王都に行く途中で、昔助けた高位貴族の男の子を拾いました
それから二年が経って私は十五歳になった。
そして、何故か私は王立学園に入ることになったのだ。
我が貧乏男爵家では、兄以来の学園生だ。
本来、我が家は女を学園になんて入れる金銭的余裕はないのだが、ブラッドリーがやらなくていいのに親と話をつけてくれたらしい。
学校には昔虐められていたので、あんまり良いイメージがない。
それに、今でもローズお嬢様の婚約者に色目を使って婚約解消させた私の噂は貴族の間では有名なのだ。
何しろ一か月とおかずにわが屋敷にその婚約者だったブラッドリーが訪ねてくるのだから。
こいつはいつも何しに来るのだ?
私が無敵だからって護衛にでもしたいのだろう。でも高々一侯爵家の為に私の力を使うのはどうかと思うのだ。
通えばほだされると思っているのか、来るたびに何か贈り物を持ってくるのだが……。
この前なんか、ピンクのめちゃくちゃ可愛らしい衣装を贈ってくれたんだけど、これは嫌味か?
私がピンクの魔法少女だからってこのど派手な衣装を着て、ブラッドリーを護衛しろって意味なんだろうか? ムカついた私は思わずその衣装を燃やしそうになった。
それに、私は貴族の護衛なんて七面倒くさいことは嫌なのだ。
貴族って皆威張っているし、碌なことはないように思う。
でも、折角王立学園に入れてくれるのならば、王宮で何らかの職を得ようと私は考えている。
この王国では王立学園を卒業できれば女の身でも官僚になれるらしい。
私はそのためにいろいろ勉強したし、これからもやっていきたいのだ。
そして、明日は入学式だ。今日は入学式に間に合うように学園に行くのに、私は辻馬車を乗り継いで行こうとしたのに、わざわざブラッドリーの奴は迎えに来たのだ。
男爵も義母もそれはそれは大変な歓迎のしようだった。何しろブラッドリーは来るたびに我が家に金を置いていってくれる福の神なのだ。もう、いつも、下にも置かない歓待のしようで、「良いわね。この金づるを絶対に離すんじゃないわよ」義母に釘を刺されたんだけど……
最近は私もブラッドリーのお陰で侍女はせずに家でのんびり貴族生活を送らせてもらっている。だから、来たら相手はしてあげているのだ。
でも、それでも、ブラッドリーの護衛になるのは嫌だ。
私は将来はぴーちゃんと一緒に王宮で事務官として働くのが夢だ。
仕方無しに、私はぴーちゃんとブラッドリーの馬車に乗った。
ぴーちゃんはブラッドリーを毛嫌いしているみたいで、いつも愛想がない。
ブラッドリーもぴーちゃんがいるとあまり近くに寄ってこないので、かえって好都合なのだ。
侯爵令息様を前にして無視したような態度はどうかとは思うが……
まあ、これで私を護衛にするのを諦めてくれたら良いし……
「もう少しブラッドリー様に気を使いなさい」
いつも義母たちにはぎゃあぎゃあ言われているが、私はその時は適当に頷くのだが、こいつの護衛になるのは嫌だ。まあ、本人が何も言わないから良いんじゃない……
「ねっ、ぴーちゃん、美味しい?」
私がぴーちゃん相手にお菓子を食べさせている時だ。
急に馬車が止まったのだ。
「どうした?」
ブラッドリーが御者に聞くと
「馬車の事故があったみたいで」
前の御者の言葉に横を見ると横倒しになった馬車が見えた。
そして、その横に私達と同じくらいの年齢の男と女がいた。
「ジル!」
「エイダ!」
私達二人が叫ぶのが同時だった。
げっ、あれは私を苛めて追い出そうとした、村長の娘だ。
なんか、昔、私が村長の家の前に転移させた高位貴族の息子に面倒見てもらうとか言って、私が帰った時にはもう家にはいなかった。その横には貴族の息子らしき者がいるんだが……
この子はとてもイケメンだ。
でも、あれ? どこかで見た顔だ。
そうだ! 思い出した。昔助けて、関わりたくないから村長の家の前に転移させたその高位貴族の息子だ。
「ブラッド!」
「パティ!」
外の二人も私達に気づいたみたいだ。
うーん、なんか最低の奴らに捕まってしまったように思うんだけど……高位貴族の息子にはかかわり合いたくなかったんだけど……
でも、よく考えてみたら、私の隣にいるのがこの国の最高位のお貴族様だったんだ……
「どうしたんだ? ジル、その馬車は?」
「いやあ、車軸が折れたらしい」
横転した馬車に車輪はついていなかった。どこかに飛んでいったらしい。
「けが人は?」
「それは何とか皆無事だった」
ジルと呼ばれた子の周りには騎士たちが働いて馬車を起こそうとしていた。
「でもこの馬車じゃ、王都まで行くのは厳しいな」
頭を振ってジルが言ってくれた。
「何だったら乗せていくが」
「良いのか?」
ジルは私を見て聞いてきた。
「問題ないわよね」
「ええ、私は問題ありませんわ」
ブラッドリーの声に私は頷いた。元々この馬車はブラッドリーのものなのだ。私に拒否権があるわけはない。エイダと一緒の馬車は避けたかったが、こうなれば仕方がないだろう。
「困った時はお互い様だ」
ブラッドリーの一言で決まったのだ。
私達は詰めて座った。何故か私の横にブラッドリーが来たんだけど、普通は女のエイダじやないのか?
馬車が動き出すと私達はお互いに名乗りあった。
ジルと呼ばれた子はリコニック子爵家の令息だそうだ。おかしい。もっと高位貴族の感じがしたのに!
「お前が女連れなんて珍しいじゃないか?」
ブラッドリーがジルに聞いていた。ジルとは親しいみたいだ。
「いや、昔、この子に助けてもらってね」
「そうなんだ」
「倒れていらっしゃった方をお助けするのは当然のことですわ」
エイダがさも当たり前のように言うが、こいつは倒れていたのが貧乏人だったら絶対に見捨てたはずだ。
ブラッドリーは改めて猫被っているエイダを見た。
「今はこの子は平民なんだが、もうじき親が男爵に昇爵するんだ」
「そうなんです。パティの家と同じになるのよ」
嬉しそうにエイダが最後は私に言ってきた。
「良かったわね」
「ありがとう。これであなたに大きな顔をされずに済むわ」
最後の方は小声で私にしか聞こえなかったみたいだが、相変わらず、性格は最悪みたいだった。
「そんな事より、パティ、聞いたわよ。侯爵家でやらかしてくれたんですって!」
「何もしてないわよ」
私はしらをきった。
「侯爵様のお嬢様の婚約者を寝とったって聞いたんですけど」
その言葉に私とブラッドリーは思わずエイダを睨み付けたんだけど。
「エイダ嬢。パティはそんな事はしていない」
すかさずブラッドがちゃんと注意してくれた。
「えっ?」
エイダはお嬢様の婚約者がブラッドだとは知らなかったみたいだ。
「エイダ。そのお嬢様の元婚約者が目の前にいるブラッドだ」
ジルが注意してくれた。
「すみません。私何も知らなくて、失礼なこと言ってしまって」
涙目でエイダが言ってくれるんだけど、こいつこんな演技も出来るんだ。
私は思わず感心してしまった。
「まあ、判ってくれたら良い」
ブラッドはあっさりと引いたが、こいつがそんなたまではないのは付き合いの長い私がしっていた。
「それよりも君が抱いているのは?」
ジルが私のぴーちゃんを見て聞いてきた。
「ジル様。そいつはパティのペットのトカゲです」
嫌そうにエイダが言うんだけど。
「えっ、どう見てもトカゲじゃないだろう?」
不思議そうにジルが見てくれるんだけど、
「そうですよね。判る人には判ってくれるんです。彼は私のペットのぴーちゃんです」
「ぴ」
でもぴーちゃんはジルには全く興味ないみたいで、チラ見して終わった。
「そのペットどうしたの?」
ジルは更に聞いた来たのだ。そう言えば、この子がぴーちゃんが卵の時にそれを抱えていたんだった。まずい。ひょっとして正体がわかっているのか?
「山で卵を見つけて孵したんです」
私は嘘は言っていない。あなたが抱えていたと言わなかっただけで。
「トカゲの卵を孵すなんて余程のもの好きですよね」
エイダが言ってくれるんだけど、ぴーちゃんはそんなエイダを馬鹿にしたように見降ろした。
「山ってどこの?」
ジルがしつこく聞いてきたんだけど、
「この子、前は私の村にいたんです。だから私の家の近所の山じゃないですか? 何だったら今度ご案内しますよ」
エイダが喜んで言ってくれるんだけど。
「いや、まあ、それは良いんだけど」
「まあ、ぴーちゃんは変わっているよな。トカゲなのに鳥みたいにピーピー鳴くし」
ブラッドリーまでがが言ってくれて
「ぴーーーー」
ぴーちゃんがブラッドリーを威嚇するんだけど、それも可愛い。
「いや、絶対にトカゲじゃないだろう」
ジルは最後までぴーちゃんを不思議そうに見ていた。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ジルはぴーちゃんの正体を知っているみたいです。
続きは今夜です。





