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婚約破棄された令嬢、魔法と商才で這い上がる

作者: nireron

私は、エリーゼ・ローズマリー。かつては王国の令嬢として華やかな生活を送っていたが、今は追放された身だ。


あの日、私の人生は一変した。婚約者だった第二王子アルフレッドに呼び出され、城の庭園で対面した時のことを今でも鮮明に覚えている。


「エリーゼ、君との婚約を解消させてもらう」


アルフレッドの冷たい声が、春の陽気とは不釣り合いに響いた。


「どうして……?」


私の問いかけに、彼は薄笑いを浮かべながら答えた。


「君には才能がない。王族の妃としての素質に欠けているんだ。マーガレットのほうが適任だと父上も認めてくれた」


マーガレット。彼女は最近、宮廷に出入りするようになった新興貴族の令嬢だ。確かに美しく、社交的で、誰からも好かれる存在だった。でも、それだけで婚約を破棄する理由になるのだろうか。


「そんな……、私たちは幼い頃からの約束で……」


「もういいんだ、エリーゼ。君の家族も同意している。明日までに荷物をまとめて、王国を去ってくれ」


アルフレッドの言葉に、私の世界は崩れ去った。


翌日、私は王国を追放された。家族からの援助も一切なく、持っていた装飾品を売り払ってどうにか旅の資金を作り、辺境の町フェンリルに向かった。


フェンリルに着いてからの数日間、私は絶望に打ちひしがれていた。しかし、ある日の夕方、町はずれの小さな魔法道具店で、私の人生を変える出会いがあった。


店主の老魔術師ヴィクターだ。彼は私の左手の甲にある薔薇の形の痣を見て、こう言った。


「お嬢さん、君には稀有な魔法の才能がある。その痣は風の精霊の加護の証だよ」


私は驚いた。確かに子供の頃から、風を感じる能力はあったが、それが魔法の才能だとは知らなかった。


ヴィクターの指導の下、私は魔法の修行を始めた。風を操る魔法は私に向いていて、驚くほど早く上達した。


同時に、魔法道具店の経営も手伝いながら、商売の基本も学んでいった。魔法の知識と商才を組み合わせることで、新しい魔法道具のアイデアが次々と浮かんできた。


例えば、風の魔法を利用した「そよ風ブローチ」。着用者の周りに心地よい風を起こし、暑い日でも快適に過ごせる魔法アイテムだ。これは貴族の間で大人気となり、店の看板商品となった。


また、「風音の耳飾り」も開発した。これは周囲の音を増幅したり、遠くの音を聞き取ったりできる魔法アイテムで、商人や冒険者に重宝された。


さらに、農業用の「豊穣の風車」も考案した。これは風の魔法で作物の生育を促進し、収穫量を増やすことができる画期的な道具だった。この風車のおかげで、フェンリル周辺の農地は豊かになり、町全体が潤った。


私の発明品は評判を呼び、フェンリルは魔法道具の町として知られるようになった。商人たちが頻繁に訪れ、町は活気に満ちていった。


そんなある日、ヴィクターが私に告げた。


「エリーゼ、もう教えることはない。君はりっぱな魔法使いになった」


私は驚いた。あれから三年。もう十八歳になっていた。


「ヴィクター先生……本当にありがとうございました」


「君の才能と努力の賜物さ。さあ、これからどうする?」


私は少し考えてから答えた。


「王都に戻ります。かつての自分を捨てた人々に、新しい自分を見せてやりたい」


ヴィクターは優しく微笑んだ。


「そうか。でも復讐心だけで動くんじゃないぞ。君の才能は人々を幸せにする力がある。それを忘れるな」


私は頷いた。確かに復讐心はあった。でも、それ以上に自分の力で多くの人を助けられることに喜びを感じていた。


王都に向かう馬車の中で、私は決意を新たにした。もう昔のような弱い自分ではない。魔法と商才を武器に、新たな人生を切り開いてみせる。


王都に到着すると、早速活動を始めた。まず、王立魔法学院に魔法道具の納入を申し込んだ。私の「風音の耳飾り」は、魔法の実習に最適だと高く評価された。


次に、王室御用達の商店に「そよ風ブローチ」を売り込んだ。ちょうど真夏のパーティーシーズンで、涼しげな魔法アイテムの需要が高まっていた。


そして、農林省に「豊穣の風車」を提案。食糧増産に悩む王国にとって、これは渡りに船だった。


私の事業は瞬く間に王都で評判になり、貴族たちの間で話題となった。そして、ついに王宮からの招待状が届いた。


華やかな宮廷に一歩踏み入れた時、懐かしさと共に強い自信が湧いてきた。かつての婚約者アルフレッドと、彼の婚約者となったマーガレットが驚いた顔で私を見ている。


「エリーゼ……、君か?」


アルフレッドが信じられない様子で私に話しかけてきた。


「お久しぶりです、アルフレッド王子。マーガレット令嬢」


私は優雅にお辞儀をした。


「あの……、どうして君がここに?」


「私は魔法道具商人として参上しました。王国の発展のために、私の魔法道具をご提案させていただきます」


私の堂々とした態度に、二人は言葉を失っているようだった。


その時、国王陛下が私に近づいてこられた。


「エリーゼ・ローズマリー殿。君の魔法道具は素晴らしい。特に豊穣の風車は、我が国の農業を一変させるほどの価値がある」


「お言葉恐縮です、陛下」


「願わくば、君にこの王国の魔法技術顧問として働いてもらいたい。報酬は相応のものを用意しよう」


私は一瞬躊躇した。しかし、ヴィクターの言葉を思い出した。私の才能は人々を幸せにする力がある。


「光栄です、陛下。お引き受けいたします」


私がそう答えると、宮廷中から拍手が沸き起こった。アルフレッドとマーガレットは唖然としている。


その日の夜、私は宮殿の庭園で一人、星空を見上げていた。


「エリーゼ」


振り返ると、アルフレッドが立っていた。


「君を追放したことを謝罪したい。あの時、君の才能に気づかなかった私が愚かだった」


私は彼をまっすぐ見つめ返した。


「謝罪は受け取ります。でも、もう昔には戻れません」


「わかっている。ただ、これからは魔法技術顧問として、共に王国のために働けることを嬉しく思う」


私は静かに頷いた。


「私も、自分の才能を王国のために使えることを誇りに思います」


夜風が優しく頬をなでる。私は左手の甲にある薔薇の痣を見つめた。この痣のおかげで、新しい人生を歩み始められたのだ。


追放された時の屈辱は、もう昔のことのように感じる。今の私には、もっと大切なものがある。人々を幸せにする力だ。


明日からは魔法技術顧問として、新たな挑戦が始まる。どんな困難が待ち受けていようと、私は乗り越えていく自信がある。


なぜなら私は、追放された令嬢ではなく、風を操る魔法使いエリーゼ・ローズマリーなのだから。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] エリーゼの家族だけは、しょうもないなあ…。 [一言] 王様も王子も、王国から所払いにした人を王宮に招くって、どういうこと。
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