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第4話 闇の王

(ウソ……)


 私の誘いに動揺しないだなんて。

 こんな男はいなかった。

 完全に失敗だ。


「お前程度の女ならこの世には山ほどいる。俺を誘惑なぞできんぞ。これまでの男からはそれで許されていたのだろうがな、相手が悪い。残念だったな」

「え……」


 かすかな南部訛り。

 低く、熱のない声色。


(待って。まさか。この声の主は……!)


 知らず知らずのうちに奥歯がガチガチと音を立てた。

 体の奥から恐怖心が湧き上がる。


(なんてことなの……。しくじった……)


 知っている。

 私はこの声の主を知っている。

 一度だけ、賭場で聞いた声だ。

 でもはっきり覚えている。


(だめだ。生き残れる可能性も無くなったわ)


 声の主は裏社会(この世界)で生き残るためには決して触れてはならない存在だ。厄介な相手と対峙してしまったようだ。


「阿呆な女だ。この街で生業をしている以上、俺のこと知らぬとは言わせない。女、俺の名を言ってみろ」


 私の動揺を見透かしたのか、男は誘うように問う。


(言えるわけないじゃない……)


 額を冷たい汗が伝った。


「俺は忍耐強くないんだ。答えろ、シャロン」

「うっ……」


 そうだ。間違うはずもない。

 この世界で生きていて知らない者はいない。


 貧民街の主。

 そしてこの国の裏社会を支配するマーシャク家の若き当主。


 私は息を整える。


「……イライアス・マーシャク様」

「わかっているじゃないか。さすがだな、シャロン・ヴァイル」


 マーシャクは鼻で笑う。


(……完全に終わった。助からない)


 彼が殺すと言うのなら絶対だろう。

 私は死ぬのだ。

 近い将来に冷たい骸となるのは確定だ。


 生きていて後悔ばかりな人生だったけれど、死ぬとなると不思議と命が惜しいとも感じる。

 けれど残念ながらここで私の命運は尽きてしまったようだ。


「マーシャク様。どうせ殺すならば、いっそのこと今すぐ殺してくださいませんか」


 遅かれ早かれ私は殺されるのだろう。これは決定であるはずだ。

 いつ殺されるか分からないままに恐怖を抱いてただ死を待つのはごめんだ。

 あっさりと綺麗に幕を引いてやる。


「女というのになんと威勢が良いことだ」とマーシャクは驚きを隠そうともせずに言った。


「まぁ早まるな。お前を殺すのは俺の用が済んでからだ」


(用??)


 闇の王がコソ泥である私に何の用があると?


「私のような小者があなた様のご用命を果たせるとは思えません。私はただのケチなペテン師ですもの」

「ああ、知っているさ。だからこそだ、『ロッサーの女王』シャロン」


 コツリコツリと靴底が床を打つ音がする。

 マーシャクが近づいてきているらしい。体をこわばらせ耳をそばだてる。

 足音は私の頭の上でピタリと止まった。


「お前の賭場師、いや違うな。詐欺師としての腕はまだまだだ。だが、まだ十代でありながら俺の街で(ゴト)をやりおおせたことは見事としか言いようがない」

「マーシャク様は買い被っておられますわ」


 裏稼業の主に評価されたのは悪い気はしない。が、賭場でしくじって、こうして捕えられ床に這いつくばっているのが全てだ。

 私は未熟だった。

 何度も成功するうちに、どこかに驕りが生まれたのかもしれない。


「謙遜はいらない。俺はな、お前を評価しているんだよ。シャロン」とマーシャクは手を伸ばし私の髪を一束とると口づけをした。


「お前は気づいていないだろうが、お前には価値がある。それを使わぬままに殺すのは惜しい。確か使えるものは使うのがお前の流儀だっただろう?」


 マーシャクの言う通りだ。

 私はどんなものでもーー例えそれが孤児院長の命だとしてもーー利用してここまで生き抜いてきたのだ。


(でもちょっと待って。私のモットーは知り合いにしか言った事はないわ。どうして知っているの??)


 いつの間に?

 マーシャクほどの大物が社会階層最底辺の私のことなどを知るはずもない。

 あえて知ろうとしない限りは……。


(やはり、罠だったのね)


 いつからだ。

 私は小さく舌打ちをした。


(最初からね、きっと)


 マーシャクは私がこうなることを見据えて罠にかけたのだ。

 これは逃げることなどできやしないじゃないか。


「……マーシャク様は私のことをよくご存じの様ですね。こんな小者に貴重な労力を割くとは驚愕です。そこまでして私を管理下に置いておきたいのですか?」

「俺は武器は多く持っておきたい(たち)でね。お前と同じだ。使えるものは常に手に届くところに備えておきたいんだ」


 皮の靴先が頬に当たる。

 マーシャクは私を抱えおこし目隠しを外した。

 急に視界が開け眩しさのあまりに目を細める。


「シャロン、刮目してこちらを向け」


 私はゆっくりと瞼を開ける。


 そこに。

 光を背に『王』は立っていた。

読んでいただきありがとうございます!

イライアス!

響きが好きでつけましたw

次回も読みに来てくださいね!

ではまたお会いしましょう。

※不定期更新です。

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