第1話 緊急事態です
「おい、クソマネージャー! さっさと水を持ってこいよ!」
「すみませんっ! こちらをどうぞ!」
「クソマネ! ここまで歩いて疲れた! 脚を揉め!」
「はい! 今すぐにっ!」
ライブ、本番直前。
マネージャーである俺、杉浦誠は新進気鋭の5人組男性アイドルグループ『シャーロット』のお世話をしていた。
水を欲しがっていたメンバーの友也に、俺はハチミツとレモン果汁、塩が入った特製ドリンクを渡す。
これなら喉にも良いし、脱水対策にもなる。
脚を揉むように要求してきたメンバーの和彦には勉強して覚えたマッサージを施す。
少しでも良いパフォーマンスができるようにと、俺は必死で足を揉む。
「ど、どうですか!? 疲れは取れそうですか?」
「あー、良い感じだよ。お前、マッサージ上手いよな。それに――」
和彦は足元にしゃがみこんでマッサージをする俺の頭にもう片方の足を乗っけた。
「足置きにもなってくれるんだもんなぁ。本当に便利だよ」
そんな様子を見て周囲のメンバーたちは大笑いした。
「……あ、ありがとうございます! みなさんがステージで輝けるように精一杯頑張らせていただきますね!」
頭に重みを感じながら、俺はマッサージを続ける。
他のメンバーたちはそれを見てクスクスと嘲笑した。
「そりゃそうだ、俺たちの実力でここまで来れたんだからな! 単なるマネージャーのお前は死ぬほど感謝しろ!」
「はい! ありがとうございます!」
「本当にズリーよなぁ! いつも頑張ってるのは現場の俺たちで! お前みたいなゴミがライブに出たら何にもできねーで終わるぜ?」
「その通りです! 皆様のおかげです!」
2人のメンバー、連と和馬に言われ、俺は答える。
自分たちが優越感に浸るため、毎回言わされる感謝の言葉だ。
こんな酷い扱いだけれど、俺は心の中では喜びに満ち溢れていた。
(ここまで長かった……! ようやく……ようやく、ウチのアイドルたちのワンマンライブが! しかも、こんなに大きい会場で……!)
ここは渋谷にある大型ライブ会場『ZIP』。
俺がいくつもの業界関係者様たちに何度も頭を下げて、なんとか出演をさせてもらった場所だ。
依頼するお金がなくて、作曲もダンスの振り付けも今まで俺が一人で全部作ってきた。
場所を確保して、スケジュール管理、メンバーが不祥事を起こせばどんなに忙しくても謝りに行った。
経費は全て俺の自腹で、夜勤のバイトも掛け持ちしながらやってきた。
そんな血の滲むような努力が、このコンサートでようやく報われるかもしれない。
アイドルグループ『シャーロット』にとって、とても大切なステージだった。
メンバーの友也が楽屋のお菓子を食べながら呟く。
「それにしても、淳史の奴おせーなぁ」
「あいつ昨日、飲んでたからなぁ」
「……お、お酒を飲んでたんですか!? やめてくださいとあれほどお願いしたのに……」
「うっせーなぁ! てめぇはマネージャーのくせに俺らに口出しすんじゃねぇよ!」
苛立った和彦が俺の頭を蹴飛ばす。
――そんな時、ライブ関係者が血相を変えて楽屋に飛び込んできた。
「た、大変です! 今、連絡が入りまして! メンバーの淳史がここに向かう途中、車で事故を起こして、病院に搬送されているようです!」
「……え?」
俺は全身から血の気が引いた。
読んでいただき、ありがとうございます!
序盤は1話1話が短いのでご了承ください!