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逆手の逆手


「.............」

「その様子だとあるんだな?」

「.......だったらなに? あんたには関係ないでしょ?」

「春野みはる」

「!?」

「彼女は別に殺されてなんていない」

「ふ、ふざけないで! みはるは殺されたの! あんたの横に立っているその女にね!」


 これで確定だ。今までの一連の出来事はやはり和真の仮説は正しかった。最初から柚希のターゲットは俺ではなくいのりであったのだ。そして、柚希はいのりが春野さんを殺したんだと思っている。だから、俺は柚希の誤解を解いて仲直りをしてもう一度仲良くしよう.......なんてことはありえない。

 誰が柚希にいのりが殺したなんて伝えたのか、柚希はどうしてそれを信じてしまったのか。そんなことはどうでもいい。確かに柚希も大切な人を失ってしまいその原因がいのりにあったなんて聞かされたら復讐してやりたくなる気持ちも分からないでもないし同情の余地もあったのかもしれない。それでも、柚希はやりすぎた。もはや同情の余地など残されていない。


「誰にそんなことを聞いたのか知らないけど、それは誤解だ」

「なにが誤解だって言うの!」

「春野さんは別に殺されたりなんかしていない。彼女は事故で亡くなってしまったんだ」

「その事故の原因がそこの女なんだったらそこの女が殺したも同然じゃない!」


 そう言って柚希はいのりの方に向かって指を指す。柚希の言っていることはいのり自身も言っていたことだ。


「.......そうだね。確かにみはるの事故の原因は私かもしれない」

「だったら!」

「でもね、私はみはるに死んで欲しくなんてなかった」

「!? ふざけないで! なんでみはるが死んであんたが生きてるのよ! あんたの方が死ねば良かったのに!」

「おい、柚希。それは、」


 さすがに言い過ぎだと思い俺は柚希に声を掛けるが隣にいたいのりに手を握られることで止められてしまう。いのりの方を見るのいのりは真っ直ぐに俺の目を見据える。私に任せてと言わんばかりに。



「うん。実は私もつい最近まではそう思ってたんだ」

「だったら死んで! みはるが死んだのにあんたが生きてるなんて私は、私だけは絶対に許さない!」

「ごめん。それは無理なんだ」

「!?」

「こんな私でもね、生きていて欲しいって言ってくれる人がいるの。私には笑っていて欲しいって言ってくれる人が。生きて傍にいて欲しいって言ってくれる人が。だから、ごめんなさい。私は宮崎さんに許してもらえなくても私は私に傍にいて欲しいって言ってくれる人のために生きるよ」

「.......いのり」


 いのりは柚希に向かってそう告げる。今のいのりには前のような生きることについての迷いなどまるで無かった。柚希も今のいのりの言葉を聞いて頭の中で必死に言葉を探しているのか俯いたままずっと地面を見つめている。

 どれくらいの時間が経っただろうか。1分かもしれないし1時間かもしれない。そんな時間感覚も分からなくなってしまうような空気を感じていると不意に柚希が話し始める。


「.......それって蒼空に言われたんだよね?」

「うん」

「.......やっぱり蒼・空・と涼・風・さんは付き合ってるの?」

「まぁ、そうだな」

「うん。私と蒼空は付き合ってるよ」


 俺といのりは柚希に俺達が付き合っていたことを告げる。それからまたしばらく沈黙の時間が続くのかと思われたのだが柚希の様子が明らかにおかしかった。全身を小刻みに震わせ始めたのだ。まるで笑うのを必死に堪えているかのような.......。


「ふっふふ。あはははははは」

「「!?」」

「はぁ.......本当に大変だったよ。あんたのあの寒い発言を聞かされて笑いを堪えるのがね!」

「何を言ってるの.......?」

「これ、なぁんだ?」


 そう言って柚希が俺達に向かって見せつけてきたのは録音と書かれた画面の表示されているスマートフォンであった。つまり、柚希も俺達がしようとしていたことと全く同じことをしようと考えていたというわけだ。


「これであんた2人はお終いだね? どう? 今から泣いて謝って土下座してくれるから3日くらいは拡散しないでおいてあげてもいいよ?」

「.........................」

「ふふ。蒼空達がしようとしていたことなんてお見通しなの。自分達のしようとしていたことを逆手に取られるなんてほんと哀れね」


 そう言って柚希は余程楽しいのかずっと笑っている。あぁ、良かった......。柚希がこういうやつで本当に良かった。これで俺も本当の意味でなんの躊躇いもなく柚希を地の底まで落としてやることができそうだ。


「なぁ、柚希。哀れな俺に教えてくれないか? どうして俺と付き合った挙句に浮気なんてしたんだ?」

「はぁ? そんなの決まってるでしょ。あんたがそこの女とやたら親しかったからに決まってるでしょ? あんたが絶望すればそこの女も少しは堪えるかと思ってね」

「そうか.......。だったら、噂を流したり黒板にいのりが人殺しなんて書いたのも.......」

「もちろん、そこの女を絶望させるためよ。そこの女が笑っているだけで私は許せないからね。それももう達成できそうだけどね? 今のあんたの顔、本当に最高よ?」


 そう言って柚希はいのりの方を見てまた笑い出す。いのりの表情はまさに絶望と言った顔持ちであった。無理もないか.......自分達の考えを逆手に取られた挙句にこのままだと本当に柚希の言う通り噂が本当であったことの信憑性が上がると同時に黒板に書いてあったことに対する信憑性も少なからず事実めいてきてしまうだろう。俺達のような学生にとって学校内に居場所が無くなるということは社会的に死んだと言っても過言では無いのかもしれないのだから。


「それじゃ、また明日ね2人とも? 明日が楽しみだね」


 そう言って柚希は屋上から出て行ってしまう。それを見送るといのりは俺の隣で膝から崩れ落ちていってしまった。


「.......ごめんね蒼空.......私のせいで.......」

「ん? なんのことだ?」

「なんのことって.......え?」


 そう言って俺はいのりにスマートフォンを見せつける。そして、俺の見せつけたスマートフォンには録音中の文字が表示されていた。

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