眠り姫の噂を聞いたので
X(旧Twitter)で上げたやつを少し直したものです。テスト的に上げてますので、ちょっと説明足らずかも。すみません。読んでくださった方の暇つぶしくらいになれれば良いなと思います。
“眠り姫”の噂を聞いた。
町の外れにある城に悪い継母に魔法をかけられた姫様が眠っているらしい。そこで運命の王子様が目覚めの口付けで呪いを解いてくれるのを待っているのだとか。
どうやらその城は存外ここから近いらしい。
散歩がてら見に行けば、堅牢な茨の壁も、絡まってくる蔦もない、白い野薔薇が風に揺れている穏やかな城だった。
道なりに進めば、温室のような建物へ辿り着く。
両開きのガラス扉は鍵もなく、あっさり開くものだから、うっかり僕も入ってしまった。
「うわぁ…」
温室といえば植物を育てるためのものだと思っていたが、ここは少し違うらしい。確かに植物は部屋中に生えているものの、床には赤い絨毯が敷かれているし、ティーテーブルやソファセットなんかもある。
だけど、一番目を引いたのは、部屋の真ん中。
瑞々しい草木が自然な美しさでベッドを囲んでいる。僕はあらゆる方面への警戒心を忘れ、ただ惹かれるがままそこへ近づいた。
息が止まるかと思った。
いや、もう途中から息をするのを忘れていた。
それほどに、そのベッドで眠る彼女は美しかった。
ガツンっと足元で音がして体勢を崩す。
彼女に見惚れていた僕がオットマンに躓いたのだ。
呪いで眠っている彼女には、側で音がしたところで関係ないはずだが、声が出ないよう咄嗟に口を押さえた。
そして、我に返る。
そう、我に返った。
イヤイヤイヤ、ちょっと待て。
オイオイオイオイ、なってこったい。
100年も経ってない、運命の王子でもない、なんてことないこの僕が、未婚のうら若き絶世の美女の寝床にふらふらふらっと簡単に入ってこれるなんて‥。
防犯対策しなさすぎだろう?!!
さっきまでの高揚感が、あまりの無防備さへの怒りに変わり、さらに彼女を守らねばという使命感へと進化する。
指先に魔力をためて彼女の唇に触れた。
“擬似鍵”と呼ばれる方法で、解呪の方法としてよく使われるやり方だ。
彼女の色がわずかに鮮やかさを増す。どうやら呪いは解けたようだ。こんなヌルい呪いもどうかと思う。ちょっと、この呪いをかけたヤツと話がしたい。
彼女が目覚める前に彼女へのアプローチ方法と今後のセキュリティプランを考える。いくら彼女のためとはいえ、やはり同意は得ておきたい。
怪しまれても好き勝手させてもらえるようなキャラに見た目を変えて、まずは彼女の信頼を得ようか。いや、兎にも角にもセキュリティレベルを“強”にする許可を貰いたい。
いたずら好きの魔女っ子がいいかもしれないな。
運命の人に出会うために彼女にはまた眠ってもらうことになるだろうけど、どうせなら彼女にも相手を選ぶ権利をあげたい。
来た人を確認できるよう、待ってる間の退屈しのぎも兼ねて、幽体離脱できるっていうのはどうだろう?解呪のためとはいえ、初対面でキスしてくるようなやつは良くないな。解呪方法は違うものに変えて、“口付け厳禁”と噂を流すとしよう。
彼女が目を閉じたまま眉を寄せた。
そろそろ起きるんだろう。
僕はアワアワとひよっこの魔女に姿を変える。変えると言っても性別までは変えられないので、髪を伸ばしてツインテールに、体のサイズを7歳くらいの頃まで戻して、魔女っ子の服を着ただけだ。
彼女が目を開き、こちらを見た。
ああ、寝顔も麗しかったけど、寝起きのぽやっとした感じも素敵なんだね。
「おはよう!たくさん寝たね。気分はどう?」
僕は無邪気さを装って彼女に声をかけた。
まだ状況が掴めていないんだろうね、きょとりとした目でわずかに首を傾げる。
大丈夫。安心で安全な未来になるよう僕が手厚くサポートするから。
さあ、声を聞かせて。名前を教えて。
これから一緒に始めよう。
君が幸せになれるように。