第43話 塩対応の三島さん
「えぇ……」
三島の自己紹介に、審査しているプロデューサーは何人か困惑したような声を漏らす。
三島は惰性で続けているソシャゲのデイリーミッションをこなしているかのようなやる気の無さだ。
(違うんですよ……三島はクールだけど本当は恋もよく知らない可愛い奴なんです、ついでに履いてるパンツも可愛いんです)
俺はダラダラと心の中で冷や汗をかきながら、この場にいる審査員全員にそんなテレパシーを送る。
「でも、これはこれで……」
誰かがそんなことを呟いたが、三島の『笑顔』と『印象』の項目は今とんでもない減点が加えられているだろう。
ライバルが一人減って嬉しいのだろうか、アイドルのうちの何人かがフッと鼻で笑った。
三島の第一印象は最悪だ。
グラサン試験官は気を取り直すように咳ばらいをすると、試験を進める。
「じゃあ、次はこの試験にかける意気込みを聞かせてもらおうか」
再び、同じ順番で『シーサイドガールズ』のメンバーが答えていく。
「はいっ! こんなに素敵な音楽とダンスを踊らせていただけるなんて、光栄です! 『ライアー』さんの音楽も、『ダンス☆ボーイ』さんの振り付けも凄く大好きなので! 一生懸命、頑張ります!」
みんながそんな風に答えてく中で、最後に三島の番がきた。
(頼むぞ、三島。『応援したい!』って思わせることが一番大切だ。ここは健気に、愛想良く――)
「……アイドルなんてヌルゲーだと思います。だから、特に頑張らなくても良いかなと」
俺は心の中でうなだれた。
全然ダメだ……。
もうこれ、塩対応っていうか岩塩そのものだろ。
「――でもまぁ、この曲は好きですよ」
それだけ言うと、三島はまたステージの奥に引っ込んだ。
俺が作った曲はお気に召しているらしい、良かった。
いや、全然良くない。
せめて笑顔で言ってくれ。
再び、変な空気になってしまったのでグラサン試験官は大きく咳ばらいをして試験を進めた。
なんかもう、ジングルみたいな扱いになってる。
「じゃあ、次はプロデューサーから一言ずつ、これから踊るアイドルたちに声をかけてやってくれ」
グラサン試験官は俺たちにそう言った。
プロデューサーから本番前のアイドルにかける言葉。
確かに大切だ。
(アイドルたちに……三島に。なんて声をかけるべきか……)
俺は真剣に考えた。






