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ねこねこあるある ネコとの暮らし

リフォーム工事はにゃんこのクライシス! 彼の安心生活をどう守るかを考える

作者: 池畑瑠七

 自宅の屋根および外壁塗装工事が先日、着工した。

 昨秋辺りから気になり出した外壁と屋根の塗装劣化。7-8年前に一度化粧直しをしていて、正直もう少し保ってくれるかと思っていた。

 けど、その目算は甘かった。


 日当たりのいい南西側の壁が、急に目に見えて傷みがひどくなった。触ればチョーク粉のように指先に白く色が付くようになり、塗装の剥がれやコーキングのひび割れもあちらこちらに目立ってきた。塗膜が剥がれた部分から外壁材に浸水が及んだら…と思うと、昨今の気象状況を鑑みれば最早安穏としてはおれない状況になった。


  年々厳しさを増す強烈な夏の日差し。たっぷり浴びた紫外線で焼けた外壁に、容赦なく打ち付ける雨や風。広い空き地に面し窓からの眺めは極めて良いけど、遮るものが無いぶんこの土地特有の多雨と南からの強風が、直接壁にぶち当たる。吹き曝し、ってやつだ。

 ただでさえ外壁にはとても厳しい環境条件にあるのだが、そこに思いもよらぬ劣化要因として加わったのが、近くで行われていた高速道路の建設工事だった。


 工事が始まったのは、今から7-8年前の事だった。

 自宅の南西側に計画されていた高速道とは、直線距離で150mあるかないか。その区間は地盤の強度の関係とかで陸橋じゃなくて、土盛りの高架になるという事だった。


 その土盛り工事自体が着工したのは、確か4-5年前。工事期間中は各地から集めた土を山のように積載した県外ナンバーのダンプカーが連日、猛牛や巨象の様にエンジンとタイヤをうならせながら、狭い道路をひっきりなしに行き来していた。


 その現場から毎日毎日、朝と言わず夜と言わず、風が吹く度に舞い上がった土埃が砂嵐の様に容赦なく我が家に向かって飛んでくる。以前は花粉の時期だけはやむなく部屋干しをしていたが、工事期間中は花粉が終わっても洗濯物を外干し出来ない日が多かった。

 風が弱い日を狙って外に干すと、そういう時に限って外出中に天候急変で強風が吹き出す。帰宅するとああ残念、今日も洗濯物は土埃まみれ、薄茶色に染まっていた。


 そんな日々が、3年間くらいずっと続いていた。

 南側の壁は、いうなればその期間中毎日、紙やすりでゴシゴシと塗装を削られていたようなものだったのだ。


 併せて屋根の劣化も思った以上に進んでいた。壁に打ち付けるのと同じ量の砂が毎日のように屋根に降り注ぐのだから当然と言えば当然のことではあるが。

 驚いたのは、雨樋だ。

 ある時、2階の屋根の雨樋からイネ科のススキみたいな雑草がにょっきりと生え、風にゆらゆらとたなびいているのに気づいた。

「へ? なんじゃありゃ?」

 梯子を掛けたとて簡単に手が届く場所じゃないから、見上げるたびに「ああ、あそこに草が生えてる…」って事しかわからないのだが。一体何であんなところに、ススキが?

 しばらくはその意味する所が、解らなかった。


 現調で屋根に上ってもらうと。雨樋のその部分には飛んできた土がたっぷりと堆積しており、プランターの如き立派な土壌を築いていたことが分かった。そこに土と一緒に運ばれて来た草の種から元気な雑草たちが芽吹いた。

 雨樋は、そんな逞しい彼らをすくすくと育んでいたのだった…。


 そんなこんなで今般リフォームを開始した訳だが、諸事情で丁度台風の季節にかかることになってしまった。その上に重なる地震、酷暑。それなりに備えてきたはずの災害対策も今一度、見直しておかねば…。毎日の空模様や自然災害情報が気になり気に病み、ソワソワざわざわと落ち着かない日々。


 そしてそれらと並んで懸念している我が家的な重大問題があった。

 ぷーちゃんだ。


 物凄く物音に敏感で怖がり屋な彼。1か月近くかかる工事、大丈夫かなあ…乗り切れるかなあ。


 足場架設の大きな金属音に始まり、屋根の上や窓の外から聞こえてくるごく近い工事の音、職人さんの足音、振動、聴き慣れない人の声…そういうのに恐怖を覚えない訳がない。

 今般の工事は彼にとっては、これまでの安心生活を大きく脅かす、生まれて初めての重大クライシス…になるかもしれない大事件なのだ。


 リフォーム工事自体を避けられない以上、その間のぷーちゃんの体調管理が今わが家の最重要課題なのである。

 さあ、彼のストレスケア、メンタルケアをどうするべきか。


 家族会議で、考え得る限りの彼のストレス反応とそこへの対処をあれこれ検討した。

 その結果。まずは、家族が普通に過ごしてる様子を彼に示すことで「ああ、おっきな音がしてるけどどうやら大丈夫なんだな」と安心させてあげる事が最も大事だろうという結論に至った。


 急かない、慌てない、緊張感や特別感を出さないように、普段以上に落ち着いてふるまうこと。

 工事の間は出来る限り家族の誰かしらが在宅するように調整して、極力ぷーちゃんひとりでの留守番にならないようにすること。

 その上で、落ち着くための避難場所は数か所に確保。

 なるべく音や振動が響きにくい部屋の隅っこや大好きな椅子とか机の下に、ペットキャリーや段ボール箱を設置した。工事の場所は日々変わっていくから、都度 彼の好みで移動できるように。


 工事が始まって最初のうちはやっぱり酷く怖がった。特に、足場を組む時は甲高い金属音が一日中鳴り響くので、大きな音にビックリしては目を真ん丸にして固まった。

 その出所を探るように背中もシッポも低くしてそろそろと屁っぴり腰で移動したり、箱にも入らず暗い廊下の隅っこでポツンとして居たり。椅子の下に隠れこんで出て来なかったり。怯え切って緊張Maxで、最初の2日は食事がのどを通らず水もろくに飲まず、お腹の調子も少し崩してしまった。


 緊張状態の時は無理強いしてもご飯を食べたがらないから、せめて脱水を起こさないように。夕刻職人さん達が引き上げ静かになってから、水分補給も兼ねての総合栄養食チュールをあげるようにした。

 さすがにお腹が空いていて、喜んで食べた。


 3日目には少し慣れて来て、日中はソファに置いた段ボールに入って眠るようになった。水も飲み、夜になるとちゃんといつものご飯も食べ始めた。どうやら日が暮れれば音がしなくなる、大丈夫と学習してくれたようだった。


 そのパターンで数日が過ぎたころ。また、ぷーちゃんに別の試練が訪れた。先月入籍し新たな家庭を築いた次男が、夫婦連れ立って初めて泊まりがけ帰省にやってきたのだ。


 二人は勿論大のネコ好きだったが、ぷーちゃんにとっては如何んせんタイミングが悪すぎた。

「げっ!外に居た連中(だと思っているはず)入ってきたやん!!おうちには絶対入ってこないと思ってたのに!! 泣」

 というわけだ。怖がり人見知りぷーちゃんにとっては正に「傷口に塩」なのであった…(;^ω^)。


 それでも1泊2日一緒にすごすうちに随分とその関係は好転してホッとしたのだが、直後に台風襲来で1週間丸々、工事が中断してしまった。

 その間にぷーちゃんはすっかりいつものペースに戻った。ごはんをモリモリ食べて元気復活。彼の中では工事の大きな物音はもう終わった過去の出来事、と理解していたに違いない。


 しかーし。本日、工事は再開したのである。朝から屋根の上で大きな工事音が響き出した。


 あと正味1週間か10日、かなあ~。

 ぷーちゃん、ごめんねごめんねえ!あともうひとふんばりなんだ。もう少し、一緒に頑張ろうね!


 と思いつつ急ぎ帰宅した今夕だったが。意外にも普段通りにシッポをピーンと立てたぷーちゃんが、ゴキゲンさんで出迎えてくれた。

「ままおかえり!んじゃチュールちょうだいねー!」


 こちとらは少々肩透かし、である。どうも台風前に「自分に害はなさそうだな、大丈夫なんだ」と感じたであろう事を、しっかりと憶えていてくれたようだ。すごいな、ぷーちゃん!


 意外に順応が素早く、図太さを垣間見せたぷーちゃん。

 そういえば。我が家にやってくる前、仔猫のぷーちゃんに初めて会った時。隣のケージでワンワンワンワン物凄い勢いで吠え続ける3匹のワンコ達の猛攻を全く意に介さず、余裕でヘソ天こいて爆睡している子だったな‥‥。


 そうだった、すっかり忘れていたよ。

 あの時の貫禄の姿、思い出した 笑。


 

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