01話 転生レース 精子スタートの試練
【注意】本作には性的表現や暴力の暗示、トラウマに関連する描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
俺、佐藤健太、前世は冴えないサラリーマン。
どうやっても回避できないタイミングでぶっ飛んできた無人のトラックに轢かれて命を落とした。
そのはずだ。
あんまりな境遇に気まぐれな女神が俺の魂を引き上げたらしい。
これから俺は記憶を維持したまま転生できるのだと言う。
転生もののラノベは読んだことがある。
きっと俺は赤ん坊として産まれてくる事になるんだろう。
そしてさまざまなチートを駆使して大活躍するんだ!
おもしろくなってきたぞ!
意識を取り戻した俺。
暗闇の中で、ざわめきが響き合う。
ここ、どこだ?
『ルールの説明をいたします。』
頭上から声が届く。女神の声だ。
『これから皆さんにはあるレースで競いあっていただきます。
そのレースの勝利者1名のみが、新たな人生を得ることができます。』
周囲のざわめき、かなりの数がいる。
この中から転生できるのは1人だけ…
異世界で受胎を司ると言う女神。
当然その転生方法も受胎だ。
『転生候補者が勝利した場合、転生前に身につけた知識や技術をそのまま引き継げます。』
候補者が勝利した場合?つまり候補者以外もいるのか?
周囲を見回す。何人か、強い存在感のある奴らがいる。
なるほど、こいつらが候補者か。
『レースに負けた方々は、次回開催時に再挑戦できます。挑戦回数に制限はありません。』
一度きりのチャンスじゃないのは助かる。
女神の気まぐれで転生のチャンスを貰ったが、
転生先は…まさかの精子。
数億のライバルに囲まれ、俺は今、男のキンタマの中という過酷な戦場に立っている。
「ふぁー…こんな転生、聞いた事ねえぞ…」と呟く俺の隣で、ガタイの良い精子が肩を叩いてくる。
「よう、新入りか!気合入れろ!卵子は一つ、勝者は一人だ!」そいつは尾をビシッと振り、
ベテラン臭をプンプンさせている。
「あんたは、初めてじゃないのか?」と問うと、
「オレはもう8回目の挑戦だ!早く転生したいぜ!ハハっ!」
くそ、俺も負けるわけにはいかねえ。
転生候補者は自我がある分、一般の精子より勝率が高いのだそうだ。
再び頭上からアナウンスが響く。
『まもなく転生レース、スタートです!準備はよろしいですか?』
数億の精子が一斉に沸き立つ。
会場が少し粘つく液体で満たされる。
そのまま液体の流れに乗って運ばれる俺と数億のライバル達。
遠くから、女性の声が聞こえてくる。
「駄目です!それだけは…それだけはおやめくださいませ!」
…どうやら、俺たちの「スタートライン」は壮絶な状況らしい。
次の部屋で液体が追加される。これが俺達の活動エネルギーを補ってくれるらしい。
カウントダウンが始まる。『10、9、8…』周囲の精子たちが尾を震わせ、戦闘モード。
俺は記憶を頼りに戦略を立てる。
「直進!流れに乗れ!障害は…まあ、気合でなんとかなるだろ!」知識は薄いが、意気込みは負けん。
ようは根性だ。
『3、2、1…スタート!』
部屋全体がギュッと収縮し、数億の精子が一斉に押し出される。
俺達は流れに乗って広い空間に飛び出した。
同時に、女性の悲鳴が再び響く。
「い、いやああぁぁぁ!!」
内部の戦場と外部の悲壮感のギャップに、俺の背筋がゾクッとする。
だが、今はそんなこと考えてる場合じゃない!
その絶叫を背に、俺達はゴールを目指して泳ぎ始めた。
俺は尾をフル回転させ、トップ集団に食らいつく。
だが、すぐ試練が。
「うおっ!この粘液はなんだ!?」
進路を塞ぐ粘液の壁に、周囲の精子たちが次々絡め取られる。
「ここで終わるかよ!」前世のマラソン経験を思い出し、リズムを刻んで突破。
次は白血球の襲撃だ。
「シンニュウシャ!ハイジョ!」巨大な白血球がライバル達をガツガツ飲み込んでいく。
「ふざけんな!俺は転生するんだ!」俺は狭い血管の隙間に滑り込み、ギリギリ回避。
ゴールが近い。卵子の輝きが遠くに光る。
だが、ベテラン精子が猛スピードで迫ってくる。
「へっ、良い動きだ新入り!だが、俺が勝つぜ!」
そいつが抜き去ろうとした瞬間、俺は最後の力を振り絞った。
「負けてたまるか!俺の二度目の人生だ!」
最後の直線。
俺とベテラン、ほぼ同時。
卵子の膜が迫る。
「「うおおお!」」渾身の突進で飛び込んだ。
光が爆発し、意識が遠のく。
目を開けると、暖かい闇に包まれていた。
…俺は卵子にたどり着いたのか?
女神の声が響く。
『おめでとう、健太さん。あなたはレースを制しました。新しい人生、準備はいいですか?』
「はぁ…やったぜ…」疲れ果てた俺は、胎児として新たな一歩を踏み出す。
『あなたの新たな人生に、祝福を…』
転生者の場合、女神の祝福により出産までの安全が確保されるのだそうだ。
せっかく転生したのに生まれる前に死んでしまっては元も子もない。
だが、あの悲鳴が頭によぎる。
(次があるなら…もうちょい穏やかなスタートで頼むよ、女神さん…)
初の連載作品となります。
1話づつの長さは大したことないので、気軽に読んでいただければ幸いです。