姉はほとんどの仕事を私に丸投げしてきました。
「これでは仕方があるまい。直ちに当館でメイドとして働かせろ」
私はその父親の言葉に開いた口が塞がらなかったのだ。
二人はそれだけ言うと私の挨拶さえも聞かずに、そのまま、出て行ってしまったのだった。
私は唖然として何も言えなかったのだ。
「ケインさん。どういうことなんですか?」
あまりの暴言に親の前では一言も話せなかった私は二人が出た途端に我に返った。
そして、ケインに詰め寄ったのだ。
「どうもこうもありませんな。パティさん。我がロウギル男爵家は貧乏なのです」
ケインさんはいきなり開き直ったのだ。
「そもそも、我がロウギル家は、貴族とは言え、最下層の男爵家。それも裕福な商人出身の成金でもなければ、王都に近いわけでもない。主だった産業、例えば鉱山があるとか港があるとか言うわけでもないのです。あるものと言えば痩せた農地と山。山だけはいやほどありますが、それでは収入にはなりません……」
ケインさんは怒涛のごとく説明に入った。
我がリーズ王国は建国して200年になるが、50年前に帝国との戦いに破れて帝国の属国になったこと。
それでなくても男爵など、貴族といっても最下層、下手に領地があるので、やれ災害だ、飢饉だという時は赤字覚悟で食料の供給をせねばならず、財政は火の車。
50年前からは帝国への貢物に領地の取り分の5%を収めざるを得ず、更に厳しくなったところへ昨年の嵐の爪痕もまだ復旧が整っていないとのこと。
下手したらいつ破綻してもおかしくない事を具体的な数字を元に事詳しく説明してくれたのだ。
父も子供など嫡男だけにしておけば良いものを、4人も作るから、学園への学費やら嫁入り資金やらで、私の母が心労がたたったところへ更に私がお腹の中に出来たことから体調を崩して、難産の末私だけが助かって、その育てる金もないと、私を里子に出して、それでも追いつかずに、侍女を次々に首にして、娘で代用することにしたこと。
ある程度の年令になると高位貴族のもとで働かせて、お金を仕送りさせてなんとか、やってきたことを延々と説明されたのだ。
「最近お館様がカーラ様と再婚されたことで、カーラ様の持参金や、ご実家からの援助でやっと長年の借金返済の目処も付き、少しは余裕が出来てきたのです」
そう言うとケインさんは私を真剣な面持ちで見ると
「すなわち、パトリシア様にも一日も早く立派な侍女とし高位貴族のもとで働いて頂いて、このロウギル家に仕送りしていただきたいのです。宜しいですね」
私は頷くことしか出来なかった。
幸いな事に、年の離れた高位貴族の侍女となった長女は伯爵家の3男と次女は王宮の騎士と結婚して今では幸せに暮らしているとのことだった。
ここは高位貴族の侍女となってお貴族様を捕まえるしか無いかとおもわず思ってしまった。
「では、これからあなたの上役になられるあなた様とは4つ年上のスカーレットお姉様、すなわち侍女長をご紹介しますね」
侍女長って言う事は多少は侍女はいるんだ。私はホッとした。
ケインさんは私を応接から連れ出すと忙しくて、時間がないのか、スタスタと歩き出した。
大股で歩くのも早い。
考えたら、人がいないんだったら、私を迎えに来る時間もなかったのでは?
無理やり時間を作ったのだろうか?
後で聞いたら、私が美人で、金持ち貴族の後妻や愛人に出来る金の成る木かと思って時間をやりくりして迎えに来てみれば、私がどこにでもいるありふれた子で幻滅したと言うのが現実らしい。
それはそれでムカつくんだけど……
私は慌てて追いかけた。
よく見ると廊下も古びていて、年代を感じさせた。
それにところどころホコリが落ちていた。これは全然仕事が回っていないのでは……
私が不吉な予感がした。
ここが侍女の控室です。
言われて中に入った私は、あまりの散らかりように唖然とした。
メイド服が所狭しと投げ捨てられてその真中に仁王立ちした栗色の少女が立っていたのだ。
「スカーレット様。こちらが貴方様の妹のパトリシア様です」
「やっと来たわね。あなたを待っていたのよ」
お姉様は私を見ると喜んで言った。
「早速だけど、私の脱ぎ捨てたメイド服、全部洗ってくれる。あなたが来るのを待っていたのよ」
人の悪そうな笑みを浮かべてお姉様は言ってくれたのだ。
この家って、私を子供として扱う気があるんだろうか?私は雑用係なのか?
私の頭の中は?でいっぱいになったのだ。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
お貴族様ならぬメイドになったパティでした。
更にろくなメイドにはなれない予感が……
続きは今夜更新予定です。





