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 身体が軽い。

 感覚が薄れていく。

 痛みや苦しみもなくなって、水面に揺蕩うような感覚だけがある。


 ああ……死んだのか、俺は。


「そうよ。けど終わりじゃないわ」

「――え?」


 誰かの声がした。

 妖艶に響く女性の俺は思わず目を開ける。

 

「ようやくお目覚めね。お寝坊さんは感心しないわよ?」

「……」


 ここはどこだ?

 声にもならない疑問が脳裏に響く。

 目を開いた先に見えたのは、真っ白な空間。

 何もない空虚な世界。

 どこがまで続いているのか、天地すら曖昧な純白の中に俺は立っていた。

 そして……。

 

「あんたは誰だ?」


 目の前には見知らぬ女性が一人。

 妖艶な雰囲気に綺麗なドレスを着て、黄金の髪は日本人離れしている。

 外国人……だとしても異様な気配だ。

 これまで感じたことのないような感覚に疑問符が浮かぶ。

 何もかもが新鮮で、意味不明だった。


「私はアルテナ、世界の管理者……女神よ」

「女神……?」


 つまりは神様ってことか?

 そう言われると妙に納得してしまう。


「あれ? あんまり驚かないのね? ここはもっとこう、ええ! 女神様! みたいなリアクションを予想していたんだけど。ガッカリだわ」

「そんなこと言われてもな」


 俺は左右かどうかもわからない世界を見る。

 こんな真っ白で意味不明な空間にいて、今さら女神に驚けないだろ。

 何より、俺はハッキリと覚えているんだ。


「死んだはずの俺がここにいる。それ以上の驚きはないだろ」

「へぇ、案外冷静なのね。子供とは思えないわ」

「年齢は関係ないだろ?」

「あるわよ。生きた時間が魂に蓄積され、その人物像は確立される。あなたは短い年月の中で、普通の

人間より濃い時間を過ごしたのね」

「なるほど……?」


 濃いかどうかは別として、普通じゃない一生だったのは自分でもわかる。

 現代で武士になろうと剣術を磨き、あげく訳の分からない連中と戦って銃弾に倒れるなんて……どこのファンタジーだ。

 思い返して笑ってしまう。

 思い通りにはならなかったけど、劇的な人生は送れたみたいだ。

 ただ、やっぱり……。


「心残りでしょう?」

「――!」


 俺の心を見透かすように女神は言う。

 彼女はニヤリと笑みを浮かべる。


「安心しなさい。その心残り、私が晴らしてあげるわ」

「……どういう意味だ?」

「あなたが真に輝ける世界に転生させてあげるのよ」

「転生? 生まれ変われるのか?」

「ええ、嬉しいでしょ?」


 女神は意地悪そうな笑顔で尋ねて来た。

 悔いを残して死んだ俺にとって、生まれ変わりなんてこれ以上ない幸福だ。

 この女が女神である保証はないし、ただの夢かもしれない。

 死ぬ前にみる幸福な夢なら……何を願っても構わないだろう。


「だったら幕末! 幕末に生まれ変わりたい!」

「は?」

「本物の武士がいる時代に生まれたかったんだよ!」

「……あのねぇ、それでいいの?」


 女神は呆れた表情で尋ねる。


「あなたの願いは何?」

「最強の剣士に、最高の武士になることだ」

「それだけ?」

「歴史の中だけに存在する雑技を、俺の力で再現したいな」


 俺がそう言うと、彼女はびしっと指をこちらに向ける。


「そう、それよ! あなたの願いは普通じゃ叶えられないわ! 幕末? 時代が違ったって同じことよ」

「――なんで言い切れる? 実際に過去には」

「あれは迷信、正確にはそんな風に見えたという比喩表現に過ぎないわ」

「――っ!」


 肩の力がすっと抜けてしまう。

 どこか気づいていた真実を、彼女の口から聞いてしまったことで、俺は落胆した。

 妙な説得力を感じたのもあるが……。


「自分でも気づいていたでしょ? 人間には不可能なのよ」

「……そうだ」


 どれだけ身体を鍛えても限界がある。

 流派を全て覚えても、剣一本で何ものにも負けない最強の男にはなれない。

 事実、最期が物語っている。

 

「拳銃と相打ちになるようじゃ……雑技の再現なんて不可能だ」


 そう、無理なんだ。

 頭では理解していても、魂が否定していた。

 いつかできる。

 可能にしてみせるという空元気。

 

「それを可能にする世界があるのよ」


 無理だと諦めかけていた心に、一筋の光が差し込む。


「あなたがいた世界の人間にはなかった力……限界を超えることのできる力があれば、不可能だって可能にしてしまえるのよ」

「限界を超える力……?」

「そう、たとえば魔力、とかね?」

「魔力? 魔法とかそういう力のことか」


 漫画やアニメに出てくる特別な力。

 剣を使うキャラクターが多い作品は目を通している。

 どれもこれも現実離れした動きをしていて、まったく参考にはならなかったけど。

 確かにあんな力があれば、俺の理想は叶えられるかもしれない。


「あるのか? そんな世界が」

「ええ、あるわよ」

「生まれ変われるのか? そこに」

「ええ、あなたは人を助けた。自らの命を顧みずに善を成した。十分よ」


 善……か。

 思わず笑ってしまう。

 俺は別に、あの女の子のために戦ったわけじゃない。

 あの時も同じだ。

 俺は俺の強さを証明するために立ち上がった。

 

「棚牡丹だな」


 けど、それでチャンスを貰えるなら願ったりかなったりだ。


「決意はできたわね。じゃあ生まれ変わる前に決めましょう」

「何を?」

「あなたにあげる能力よ。あなたは私に選ばれた人間よ? 相応の力を受け取ってもらわなきゃ――」

「いらない」

「――え?」

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