖女アリシアの待つ大聖堂へ、大切な絆を胸に。

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