結局侯爵家には私が行かされることになりました。
スカーレットにどんなにぴーちゃんが可愛いか説明しようとした私だが、スカーレットはぴーちゃんを恐れること凄まじいものがあって、見てもくれなかった。
「こんなにかわいいのに、どうしてだろう?」
私がぴーちゃんに言うと
「ぴー」
ぴーちゃんは本当に心外だとばかりに鳴くと私にじゃれついてきたんだけど。
本当にかわいいのに!
そして、結局、アーブロース侯爵家には私が行くことになったのだ。
スカーレットは父の男爵から
「そんなにお前が男爵の元に嫁に行くのが行くのが嫌だとは思っていなかった。クロイック男爵家ならば、お前が贅沢な暮らしが出来てお前が喜ぶと思ったのだよ」
と優しく声をかけてもらっていた。
母を殺したことになる私にはそんな優しい言葉はかけても貰えないんだと思わず落胆してしまった。
まあ、この家には朝から晩までご飯を食べる暇もないくらい仕事漬けにされたという碌な思い出しかないし良いんだけど……
人手不足のこの家には、なんと、明日から私を虐めていた村長の娘のエイダが行儀作法見習いで来るそうだ。腹黒ケインは忘れていたのかと思っていたんだけど、ちゃんと村長とエイダを脅して手伝いに来させることにしたようだ。どのみち、ケインの事だから格安の給金にしたのは間違いない。
これで私がいなくなってもスカーレットとエイダの二人になって、仕事は回るようになるだろう。スカーレットもこれに懲りて少しは仕事をするようになると思うし。
でも一言言って良のならば、私がいる間に来させてよね。そうすれば、私もおやつとかゆっくり食べられる時間が出来たのに! 本当にケインはむかつく!
男爵家のメイド要員の調達がうまくいったので、私は私の意志は関係なく、厳しいと有名なアーブロース侯爵家に行儀見習いの侍女、すなわち出稼ぎ要員として、男爵家の金づるになるように送り出されれることになったのだ。
「宜しいですか? パトリシアお嬢様。
ロウギル男爵家が、破綻するかどうかは全てお嬢様の働きいかんにかかっているのです。
何卒2番目のお姉様のようにご主人様の侯爵様に気に入られて、このロウギル男爵家の為にいろいろしてくださいね。出来たら侯爵家の若様をたぶらかせて手を出させてもいいですから。まあ、この貧しい体ではなかなかむつかしいかも知れませんが……」
こいつは言うに事欠いて男を誘惑しろなんて、なんて破廉恥な事を言うのだ。それも貧乳だと! 窓が間に入っていなかったら絶対に叩いていた。
「何か言った?」
「いえ、執事の私めがお嬢様に失礼なことなど申すわけは無いではないですか」
私はその言葉を全く信じられないんだけど。
「本当に!」
「ぴー」
私の憤りにぴーちゃんも頷いてくれた。
嬉しくてぴーちゃんを抱きしめた。
「お嬢様、ぴーちゃんにこれを」
しかしだ。次の瞬間御者席との間の窓が開いてケインが焼き菓子を二個くれたのだ。
「ぴーーーー」
ぴーちゃんが急に喜んで一個の焼き菓子に食いついたのだ。
こいつ、あっさり食べ物で釣られていやがる。なんて奴だ。
私がむっとすると
「ぴー」
やばいと思ったのか、ぴーちゃんが残りの一個を私の方に押し出してきた。
「もう一個はお嬢様に」
おいおい、私はついでかよ!
その言葉にむっとしたが、
「仕方がないわね」
私が言って一口食べると
「おいしい!」
うちのシェフの特製焼き菓子だ。
「ぴー!」
ぴーちゃんとふたりでおいしいお菓子を食べられる幸せを堪能した。
こんなお菓子で篭絡されるなんて、何とも安い私達ではないか!
「ではお嬢様。くれぐれもよろしくお願いしますね」
ケインはそう言うとうやうやしく後ろの私に頭を下げてくれるんだけど、今日までの私の下働きとしての扱いとあまりに違いすぎるんでないか!
私が毎日仕事に追われている時は見向きもしなかったくせに、こういう時だけよいしょするとはどういうことだ!
思わず私はケインを睨みつけたんだけど、ケインは私の視線などものともせずに悠然と御者の椅子に座ってくれているんだけど……
私のぴーちゃんは小さなペット専用のオリに入れて持っていくことにした。
スカーレットみたいに嫌がる人がいるかも知れないし。
まあ、自分の部屋で放し飼いにしておけばいいだろう。
私はそう思っていたのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
王子様も悪役令嬢もまだ出てきませんが、次の舞台は侯爵家です。
さて、そこに悪役令嬢がいるのか?
魔法少女の出番は、明朝のお楽しみです。





