喜び勇んで男爵家に行ったら、あろうことかメイドにされてしまいました
村長の娘に家から追い出されようとしたら、正義の騎士ならぬ領主様の執事さんが助けてくれた。
それも、私がその領主様の娘だなんて、流石にヒロインに転生しただけの事はある。
いきなり、お貴族様の娘だったって展開に私は感動した。
さすが、黒服!
エイダに私の頬を叩かせて私が黒服を叩いた仕返しをしてくれた後は、ちゃんとご褒美を準備してくれているなんて。
私は馬車に乗りながら、これからの生活に心を踊らせた。
領主様のお嬢様ってどんな贅沢な生活が出来るんだろう?
専属のメイドが付いて「お嬢様」って呼ばれるんだろうか?
高価な衣装を着て、学園の廊下を歩いていると、王子様に声かけられたりして!
そうしたらどうなるんだろう?
私の心の中はバラ色だった。
「パトリシア様! 宜しいですか?」
いけない! 思わず自分の世界に入っていた。
ここはセバスチャンならぬ執事さんにこれからのことをちゃんと聞かないと。
私は馬車の中でローギル男爵家の執事のケインさんから経緯を聞かされた。
何でも私の母のアグネスは類稀なる美貌だったそうだ。学園で見惚れた男爵が母が平民にもかかわらず、猛烈にアプローチをして、妻にしたらしい。その溺愛ぶりも噂になるほどのおしどり夫婦だったそうだ。
しかし、良いことは長続きしない。
その絶世の美女は私を生み落とす時に、難産で亡くなってしまったらしい。
男爵はもう大変な嘆き様で、悲しみのあまり、妻を殺した形になった私の顔など見たくもないと、私を母の遠縁のおばに預けてしまったらしい。
そんな事があったなんて私は全く知らなかった。
おばあちゃんは私の遠縁の親戚だったんだ。
まあ、全く見ず知らずの関係ではなかったみたいだし。私を見捨ててくれた男爵に比べれば本当に家族そのものの大切な人だった。
その私の大叔母が亡くなったと知り、これまでのことを反省した男爵様は私を迎えてくれることになったそうだ。
話を聞く限りは素晴らしいことのように聞こえる。
でも、今更感は拭えない。
まあ、身寄りが亡くなった子供を引き取る感じなんだろうか?
それに、今は亡くなった最愛の妻に代わって、後妻にキリントン伯爵家出身の子供ができずに離縁されて戻っていたカーラを迎えているそうだ。
そうなると私って継子になるんじゃないか?
継子いじめがあるんじゃないかと少し心配したが、その母のカーラの子供はいないらしい。
長男のアランは既に妻を娶っていて子供までいるらしい。
その妻のバーバラはカーラの親戚で男爵家出身だとか。
他に3人の娘もいるが、皆歳も離れていて既に結婚していて、私に一番近い4っつ上のスカーレットのみが残っているだけだとか。
大体の情報が飲み込めた私を乗せた馬車は領主様のお館に到着した。
どれだけ大きいんだろうと期待していたんだけど、期待したよりも小さかった。
どでかい果樹園の中に、その館は建っていた。
二階建てのそれは私達の住んでいた家よりは大きいが、全部で20部屋くらいあろうかという大きさの館だった。
侍女や執事が勢ぞろいして迎えてくれるかと期待したのだけど、誰も迎えてくれていない……
これには私は少しがっかりした。
「さあ、こちらです」
私をエスコートして降ろしてくれたケインさんは、私を連れて一階の奥の応接に案内してくれた。
「しばらくお待ち下さい」
私を席に案内してくれるとケインさんは領主様を迎えに行ってくれたみたいだ。
でも、誰一人侍女が見えないんだけど、人手不足なんだろうか?
館も古そうだし。
私は少し不安になった。
その時だ。
扉が開いて小太りの男とこちらは更におおらかに太ったけばけばしい女が入ってきた。
「この女がアグネスの娘か。全然アグネスに似てないな」
「本当に。どれだけ美人かと期待していたのに、全然ね。これなら、私の方が余程美人たわ」
二人は平然と言い放ってくれたのだ。
私は唖然とした。
私もいきなり大歓迎されるとは思っていなかった。
でも、太ったババアの方は血が繋がっていないからまだ何を言われても耐えられたが、父の方は血が繋がっているのだ。せめて何か他に言い方があるだろう!
しかし、ここまではまだマシな方だったのだ。
次の言葉を聞くまでは。
「美人ならば金持ち貴族の後妻にでもと思ったが、この容姿では仕方があるまい。直ちに当館でメイドとして働かせろ」
私はその言葉に開いた口が塞がらなかったのだ。
せっかくお貴族様に成れたと思ったのに、実の親から、美人でないから下働きさせろと言い放たれたパティ!
続きは明朝です。
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