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夜勤の骸骨

 ビート大陸にあるダンジョン【テラーキャッスル】。


 俺はそこに住むスケルトンだ。ダンジョンにいる仲間たちは、仕事内容そのままに俺のことを【夜勤】と呼ぶ。



 今は勤務時間外なので、ダンジョンの地下四階にある福利厚生施設【おやじの涙酒場】で一杯ひっかけているところだ。


 こうやっていると、地球からこの世界に転生してきたこれまでのことを思い出すな。


 姉ちゃんと一緒に自動車事故で死に、レベルやらステータスやらRPGみたいな概念があるこの世界に、これまた姉ちゃんと一緒に転生したのが三百年前。


 そんな俺が、なんでいまスケルトンの魔物なんかをやっているかを、ゆっくり思い出したいところだが。


 長くなるし、勤務時間が近づいているので、端折はしょりに端折って。


 転生特典かなんか知らんが、クソッタレのこの世界の神とやらの意向で、現地人よりチート気味に成長。


 さらには、魔法創生というユニークスキルを所持していた俺たち姉弟は勇者パーティーへスカウトされ、その一員に。


 そして、魔王と呼ばれた魔族を勇者が討ち取るのを助ける。その後、姉ちゃんが地球に戻りたいっていうからこっちの転移魔法を研究して。


 どうにも人の寿命じゃ、研究の時間が足りないから魔物化する魔法を創生し、魔物になり寿命を克服。


 そのせいで、こっちの世界の禁忌に触れたとかいって神からは、神に背くもの【背神者】と呼ばれ敵視されたり。


 研究のための場所とエネルギーがいるから、ここの前任だったダンジョンマスターぶっ殺して、ダンジョン乗っ取って、姉ちゃんは魔神クラスにまで進化し、気付いたら三百年。


 ……いやぁ。前半のキラキラに比べて、魔王倒してからの後半の生き様、山賊より野蛮だな俺たち。


 研究を重ね魔法創生を駆使しても、世界を超えて地球に帰れる目処はまだ立たず。姉ちゃんいわく、あと百年ぐらいとか言ってたけど、どうだかな。


 ぶっちゃけ、俺はもう帰るのはどうでもいい。


「まーた夜勤が飲めもしないお酒で遊んでるー」


 グラスの氷を揺らしながら回想にふけり、格好つけて遊んでいたら、背後より同僚のからかう声が聞こえてきた。


「うっせえ、シャルロット。おめぇは使いようのない無駄乳揺らして遊んでるじゃねぇか」


 せっかくニヒルな雰囲気出してんのに絡んでくんなよ、エロサキュバス。


 魔物の体に引きずられて、心まで魔物にならないように人間っぽい仕草したり、昔を思い出したりするのは大事なことなんだよ。


 ……しっかし、相変わらず男を殺す外見と服装してやがるなぁ。布の面積小さすぎて俺はタイプじゃねえけど。


「無駄乳じゃありませんー。冒険者なんか、たいていこれで魂抜けちゃうんだから。でもね? こうやって谷間を見せるだけよ? この中を見てもいいのは夜勤だけ」


「はいはい。そうですね」


 そんなに胸を寄せてすり寄られても、響かねえのよ。何回いっても諦めねえな。


「適当な返事ー。まあ、いいや。時間だよ」


「もうそんな時間か。呼びに来てくれたんだな、あんがとよ」


「お礼は夜勤と子作りねっ」


「またなー」


 エロサキュバスは会話がもうアレでいかん。無視するに限る。ていうか、おれチ◯コねぇし。


「約束だよー」


 本当は軽く触るだけで、ドレインタッチして精気吸い取る方式のくせに。


 揺れに揺れるアレに騙されて、何にもできないまま哀れな搾りかすになった冒険者、何人だったかなぁ。五百ぐらい? もっとか? ……まあいいや。


 シャルロットの見送りに適当に手を上げ、親父の涙酒場を後にした。





 【テラーキャッスル】は地下十一階で構成されるダンジョンだ。


 ビート大陸に数多あるダンジョンの中では比較的浅い階層数になる。


 だが、各階にネームドと呼ばれるクソ強い番人がいるうえに地下四階から八階には管理者と呼ばれるもっとエグイのがいる、殺意マシマシダンジョンだ。


 ちなみに、初見で来た冒険者の生還率は10%。他のダンジョンの生還率は80%程度なのでここがいかに鬼畜なのかがわかる。


 とはいっても、実際はほとんど殺さずに地下九階の【迷宮村】で()()しているという実態はあるけどな。


 人から漏れでる魔力を回収し、研究用のエネルギーとして備蓄するシステムがこのダンジョンには実装されていて、地下九階は重要な魔力回収エリアだ。


 いま地下九階の人口三万人ぐらいかな? もはや規模が国になってきていて、今度、議員選挙やるとかいってた。


 まあ、これが生還率10%の内実。もちろん通常の魔物遭遇からの敗北や罠にかかって死ぬのもあるけど、それは他のダンジョンと同じ程度だと思う。


 大体、冒険者ってのは用心深いのが多くて、すぐに逃げるのが多いんだよ——


 ——今みたいに。


「やべぇっ! 例の骸骨だっ!」


 地下三階で見知った冒険者パーティに遭遇エンカウント


 パーティの一人が俺を指して叫ぶ。


「イザベラっ! 早くしろ!」


「あれは、逃げれば追ってこないっ! 早く!」


 おっ。俺を見て腰を抜かしたのは、見たことがない顔だ。荷物運び(ポーター)だな。


「駄目だ、そいつは置いて逃げるぞ!」

「了解!」

「了解だ!」


 さっすが、貴族の次男坊たちで結成した三人組の冒険者パーティー【貴族の誇り】。お名前通り、逃げ遅れた荷物運び(ポーター)身代わり(スケープゴート)を切り捨てる判断、激早っである。


 すげえ嫌な奴らだけど、生かしておくとこうやって人材を供給してくれるから、大事なリピーター(常連)でもある。因果なものだなぁ。


 ……もう見えなくなっちまった。逃げるのも上手いんだな、これが。


 さて、いかにも金のために身売りされた感じを漂わせる村娘のイザベラちゃん。


 かわいそうに、腰が抜けてへたり込み、歯をガチガチ鳴らしている。


 地下三階、【迷宮洋館】で隠し部屋を発見、扉を開けたら俺がこんにちは。と、なったらそうなるわな。


 だがそれにしても、あんまりにも怯えて可哀想だから和ませようかな。


「怖くないよー」


 ほらほら、気さくな骸骨。下顎カタカタカター。

 声だって発声魔法でイケボだぜ?


「——ひぅ」


 おおぅ。自主規制、自主規制。なんだかイケナイ音がしたけど俺は聞こえていないさ。なんせ耳がないからね。骨だけに。HAHAHA!


 ……さて、スケルトンジョークが虚しくこだましている間にイザベラちゃんに転移魔法をかけてしまおう。


「行き先は九階っと」


 イザベラちゃんの足下に魔法陣が現れ強い光を放つ。


 光がおさまったあと、そこには誰もいなかった。


 はい、転移完了。


 貧しい村人だろうから、外よりよっぽど安全で快適な九階の暮らしの虜になるのは間違いない。安心しておくれー。


 ふぅ。イザベラちゃんで今月、地下九階村人スカウト十人目か。


 おっ! 今月のノルマ達成したぞ!


 ってことはアレが出来るっ!


 俺の毎月のお楽しみ、公爵令嬢ウォッチングを!






 


 



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