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微睡むアリシア、夢うつつ


 

 体が爆ぜるような痛みに襲われ意識を失うのは何度めだろうか。


 ウォーカー公爵家令嬢として生を受け、ルード皇子を婿に迎えれば、つまらないけどそこが終着で、人よりも恵まれた幸せに満足するはずだった。


 好きなことを少しだけ、趣味程度に続け、女にしては少し強い程度の自負があれば、わたしは人生に不満などなかったのに。


 全て散ってしまった。


 父上もルード様も死んだ。


 妹だけは生きていると聞かされているが、きっと今までの記憶は宮廷魔導士の魔法で消され、ウォーカーの血筋を残すためだけの道具にされるはず。


 ……ああ、火がわたしを灼く。


 こうなったのは誰のせいなの。


 誰がわたし達を陥れたの……。


 神は正義ではなかったの。それともわたしが悪だとでも?


 ロンド皇国内で有数の家柄といってもウォーカー公爵家は家格だけで、実態は子爵程度の資産しか持っていない。


 第三皇子がそこに入るのは、最初から血生臭い争いを避けるための処置だったはず。


 それなのになぜ? それともルード様が本当に皇帝になろうとして、失敗したの?


 わたしにはわからない……。


 火がわたしを灼く。痛い。助けて、憎いのよ———


——『武の心だ。わかるだろ?』


 声。そうだ。武の心……。


 ゆっくりと火が消えていく。


 曇った思考が一気に晴れる。


 夜勤。わたしのご先祖様、リア・ウォーカーとの約束で子孫を見守るという骸骨の魔物……?


 出来なければ死ぬだけだといいながら、これまでの戦いの中で、何度もわたしを助けようとしてくれているのはわかっている。


 表情なんてないけれど、窪みの奥で光る青い炎は常にこちらに向いているし、わたしが窮地になればいつも身構える素振りを見せるから。


 最初のうちはわからなかったけれど、それは仕方ない。怪しいキノコを食べさせてくるうえ、なにか聞いても基本的にとぼけることが多いし。


 服を脱がされたとわかった時は流石に逃げようかと思ったけれど、理由を説明されているうちに、納得ができた。


 確かにここに来てすぐは、誰かが頭の中で囁いているような感覚があったけど、それがなくなったから。


 それと魔物たちもどこか最後に手を抜いて、わたしに勝たせようとしている。きっと裏でそうなるように動いているのだと思う。


 ——ああ、また火が。気を抜くとすぐこれね。


 けれど、火に呑まれそうになる度、彼の姿が思い浮かぶ。


 そうすると純粋に戦うための心、武心を思い出して、火が鎮む。


 夜勤は、レベル999になれば外に出ても良いという。


 何を言っているのか分からなかったけれど、地下三階の戦いあたりから何かがわたしの中で変わり、今は少しだけその意味がわかったようにも思える。


 龍の牙のような拳を作り上げて、それを誰に、どう使うべきなのかも。


『アリシア。俺の言う通りにすれば、お前の望みが叶うといったらどうする?』


 ……その振る舞いは小さな頃から教会で教えられた忌むべき魔物そのもの。


 けれどわたしは、この伸ばされた手を、白骨の手を取る。

 


 





 


 

 

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