お嬢様の婚約者に手を出したという事で侯爵家を首になって男爵家に帰らされたら当の侯爵令息が飛んできました
「パトリシア! 今回の件はどういう事ですか?」
私は屋敷に帰ると即座に侍女長のロッテンマイヤーさんに呼び出されたのだ。
「どういう事と言われますと?」
私がおずおずと聞くと
「あなたがローズお嬢様の婚約者のパーマン侯爵家の令息に言い寄った件です」
「はい?」
私は目が点になった。
「私がならず者に気絶していたのをブラッドリー様が介護して頂いただけで、私は何もしておりませんが」
そうだ。私は何もしていないのだ!
「あなたからブラッドリー様に抱きついたとお嬢様はおっしゃっていますが」
「そんなわけありません。私は気絶していたのです。そんな中で誰かに抱きつかれたから思わず叩いてしまったら、それがブラッドリー様であっただけで」
「なんですって、あなたは公爵令息を叩いたのですか?」
ロッテンマイヤーさんは頭を抱えてしまった。
でも待って、頭を抱えたいのは私だ。
「それに、侯爵家からは今回の婚約は無かったことにしてほしいと言ってきているのですよ」
「えっ、そんな」
私は驚いてロッテンマイヤーさんを見た。
「なんでも、自分の弱さが判ったから、一から鍛え直したいとのこどてしたが、あなたに張られたのが原因では」
「そんなわけは無いはずです」
私が張り倒したのは事実だが、その前に独立派の魔法使いにパーマン侯爵家の坊っちゃんは一撃でやられたのだ。婚約者も守れずに。
それはショックを受けるだろう!
私はそこをロッテンマイヤーさんに強調して説明したのだ。
賢明に! 私も流石に誤解で首になるのは嫌だった。
「いくらアグネスの忘れ形見でも今回ばかりは私も庇いようがありません」
さすがの、ロッテンマイヤーさんも首を振ったのだ。
結局いくら言い訳しても、このパーマン侯爵家からの婚約見直しの件がネックになって私は侯爵家から首になってしまったのだ。
ブラッドリーの奴、何がこの借りは返すよ。お前のせいで侯爵家から首になってしまったじゃない!
もう私は完全に切れてしまった。
結局私は、侯爵家のお嬢様の婚約者に言い寄った不届き者として、名門アーブロース侯爵家を首になったのだ。
ブラッドリーの野郎! 私を庇ってくれなかったのだ。
借りは返すって言ったのに! なんて奴だ。
お嬢様の操を変身して守ってあげたのに、恩を仇で返すなんてアーブロース侯爵家も最低の家だ。
でも、真実を話す訳にはいかないし。
働いた給金だけはくれたが、退職金もなかった。当然次の職場の紹介もしてくれなかった。何しろ私はお嬢様の婚約者に手を出した不届き者なのだ。
どうしよう、こんな噂が広まったら私の新しい勤め先は見つかりっこない!
家に帰ったら絶対に男爵とか奥様にボロクソに怒られるに違いない。
私は憂鬱になりながら男爵家からの迎えの馬車に乗ったのだ。
「どういうことですか? パトリシア様。侯爵様のお眼鏡に叶うようにしてくださいとお願いしましたが、その婚約者に手を出してほしいなんて一言も言っておりませんよ」
ケインは最初から不機嫌だった。
「どうするのですか? こんな噂が周りに広まったら、パトリシア様の次の働き口も無いですよ」
馬車の中でも延々とケインに怒られたのだ。
更にだ。
家につくと早速応接間に呼び出されたのだ。
そこには父母を始め若夫婦とスカーレットまでいるんだけど。
「パトリシア、どういう事だ。アーブロース侯爵家のお嬢様の婚約者に手を出すなんて」
「そうよ。アーブロース侯爵家に逆らうなんてしたら、こんな男爵家一瞬でお言え取り潰しになるわよ」
「私達の未来を潰して良くものうのうと帰ってこれたものね」
「こんな噂が広まったら私の縁談が来なくなってしまうじゃない。」
「今すぐ取って返して、お嬢様に土下座して頭を下げてこい」
全員が私を攻めてくれるんだけど、ちょっとまってよ!
今回の一番の被害者は私よ! なのに、何なの! この扱いは?
ブラッドリーの野郎! 今度会ったら絶対にただでは済まさない。
「お嬢様に許してもらえるまでは家に帰って来るな」
「そうよ。それが出来ないなら、この屋敷から追放よ」
「どこでも好きなところに行って野垂れ死にすればいいわ」
最後は父と義母とスカーレットが言ってくれたのだ。
何言ってくれてるんだ。こいつらは! そもそもこの家に来てから私は碌な生活させてもらっていない。家族としても扱われていないのだ。侍女として、いや下働きとしてこき使われただけだ。
それを恩着せがましく言うな! お前らこそ、私を好きら使っているだけだ。
こんな生活送らせられるくらいなら一人で生活していつたほうが余程ましだ!
私がそう叫ぼうとした時だ。
玄関が馬車の蹄の音ともに急に騒がしくなった。
「大変でございます」
そこへケインが慌てて駆け込んできたのだ。
「何事だ?」
男爵が不機嫌そうに言うと
「パーマン侯爵家のブラッドリー様がいらっしゃいました」
ケインは大声で叫んだのだった。
ブラッドリーは何をしに来たのか?
続きは明朝です。





