第6話 伝説のアイドル『X』
――翌日の朝。
昨日のライブから疲れ果てて事務所のソファーで泥のように眠っていた。
そんな俺の顔の横に置いていた携帯電話がけたたましく鳴り響く。
慌てて電話を取ると、『シャーロット』メンバーの和彦の声が聞こえた。
「おい、クソマネ! ヤベェぞ! テレビつけろ!」
「ま、また何か問題を起こしたんですか!? 分かりました、すぐに謝罪に――」
「ちげーよ! お前がやらかしてるんだよ!」
何がなんだか分からないまま、俺は事務所のテレビをつける。
すると、ちょうどエンタメのニュースが始まったところだった。
「"昨日の『シャーロット』のライブがネット上で大きな話題になってます!"」
「……へ? す、凄い! テレビに取り上げてもらえるなんて!」
俺が呑気に喜びを口にすると、和彦がため息を吐く。
「それどころじゃねーんだよ。続き見てみろ」
「は、はい……?」
言われた通り、俺はテレビを見る。
「"なんと! 代役で登場した謎のカリスマアイドルが会場を熱狂の渦に巻き込みました!"」
「代役……? 謎のアイドル……?」
嫌な予感を覚えつつ、俺は続きを見る。
レポーターのマイクは実際にライブに参加した観客に向けられた。
「"最初、淳史が登場しないって言われた時は金返せ! って思ったんだけど……"」
「"その後、すっごいカッコ良いアイドルが出てきたんだよね~! 思わずみんな黙っちゃって!"」
「"しかも、歌も上手いし踊りもキレキレ! メンバーの事も熟知してるみたいでアドリブがもう最高で! ……あっ、鼻血が」
カメラで写せなくなったのか、画面はスタジオに戻されて慌てたMCがフリップの前で説明を続けた。
「謎のカリスマアイドルは最後まで名乗られなかったので、世間では『代入されたアイドル』ということで数学とかけて『X』と呼ばれているみたいですよ」
軽く調べてみると、SNSのトレンドも軒並み『謎のアイドルX』が1位になっていて、熱狂的なファンの書き込みが多かった。
俺は恐る恐る和彦に尋ねた。
「あの……これってもしかして……」
「そうだよ! お前の方が大人気になってんだよ! リーダーの淳史なんか、不貞腐れて『もう辞める』って言い出してるんだぜ!?」
俺はダラダラと冷や汗を流した。