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【第一部完結】異世界ブシロード ~チートはいらないから剣をくれ!~  作者: 日之影ソラ
第七章 罪人たちの宴

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34/46

壱

 学園の入り口で彼女を待つ。

 王城で暮らす彼女は、学園までは王城を警備する騎士が護衛を務める。

 学園の中には入れないから、ここからは俺の仕事だ。


「今日もエスコート頼むわね? リイン」

「はいはい」

「不満そうな顔ね」

「理由は言わなくてもわかるだろ」


 彼女の護衛を務めて一週間が経過した。

 平和だ。

 特に何も起こらない。

 彼女の身が危険だというから護衛になったのに、危険が迫る気配すらない。


「数日以内って言ってなかったか?」

「あら? まだその範囲内よ」

「あと一週間で何も起こらなかったら護衛は終わりだ」

「ふふっ、そんなことにはならないわ。私の未来は……相変わらずよ」


 そう言いながら寂しそうに目を伏せる。

 彼女にはどんな光景が見えているのだろうか。

 自分の奥底を覗き見る術式。

 彼女が狙われる理由はきっと、彼女は持つ異質な力に起因している。


「こんな力……なければよかったのにね」


 ぼそりと呟いた。

 おそらく本心からそう思っているに違いない。


「リイン君! ミストリア様!」


 そこへ元気印のアイリアが駆け寄ってくる。

 暗い空気になっていたからちょうどいいタイミングだ。


「あら? おはよう」

「おはようございます! 今日も一日よろしくお願いします!」

「ええ、こちらこそ」


 彼女がいると空気が明るくなる。

 王女様も心なしか、笑顔が軽くなった気がする。

 二人が仲良くなってくれてよかったと、心から思う。


「おい、リイン」

「ん? あれ、兄さん」


 肩を軽く引っ張られ振り向く。

 後ろにいたのは兄さんだった。


「久しぶりだね、兄さん」

「ちょっとこっちこい」

「え」


 そのまま肩を掴まれ引っ張られる。

 俺は兄さんに連れられて二人から離れていく。

 楽しそうに話している二人は、そのことに気付かない。


「なに? 今は勝負受けれないよ」

「そうじゃない。お前、いつの間にミストリア王女と親しくなったんだ?」

「別に親しくない。無理やり護衛をさせられてるだけ」

「護衛? なんだそりゃ」


 そういう反応になるのが普通だ。

 このまま話をつっこまれると面倒だし、振り払って戻るか。


「まぁいい。だったらお前に教えとくことがある」

「え?」


 意外にも突っ込まれなかった。

 少し兄さんは焦っているように見える。


「本来これは関係者以外には言えないことだが、お前が王女と一緒にいるなら知っておくべきだ」

「なんのこと?」


 兄さんは周りを確認する。

 他人には聞かせられないことなのだろう。

 そっと顔を近づけて、ひそひそ声で話し始める。


「実は一週間前、北の牢獄が襲撃された」

「北の牢獄? 確か大罪を犯した人を収容する場所だっけ」

「ああ。建設から四百年あまり、一度も脱獄を許さなかった無敵の監獄がだ。襲撃の後、囚人たちは忽然と姿を消した。そいつらが今、王国のあちこちで暴れてる」

「それは一大事だね」


 一週間前……ちょうど俺が護衛を始めた時期と重なる。

 これは偶然だろうか?


「反応薄いな。北の牢獄にいたのは一癖も二癖もある囚人ばかりだ。中には何千という人間を殺した奴もいる。まるで悪魔だぜ」

「悪魔だから人を殺すとは限らないよ。それは悪魔に失礼じゃない?」

「あ? なんでお前が悪魔の肩を持つんだよ」

「別になんとなく」


 彼女たちのことを知っている身としては、根拠もなく悪く言われるとちょっとモヤっとするんだ。

 

「とにかく、そいつらの対処で今、十傑メンバーも各地に出払ってる」

「兄さんは留守番?」

「俺も今から行くんだよ。その前に、お前にも伝えておきたかった。学園は安全だと思うが、念のためな。これを追っておけ」


 兄さんは俺に十数枚の紙の束を手渡す。


「脱獄した囚人の情報、その写しだ」

「いいのこれ? 俺に渡して」

「よくねーよ。けど注意しとけ。特にこいつ、三つの街を壊滅させ大量虐殺をしたギガス。騎士団と魔術師団が協力してなんとかとらえた大罪人だ。こいつの強さは憶測だが、十傑メンバーを凌ぐ。もしこいつが襲ってきても、間違っても戦おうとするなよ」

「へぇ……ギガスか」


 資料には当時の様子が描かれている。

 魔術師団の分隊三つ、騎士団数百名を動員し、七割以上の死傷者を出してようやく捕えた。

 経歴からして相当な実力者なのは間違いない。

 そんな奴が攻めてきたら……。


「おい、聞いてるのか?」

「うん。楽しみだ」

「お前……なんでこんなやつを護衛にしたんだ? 王女様は」

「それは本人に聞いてほしいかな」


 本人はまだアイリアと楽しそうにしゃべっている。


「しっかし、ミストリア王女は変わってるな。王族なのにわざわざ学園に入るなんて」

「え、そうなの?」

「ああ、他のご兄弟は誰も入ってない。王族には入る価値ないからな」

「へぇ……」


 どうしてわざわざ無意味な学園に入学したのか。

 彼女にはまだ、俺に明かしていない秘密がありそうだ。


「っと、そろそろ時間だ! 忠告はしたからな!」

「うん、気を付けてね、兄さん」

「お前がな!」


 若干イライラしながら兄さんは走っていく。

 俺は兄さんに手を振り、改めて受け取った資料に目を向ける。


「脱獄囚……ギガスか」


 興味深い話を聞けた。

 兄さんには悪いけど、今からとても楽しみだ。

 願わくばぜひとも、俺の前に来てほしい。


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