帝国宮廷魔術師の独り言 生意気女と皇子を襲ったのに、その侍女のペットに返り討ちにされてしまいました
私は帝国最高の魔術師ザカリー・ラブクロイだ。
当然宮廷魔術師団に属している。
最高の魔術師なら、当然一番偉いのか、とよく聞かれるが、師団長は別にいることはいる。
まあ、魔力がでかいだけで師団長になっている、役立たずだ。
その点、俺様は頭も使える。
じきに取って代わってやると日々虎視眈々と狙っていたのだ。
そんな時だ。第一王子殿下から声がかかったのは。
ついにその時が来たか。俺様の能力を次期皇帝陛下が認めてくださったのだ。俺は勇躍して御前に馳せ参じた。
「その方が、ザカリー・ラブクロイか」
殿下は跪く俺の前で名前を呼ばれた。
「左様にございます。私めのようなものをお呼び頂けるとは恐悦至極にございます」
名前を覚えて頂いていたのかと俺は感激した。
「その方の帝国への働きの数々、良く知っておるぞ」
なんと殿下自ら俺の功績の事をご存知だとは。俺は感激した。
「今回はその方の能力を私の為に使って欲しいのだ」
「かしこまりました。非才な身ながら、精一杯、勤めさせて頂きます。で、どのようなことをさせて頂ければ宜しいのですか?」
俺が聞くと秘密裏に第三皇子を亡き者にしてほしいとのことだった。
事がなった暁には私を宮廷魔術師団長にしてくださると。
俺は勇躍したのだ。ついに俺が認められる時が来たのだ。
敵国の要人の暗殺や誘拐などがこれまでの俺の仕事だった。汚れ仕事ばかりだったのだ。
今回の仕事もその類いだが、相手は第一皇子殿下のライバルだ。当然俺の行いいかんによっては、帝国の未来を左右するものであった。第一王子殿下は大変大きな役割を与えてくれたのだ。
でも後ろ添えもない第三皇子を消してどうなるのかと、思いはした。
だが、なんでも、帝国第三皇子と帝国最大の公爵家アラプール家の娘の婚約が決まったとのことだった。今迄見向きもされなかった第三皇子に強力な後ろ楯がついたことになるのだ。
そして、アラプール家の令嬢と言えば、マチルダ、あの生意気令嬢だ。俺の容姿を見て腐った豚とほざいてくれたあの女だ。
それも宮廷魔術師団の面々が揃っている式典で皆の前で言ってくれたのだ。
俺にとってどれだけ屈辱だったのことか! 絶対にマチルダには仕返ししてやると、俺はそう決めていた。
出来れば地下室に監禁してあの澄ました顔を凌辱の限りを尽くしていたぶってやりたかった。
その女を一緒に襲っていいということだった。
ならば婚約者の皇子と一緒にいたぶってやってもいいだろう。
俺は婚約者の前で泣き叫ぶマチルダの顔を思い描いてほくそ笑んだのだ。
俺は早速、殿下の暗部と共に、辺境の地、リーズ王国へと飛んだ。殿下は事を起こすに当たって魔物を興奮させて、暴走させる魔道具を与えてくれた。但し、その制御はそんじょそこらの魔術師では到底扱えない代物だった。まあ、俺様なら余裕で扱えるが。
この辺境の地リーズ王国にも学園があり、何でもそこに帝国の第三者皇子とマチルダが通っているそうだ。
何故、こんな辺境の地の学園に皇子が通っているのか、俺には良くわからなかった。
帝国の皇子殿下や高位貴族の子弟で帝都の学園以外に通うことなどめったにないはずだ。
が、おそらく、皇子もマチルダも帝国の学園に通えるだけの学力が無かったに違いない。
俺様に向かってあのような暴言を言う程だ。マチルダは余程のばかなのだろう。
愚かなことだ。俺様は当然、帝都の学園を優秀な成績で卒業しているが。
その辺境の学園の生徒たちが王都の近くの公園に遠足にいくそうだ。それを魔物に襲わせろということだった。
時は満ちたのだ。
ついに俺の名前が第一王子殿下の頭の中に刻まれる時が来たのだ。
遠足当日。俺は満を持して、魔導具を起動したのだ。
その威力は絶大だった。
多くの魔物たちが興奮して、俺の指示する方角に動き出したのだ。
そして、その先に第三王子やマチルダがいたのだ。
俺は拡大鏡でマチルダを捉えた。その先にいる第三皇子も。
「行けーーーー、行くのだ」
俺は魔物たちに指示したのだ。
魔物たちはマチルダら目指して殺到したのだ。
しかし、さすが皇子たちは剣を握って反撃してきた。
しかし、この数の魔物を防ぎきれるわけもなかろう。
俺は更に多くの魔物を皇子たちに向けたのだ。
これで終わったと俺は確信したのだ。
何か侍女のペットのトカゲがチョコマカと動き出したのが目に付いた。
大したことはなかろうと俺は思った。トカゲなど魔物の一撃で終わりだ。
魔物が一撃を繰り出したのだ。
それ見たことか……とはならなかった。
次の瞬間、俺の目は点になった。なんととてもちっぽけなトカゲがその魔物を投げ飛ばしたのだ。
まさか、俺は信じられなかった。
そして、
ガウォーーーーー
トカゲが突然巨大化して吠えたのだ。
その瞬間、魔導具が破裂したのだ。
俺達は破片で血まみれになって悶えた。
何が起こったか理解できなかった。
そんな俺の方に気の狂ったように魔物たちの大群が逃げてきたのだ。
や、やばい、
しかし、俺は何も出来ずに魔物たちに蹂躙されたのだ。
何匹にも弾き飛ばされて蹴られて踏みつけられた。
俺は知らぬ間に意識を失っていたのだ。





