ぴーちゃんが主の私に代わって巨大竜に変身してくれました
「な、何故ここに王妃がいるのよ?」
私が驚いて言うと、
「あんたを追いかけて来たんじゃない。鬼ばばなんて言うから。王妃は執念深いのよ」
マチルダが答えてくれた。
ええええ! そんなことで? 王妃は執念深いらしいって。そういうことは早く言ってよ!
そんなので必死に私達を追いかけてきたということはやばいんじゃ……
私は何故王妃達がここにいたのか? 私達がもっとドジな事をしてしまったからだとは気付かなかったのだ。
「ふん、お前たちはほんに愚かな者達じゃの。あの道はぐるっと回って元来たところに戻って来る一本道だと言うのに」
馬鹿にして王妃が見下ろしてくれたんだけど。
ええええ! そうなの。じゃあ王妃達は何もせずにここで待っていただけということ?
私達は必死に逃げたつもりなのに、元いた所に戻っただけって……そんな馬鹿な。
本当にドジじゃない。
こんな事になったのも、全てこの道を選んだマチルダのせいじゃない!
私達は白い目でマチルダを見た。
さすがのマチルダもたじろいだみたいだが、
「ついてきて何も言わなかったあんたらも同罪じゃない」
とあっさり返してくれたのだ。
それは気付かなかった私達も悪いけど……
でも今は私達は完全に囲まれてしまった。
後ろの門はどんどん叩いて壊そうとする兵士たちの音がするし、前は剣を構えた兵士たちがいる。
「ふんっ、その方たちの悪運も尽きたようじゃの」
王妃はきみの悪い笑みを浮かべてくれた。
「アレクサンダーの邪魔をする第三皇子と生意気なマチルダよ。特に私を『化け物』と呼んでくれたマチルダよ。貴様は楽には死なせてやらんぞ」
な、悪口言ったのはマチルダじゃない。私よりも王妃に恨まれているのは!
「それと私を『鬼ババ』と呼んだそこの小娘もな」
王妃は私をも睨んでくれた。余計な事を言うんじゃなかった。
ん? 余計なことって、ひょっとして変身の呪文は一字一句違えちゃいけないんじゃないのか?
私は再度考えた。確か、『怪獣も宇宙人も』のところを勝手に『トッチャン坊やも鬼ババアも』に言い換えたのだった。
それで変身出来なかったんだろうか?
そうだ。絶対に言い換えたから変身できなかったんだ!
私はこうなったら、もう一度試すことにしたのだ。
「わっはっはっはっはっ!」
私はもう一度、笑いだすところから始めたのだ。皆は私を見て唖然としていた。
「なんじゃ、私になぶり殺されるのを怖れて気が狂ったのか?」
王妃のボケナスがなんか言ってくれているが、ここは無視だ。一字一句間違えてはいけない。
「私は無敵の沙季様よ! 怪獣も宇宙人も私の前にひれ伏しなさい!」
決まった! とその時は私は思ったのだ。
でも全然だった。
やっぱり変身出来なかったのだ。
終わった……
私は思わずその場にへたり込んだのだった。
「何やってるのよ。パティ! 何度やっても無理よ」
「パティ! 気は確かに持て。絶対に助けてやるから」
「そうだ。俺たちがまだいる」
マチルダたちが元気付けてくれるが、ここはもう無理だ。
だって周りには兵士たちが溢れているし。
周りを見ると
「おっほっほっほっほ。何を言っておるのやら」
余裕の王妃がいた。
そして、その傍らには捕まっているエイダも。
そういえばエイダの事とは忘れていた……
私はなんと薄情なんだろう!
更には、その横にはこんな騒ぎにもかかわらず、すーぴー寝ているぴーちゃんがいたんだけど……
私はぴーちゃんを捨てて逃げた自分の事は反省せずに、寝ている私のペットにムッとしたのだ。
何か気持ちよさそうによだれまで垂らして寝ているんだけど。
こいつ、ご主人様が殺されそうな時に何を優雅に昼寝なんかしているのよ。
普通主人の危機を助けるのがペットの役割じゃない!
なのに、のほほんと昼寝なんてしているなんて!
完全に自分勝手な論点だったんだど、私は何故か完全に切れてしまったのだ。
そして、後で考えても何であんな大胆な事が出来たのか判らないんだけど、
「ちょっと、ぴーちゃん! いつまで寝ているのよ!」
私は大声で叫ぶと立ち上がったのだ。
でも私が声をあげても私のペットは気持ち良さそうに寝ているだけだった。
それを見て私は更に切れてしまった。
ずんずんとぴーちゃん目掛けて歩き出したのだ。
みんなそんな私を見て、唖然としていた。
「ちょっと」
「パティ」
慌てて私を押さえようとしたマチルダやジルの手を振り払ってずんずん歩いていく。
「ちょっと待て!」
目の前の兵士が私に剣を向けてきたが
「お退きなさい!」
私は気がたっていたのかそのまま、素手でその剣を払いのけていたのだ。本当にどうかしていたのだ。でも、その時は私がこうするのが、正しいと信じていたのだ。でないと怖くて抜き身の剣なんて触れなかった。
そのまま、剣を持った兵士は吹っ飛んでいたんだけど……
途中の兵士たちは私の剣幕に驚いたのか、慌てて私の前を開けてくれたんだけど……
私はつかつかとぴーちゃんの檻に近付くと、
「ぴーちゃん、いい加減に起きなさい!」
そう叫ぶと檻を思いっきり蹴とばしたのだ!
後で考えたら、何であんなことが出来たか全然判らなかったけれど……何かに憑かれたような動きだった。
ガーーーーーン
そして、何故か頑丈なはずの檻が大音響をたてて大きく揺れたんだけど……
その音に皆は正気に返ったみたいだった。
「その女を取り押さえろ」
第一皇子が叫んでくれた。
「パティ!」
慌ててみんな動き出した。
私を中心に。
殺される!
殺到する兵士たちを見て私は恐怖を感じた時だ。
ドカーン
という大きな音と共に、
グォーーーー
巨大な咆哮がして、私の後ろには巨大な古代竜が檻を突き破って、現れたのだった。





