ゲームの中身が少しわかりましたが、絶対に私はヒロインは無理だと思いました
マチルダによると、この世界は日本全体で一千万本も売れた、不朽の名作乙女ゲーム『リーズの聖女』なんだそうだ。小説も何百万部も売れて、アニメ化、映画化されたお化け乙女ゲームだそうだ。
ヒロインの聖女の可憐さと、主人公の皇子様のカッコよさ、それに悪役令嬢のこれでもかという、いじめの凄さと存在感が、圧倒的に支持されたのだとか。
「まあ、悪役令嬢の可愛さと悪に立ち向かう、正義感の高さが一番人気だったけれどね」
さすが元町田さん、自分を一番美化しているのは前世と一緒だ。
「なんであなたが知らないのよ?」
完全に私を馬鹿にして言ってくれるんだけど……
ブラック企業に勤めていて、家には毎日終電で帰っていた私には、そんなのやる暇も無かったわよ!
「相変わらず、私と別れてからも流され人生送っていたのね」
残念な物を見る様にマチルダは私を見てくれるんだけど。
「でも、ここからは私がちゃんとあなたの面倒も見てあげるから大丈夫よ」
マチルダが太鼓判を押してくれるんだけど……
「ええ?」
「なによ、その不満そうな声は?」
「だって、碌な事になりそうにないんだけど」
「何言っているのよ。そんな訳ないでしょ」
「はああああ! よく言うわね。今もあなたのせいで殴られたのよ」
「殴られたって頬を撫でられたくらいじゃない。全然大したことないわよ」
ムッとして私が言うと、平然とマチルダは言ってくれた。
でも前世でもマチルダの言う通りにしてろくな目にあった記憶がないんだけど……
「あなたね、攻略者の一人のブラッドに好意を持たれているからって喜んでいちゃだめよ。彼に好意を持たれるなんて基本の基本なんだから」
「誰が喜んでいるのよ。そもそもブラッドに好意なんて寄せられていないわよ。ブラッドは私を護衛にしたいだけでしょ」
「えっ?」
心底驚いた顔をマチルダはした。
「そう言えば、この子は恋愛に疎いんだったわ」
何か平然と人を侮辱してくれるんだけど。
「何言ってるのよ。私も恋くらい知っているわよ」
「まさか、ペットのぴーちゃんに恋しているって言うんじゃないでしょうね」
「そんな事はないわよ」
私はぼそりと小さい声で言った。決してマチルダに言葉を先に言われたからではない。
マチルダが頭を抱えている。
「あなた、ひょっとして、ぴーちゃんの正体もしらないんじゃ無いでしょうね?」
「えっ?、ぴーちゃんってかわいい私のペットよ」
「はああああ、頭痛い。こんな奴に宝の持ち腐れだわ」
頭片手で押さえて何かマチルダが言っている。
「何よ!」
私がむっとして言うと
「まあ、良いわ。判った。あんたのペットは最強だから。何かに襲われた時は頼ればいいわ。相手が古代竜でない限り絶対に勝てるから。古代竜でも互角よ」
「何言っているのよ。そんなの可愛いぴーちゃんにはムリよ」
私の言葉にマチルダは今度は両手で頭を抱えているんだけど、
「良いわね。いざという時はその相手に向けてぴーちゃんをぶつければ良いわ。絶対に勝てるから」
そんなのできるわけは無いと思いつつ、あまりのマチルダの勢いに思わず頷いてしまった。
「それとブラッドだけど、痴話げんかに巻き込まれたらあなたの死亡エンドもあるから気を付けてね。まあ、それは防いであげたと思うけど」
何で恋人でもないブラッドの痴話げんかに巻き込まれるのか良く判らなかったが、私は適当に頷いた。
「あなたの攻略対象は四人よ。裏ルートもあるけどそれは取り合えず今は良いわ」
マチルダが説明を始めた。
「メインは帝国の第三皇子ね」
「えっ、私、この国の男爵令嬢でしかないのよ。どうやって帝国の皇子様と釣り合うのよ」
「でも、あなた無敵の魔法少女じゃない。十分にそれだけで釣り合うわよ」
「そうかな」
まあ、そういうものかもしれないが……
「それとブラッド」
「えっ? ブラッドもなの」
「何言っているのよ。今も親しいでしょ」
「親しいって、助けただけよ」
「助けられて恋に落ちたんじゃないの」
「そうかな、そうは見えないけど」
私の言葉にまた、マチルダが頭を抱えているけれど、何でだ?
「それと帝国の第二皇子。でも彼の場合性癖がね。彼とくっついたら監禁奴隷エンドだから」
「えっ? なによそれ」
「地下牢に監禁されて日々調教されるのよ。第二皇子の性格はゆがんでいるから」
どうでもいいけれど、何で帝国の皇子が何人も出てくるのだ。ここは帝国の属国と言っても辺境の地だ。あり得ないんだけど。
「それと、さっきのヘタレの王太子」
「ないない、絶対にないから。そんな畏れ多い」
私は首を振った。
「あんた何言っているのかわからないけれど、高々辺境の属国の王妃よ。全然大したことないんだから」
「それは帝国の大貴族、公爵令嬢のあなたから見たらでしょ」
私が呆れて言うと、
「まあ、それはそうだけれど」
そこで頷くなよ。それはそう思うけれど、友だちを慮ってもう少しオブラートに包むとか、いや、無理だ。町田さんにオブラートにつつむなんて真似出来るわけない。この子なら絶対に正直に洗いざらいズバズバと話してしまうんだった。
「なんか文句があるの?」
私の残念なものを見るような視線を感じたのか、マチルダがぎろりとこちらを睨んでくれたんだけど……
「なんでもない」
私は慌てて首を振った。変なこと言うと、後でその仕返しが怖いのだ。
でも、私に帝国の皇子様が目をつけるなんてあり得ないんだけど。
私は既に目をつけらられているのを全く知らなかったのだ。





