穏やかな日々の裏側
「日常」。
インターネットで辞書を引いてみると、「つねひごろ、ふだん。」とさっぱりした文章が一番上に出てくる。
人はみんな、この日常というものが当たり前で、生きている。
これは日常の表では決して出会うことのない「怪異」と冷め切った夜のような少年の物語。
月ノ瀬和颯は毎日を退屈そうに過ごしている。
テストで高得点を取っても、赤点を取っても反応は同じ。
可愛らしい同級生に愛の告白をされても淡白な反応で拒否。
常に俯いていて、つまらなそうな反応をしている。
「出席とるぞ」
「一番、〜〜」
「はぁ…」
ため息が溢れる。
そう、和颯はこの世にはもう面白いものなど何もないと冷め切った人間であった。
運動も、恋愛も、将来も、何も興味がない。
家に帰ってもただ学校の勉強の復習、そして寝るだけ。
本人は死ぬことさえ興味がなく、ただ人生の終わりとしか思っていない。
つまり恐れていない。
もはや冷め切っていて動く骸同然ではないか。
「18番、月ノ瀬。」
「…」
「月ノ瀬?」
「聞いているのか、月ノ瀬和颯。」
「え?」
「出席。」
「ああ、すみません。少し考え込んでました。」
「授業はちゃんと聞けよ?」
「はい。」
午後の授業とは眠くなる。昼食を食べた後に行われる授業は、まさしく寝ろと言われているようなもので
瞼が自然と閉じられてしまう。周りには頭をガクンガクンしている者、諦めて寝ている者などがいる
僕はなんとかその睡魔に耐え抜き、授業を生き抜いた。
「では終礼のホームルーム始めるよ」
しかし終礼の時間
(無理だ。あまりにも眠すぎる。)
今まで頑張って眠らなかったせいかついさっきよりもドッと眠い睡眠欲が襲ってくる。
(無…理。)
そして和颯は深い井戸へ身を投げるように眠りの底へ落ちた。
───────────────
…。
「んんっ…」
目が覚める。
体がなんだか軋む。机で寝たせいだろうか
そして意識がまどろみの中から掬い上げられ、はっとする。
───今何時だ
窓から見える空はもう夕陽が沈みかけの黄昏時。
焦って手元の腕時計に目を向けると19時を指している。
しくじった。
しかしそんなことを思っている場合ではない。
さっさと家に帰ろう。僕はそう思い鞄を手に取る。
しかしこの時、何故か握った手のひらに嫌な汗がジンと滲むのであった。
僕の家はだいたい高校から40分かかる。
少し遠いのだ。しかし自転車で40分はなかなかのいい運動になる。
僕は自転車を漕ぎながら息を切らす。だいたい帰路の半分くらい経った時のこと。
また手のひらに嫌な汗が握られる。
そして、ふと。
僕は見てしまう。
・・
それを
帰り道の端の小さな路地、何かと間違いなく目があった。
その瞬間に僕は全身の毛が逆立ち、瞳孔が開いた。
あれと接触してはいけない。
もしもアレに捕まったら痛いとか辛いとかそういう次元じゃないことが起こる。
しかし和颯は思う。
それってそんなに恐ろしいことだろうか。
死ぬことや、人生が終わること。それって別に何も感じないから別にどうでも良くないか。
それにあの化け物は僕を殺したり狙ってくる可能性はあるのか。と。
そして興味のない和颯はそのままシャーっと自転車を漕ぎ、自宅へと帰った。
◇
今日のホームルームは寝なかった。
何故なら自販機でコーヒーを買ったからだ。
別にカフェインが好きとかそういうことじゃない。
しかし気分転換に飲んでみただけだ。
「おつかれさんっ‼︎」
「うわっ」
後ろから不意に声をかけられ、びっくりする。
「情けない声ゲットー」
声の主は
「啓介…」
白木啓介。それが僕に声をかけてきた人物の名前。僕の学校での友達である。
こいつはいつも調子がいい
「今からカラオケ行かねぇーっ?」
「行くか」
この行くかは「誰が行くかよ」の行くかである。
「それは肯定の方か?肯定の方だな、そうだそうに違いない。」
「なわけないだろ。」
「なんだよぉいつも断ってばっかでよー」
「いつか友達いなくなっちまうぞー?」
…
「鬱陶しいぞ、こっちからすると迷惑この上ない。」
「むーいいじゃんねー行こう行こうぜー」
「ねぇねぇねぇー」
「うざすぎるぞ啓介!」
「行くまで駄々こねるぜぇ俺はよ?」
「はぁ…もういい。」
「仕方ない、行ってやる。」
こうなったら本当に行くまで意地でもついてきてしまう。
ならもう受け入れる以外の道はない。
というか普通に鬱陶しすぎる。
適当に数曲歌って帰ろう。
───数時間後。
「あいつ結局最後まで僕を返さなかった。…」
僕は啓介に対する憎悪を燃やしつつ駐輪してある自分のチャリの鍵を外す。
そしてまたがり、ゆっくりと自分の帰路につく。
いつかあいつには嫌われるぞと言ってやる。
昨日よりも時間はある。時刻は17時。
今日は学校がかなり早い日課であったためか。2時間ほど歌ってもまだ時間に余裕がある。
そこで僕は、
適当に寄り道をして帰ることにした。
1時間くらいなら別に問題ないだろう。
「─────」
街の中を歩く。別に自分にはこれといった目的はなく、適当についさっきの嫌な気分を誤魔化しているだけだ
そして僕は水筒の中身が空になっていることに気づく。
そこで近くのコンビニに入ることにした。
僕はコンビニに入ると、一番手前のコーナーから、飲み物コーナーに…
回ろうと思った。しかし僕の歩みを止めさせたものが一つ。
ハサミとのりだ。
「そういえばもうスティックのりは無かったな。」
「ハサミも刃こぼれしているし。」
僕は最安値のハサミとのりを手にして、
飲み物コーナーにうつる。
そして僕はペットボトルのピーチティーを手に取る。
…実は僕は甘党なのだ。それに紅茶派でもある。
だから今日コーヒーを飲んだのは本当に気分転換だった。
レジで会計を済ませた後、また自転車に跨り漕ぎ出す。
いっとき経った後
再度喉が渇き、茶を飲もうと足を止める。
茶を飲んだ後、僕は少しの疲労を感じ、その場で伸びをする
そして。
また手に嫌な汗が。
僕は目を開ける。
「───えっ」
今度は間近だった。
目の前に化け物がいた。
化け物はなにかグチャっとした手?のようなものを振り上げ、僕に向けて振り下ろそうとする。
「っうわぁあ」
僕は咄嗟にそれを横に回避した。
死ぬことが怖くないとはよく言えたものである。
それはあまりにも恐ろしすぎた。
そして僕はその恐怖に負け、かけだしていた。
「はぁっはぁっくるなっっ!!」
自転車なんて漕ぎ出しで追いつかれる。よってそれは捨てた。
息が切れる。
鼓動が高鳴る。
「──ああっ!」
そして今、死が訪れようとしている。
後ろから化け物は確かに近づいてくる。
分かってしまう。
解ってしまう。
判ってしまう。
理解ッチマウ。
死にたくない。
いやだ。
死ヌことはイやだ。
来ルな
ソれデモ来る。
ヤツはおえrをkおろそうとシnいくる。
「ああああああああああああああああああああ」
おもわず叫んでしまった。
しかし周りに人はおらず、虚しい叫びとなる。
ここで僕は思い出す。ハサミがあることを。まだ勝算はあるのではと混乱して正常じゃない頭で考えてしまう。
どう考えても化け物にこんな小さい刃物で敵うわけがない。
コンビニで買ったハサミを化け物に向かって構えようとするが、
ハサミを持って後ろを振り向くが、一瞬で伸びた影にハサミを弾き飛ばされてしまう。
そして化け物との顔の距離がゼロ距離になった。
化け物は笑っていた。
その光景があまりに恐ろしく。
今までの人生がいかに素晴らしかったかを知る。
しかし。現実は無常である。
化け物はニタニタ笑いながら手?を振り上げ、振り下ろす。
あ、
死んだ。
その瞬間、俺の周りに強風が吹いた。そしてその風圧で化け物が吹き飛んだ。
新シリーズ始動でございます