帝国第一皇子視点 悪事を企てて高笑いする母が山姥のように見えました
俺の名はアレクサンダー・フレーザー、帝国の第一皇子だ。
母は皇后で、当然俺が帝国を継ぐと小さいころには思っていた。
下の第二皇子は四っつ下だったが、側室腹でその母親は身分の低い女だった。
それがおかしくなったのは七つ下の第三皇子のヴァージルが生まれてからだ。
その母は属国リーズ王国の元王女の娘で身分的には大したことは無かったが、小癪な事に後ろにその国境に近い辺境伯がついたのだ。それにヴァージルは生まれた時から格段に魔力が強かった。
そして、何故か父はその子を可愛がったのだ。まあ、その母親を寵愛していたというのもあるが。
嫉妬した母にその女は毒殺されたが、父の心がその子から離れることは無かった。
ふんっ、俺に逆らうとはいい根性をしている。
俺は配下を使っていろいろいやがらせをしてやった。時に毒も使った事はあるが、なかなか、弟の周りは有能でガードも堅かったのだ。
そんな時だ。俺はダメもとで配下の者を使って古代竜の情報を流したのだ。
まあ、古代竜が帝国、建国にかかわったという伝説を使っただけだったが。
その古代竜の卵を奪って小さい時から育てて刷り込みして、配下にすれば帝位に近付くのではないかと教えてやったのだ。
実際に古代竜を配下にしたところで皇帝がそれを認めるかどうかは知らないが。学者共も使っていろんな方面から流してやった。
それにヴァージルらが引っ掛かったのだ。馬鹿め。古代竜なんて爬虫類が人間のいう事など聞くわけは無いではないか。単なる伝説だ。
それを証拠に古代竜の卵を盗みに行った辺境伯は怒り狂った古代竜によって殺されたのだ。ヴァージルも死ねば良かったのに、何とか生き残ったらしい。
しかし、帝国での強力な後ろ盾を失って、暗殺を恐れたのか、辺境のその母の生まれ故郷の国から帰って来なくなったのだ。
俺はこれですべてが片付いたと思ったのだが、母は執念深かった。その国王に、将来的な禍根を絶つために殺した方が良いと暗に示唆したのだ。
もっとも、国王は皇帝を恐れたのか、何もしなかったみたいだが。
まあ、後ろ盾を失ったヴァージルなど何という事はないだろうと俺は安心していた。
15にもなっても、ヴァージルは帝国の学園に入って見方を作るわけでもなく、なんとその辺境の地の学園に入ると聞いて、これでもう、帝位を諦めたかと俺は安堵したのだ。
そもそも、最近は第二皇子や第四、あるいは隣国の王族から生まれた第五皇子の方が気になっていた。
父の皇帝は絶倫で戦争のたびに新たな側室を出させては後宮に入れているのだ。いい加減に何とかしてほしい。
そんな俺が帝国最大の公爵家アラプールの我儘姫マチルダがヴァージルのいるリーズ王国に行くと聞いて驚いたのだ。
こいつは第二皇子と出来ていると思ったのに。
マチルダは小さい時からいろいろと第二皇子と結託して悪戯をしていたのだ。
俺のあの母に向かって
「着飾ったお化け」
と言ってのけた時には俺はとても引いたのだが。あの執念深く根に持つ母に対してそんな事を言うなんて!
母の笑顔が怖かった。
慌てたその父の公爵が平謝りに謝ってその時は収まったが、そう言われた母は絶対に根に持っているはずだ。
公爵家の姫なので、それを娶れば帝位争いは優位になるのだが、俺はあんな我儘な女は絶対に嫌だったし、あんなことを言われた母も毛嫌いしていたので、俺の婚約者候補に挙がることは無かったが……
しかし、その我儘姫と第二皇子が結びつくとさすがにまずい。
この二人は悪だくみに関しては長けているのだ。それも下らないことに。結託していろんな悪戯をしてくれたのだ。
宰相のかつらを釣り上げた時などさすがの俺も目が点になった。
その頭をもっと別なことに使えばいいのに、と思わないでもなかったが。
それだけ仲が良いので、この二人が婚約する可能性がある。我儘姫マチルダのいる公爵家は帝国最大の貴族で、それが第二皇子の後ろ盾になるとさすがの俺も一目置かざるを得なくなる。
それは避けたいと二人の仲を裂くためにいろいろ画策していたところにこの報が入り、俺は混乱した。
それも、噂ではヴァージルとマチルダが内々に婚約したというのだ。
何も後ろ盾のない、辺境の地で朽ち果てるはずだった第三皇子に大きな後ろ盾がついたのだ。
これは俺の予想外の出来事だった。
この二人は同い年だが仲が良いなど聞いた事もなく、公爵が後ろ盾につくなど考えも及ばなかったのだ。
「だからあなたは甘いのです」
母は俺の所に来て叱責してくれた。
「第三皇子はさっさと始末しろと申しましたものを手を下さないから。何しろあの皇子の母は陛下にこびへつらって私を遠ざけようとしたのですから」
恨みの籠った目で母は遠くを見ていた。
「幸いなことにもうじき王立学園では遠足があるそうです。その近くに魔物の多く住む魔の森があります」
母の目がぎろりと光った。
「魔物たちにその遠足の集団を襲わせるのです。第三皇子も私に暴言を吐いた公爵の娘もひとたまりもないでしょう。私に逆らったらどうなるか思い知らせてくれるわ」
そう言うと母は高らかに笑ったのだ。
髪を振り乱して狂気じみて笑う母は俺には山姥のように見えた。
この母にだけは絶対に逆らってはなるまいと俺は新たに心に誓ったのだ。





