お嬢様の婚約者の侯爵令息視点 敵を罠にかけようとして逆に罠に嵌りました
俺はブラッドリー、パーマン侯爵家の嫡男だ。
我がパーマン侯爵家は50年前の帝国との戦争で、裏切り者の汚名を着つつ、国を救った恩賞で伯爵家から侯爵家に昇爵した。
当時の国王は勝てるわけはないのに、帝国に戦争を挑んだ無能者だ。そのせいで多くの兵士が死んだのだ。
陛下の甥の公爵が王家に対して決起して当時の国王を捕まえなければ、我がリーズ王国は滅んでいただろう。その恩賞でなんとか帝国に併合されずに、独立国として我がリーズ王国は存続できたのだ。
属国とは言っても拘束されることもほとんど無く、唯一全取れ高の5%を帝国に軍事費として収めれば良いという我が方有利な条件であった。
軍事以外の制約はない。
帝国内の経済圏に入れたので、税金も無くなり、穀物も安く入るようになった。
昔から守られていてた地場産業で染め物とか衣料品は帝国の安い製品に負けて衰退したが、果物など、多くの農産物が輸出できるようになって我が国にとってはプラスになったはずだ。
もっとも、どこの国でも不平分子はいるもので、我が国にも不満分子はいる。
最近は独立派なる前国王の血縁を担ぐ不届き者が跋扈しているという情報は入っていた。
ただ、全てを取り締まると不平不満が溜まるので、一部はガス抜きの意味でも泳がせていた。
そんな中、私の婚約者が守旧派のアーブロース侯爵家の娘、ローズに決まった。
アーブロース家は帝国との戦いの時に最後に国王を裏切った家で、我が派閥にも入っていなかったが、これを期に我が派閥に取り込もうと父が企んだみたいだ。
アーブロース家は古くからの名家で、下手に独立派に担ぎ上げられても困る。
そんな思惑もあったのだ。
ローズ嬢の情報は我が家の諜報網で調べると、わがままに育った令嬢とあったが、会った感じでは可愛らしい女の子であった。少し気の強い所はあったが……
まあ、これからじっくりと育てていけばよいだろう。
そう俺はそう思っていたのだ。
そんなローズ嬢とのお茶会に出た俺を、にらみつける不遜な侍女がいた。
聞くとロウギルとかいう田舎の男爵家の娘らしい。何でも平民に育てられたそうで、礼儀作法はあまりなっていないとか。
しかし、俺は自分で言うのも何だが、見目も悪くなく、侯爵家の跡取り息子だ。黄色い声を上げられて寄ってこられることは多々あったが、睨みつけられるのは初めてだった。
その事を側近で騎士見習いのアルフに言うと
「へええええ、ブラッドが睨みつけられるなんて余程酷いことをしたんじゃないか」
笑ってアルフが言ってくれるんだが、出会ったばかりの侍女に悪いことをしようもなかろう。
過去に我が家に恨みのある家の出かもしれないと探ると、独立派の間者、デーリーと接点があるとのことだった。
こいつは新たな独立派の間者か? アーブロース侯爵にももう少し使用人の選定には気を使ってもらうようにしようと考えていると、我が方の手のものからその女とデービーがなんと俺の婚約者と俺を誘拐しようと計画しているとのことだった。
「直ちに捕まえるか? 何だったらその女を捕まえて吐かせればよいだろう」
アルフは言ってくれたが、どういうものだろうか?
一応相手は男爵家の令嬢だ。
手荒なことは中々出来ない。
それに下手に手を出すと、気づかれて他の者に逃走される恐れがあった。
それよりは誘拐されてその敵の本拠に騎士団を突入させたほうがやりやすかろう。
独立派のアジトは既に掴んていた。
俺は突入させるべく変装させて我が騎士団の精鋭50人を待機させたのだ。
「後でアーブロース侯爵から文句が来ないか?」
「屋敷内に独立派を雇い入れたアーブロース家は何も言えないさ」
俺はアルフに答えた。
今回、独立派の手の者を屋敷で雇っていた侯爵の落ち度も問えるだろう。
独立派を一網打尽にできれば、不平を言っている貴族たちもしばらくは大人しくなるはずだ。
俺はゆっくりと婚約者を迎えに行ったのだ。
そして、婚約者と侍女たちと一緒にお忍びで街を歩いた。
女の子の好きそうなカフェでお茶をして、混雑している町並みをウィンドウショッピングしている時にいきなり馬車が飛び込んできたのだ。
「退いてくれ!」
御者が叫んでいる。馬の制御が出来なくなったみたいだ。
騎士たちが必死に止めようとする。
俺は皆を建物の軒下に入れたのだ。
「きゃーー!」
周りは大混乱に陥った。
俺は慌てた。まさか、こんな目立つことをしてくるとは思ってもいなかったのだ。
そうか、これは関係ないのか?
護衛の騎士たちが必死に馬を止めようとしている。
「えっ」
そして、馬車を気にしていたら後ろからナイフを持った男に婚約者が掴まったのだ。
「騒ぐな!」
ローズは真っ青な顔をしている。
「待て」
「キャッ」
俺は慌てて追おうとして突き飛ばされたローズの侍女らにぶつかられたのだ。
男はそのまま、側の建物の中に婚約者と入っていったのだ。
「怖かったです」
俺は抱きついてくる侍女を慌てて剥がすと急いでローズを追いかけた。
しかし、建物の中には誰もいず、反対側の扉が閉まるのを見た。
走って追いつこうとして掴んだ取っ手がチクリとする。
何も考えずに、出ようとして視界がぐらりとするのを感じた。
まさか……毒をもられたのか?
俺は扉を開けた眼の前の馬車に飛び乗って意識が遠くなったのだった。
「ふんっ、俺たちを嵌めようとしたみたいだが、所詮13のガキなんだよ」
吐き捨てられた言葉に反論も出来なかった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
頼みの侯爵令息も捕まってしまいました。
やはり最後は魔法少女沙希様の出番?
続きは明朝です。





