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悠斗編

光がおさまるとともに徐々に体に感覚を取り戻してくる。

でも待って、何か変。苦しい。

視界がハッキリしてすぐに気がついた。火事だ。私は炎に囲まれていた。子供部屋だろうか。部屋の端に散らかったぬいぐるみやおもちゃが燃えている。

それよりも更に驚くことに、体が小さくなっている。それに男の子...?自分が別の子供の体に乗り移っていることに気がつくと、突如頭の中に知らない記憶が入り込んでくる。

「私は...僕は神山悠斗...」私は見ず知らずの名前を呟いていた。

この子は、この体の子は悠斗くん、小学5年生。1つ下の妹の文香ちゃんとお留守番をしていた。買い物に出掛けている両親の帰りが遅く、文香ちゃんと家の中で隠れんぼをしていた所突如どこからか燃え広がった炎に囲まれ動けずにいた。

熱い。苦しい。身体にいくつか火傷をおっている。痛い。

痛みとともにどんどん頭が覚醒していく。

到底理解し難い状況だが、まずは、生きないと。

来たこともない家の構造が何故かわかる。このまま子供部屋を出て階段を降りたら、LDKを隔てる扉を開け、廊下の先にいくと玄関がある。火元がどこか分からないがまずは行くしかない。

遠くの方から消防車の音が聞こえる。誰かが通報してくれたのだろう。そしてもう1つ窓の外から声が聞こえる。

「悠斗ー!文香ー!返事をしてくれー!」

悠斗の父親が家の外から叫んでいる。

「父ちゃん、僕はここ」

精一杯声を上げたが、立ち上がる煙のせいでうまく声があがらない。その声はバチバチという炎の音や消防車の音ににかき消され父親には届かない。

意識も遠のいてくる。急がなきゃ。

咄嗟に子供部屋を飛び出した。階段下に目をやると炎は勢いを増している。行くしかないのか。

悩んでいるうちに更に火が燃え広がる。出てきた子供部屋にも火が広がった。階段の踊り場で立ち尽くしたまま動けずにいると足元まで火が来た。

「熱っ!」

怖い、痛い、熱い、苦しい、死ぬ?、痛い痛い痛い痛い!

傷みが足元から胸元まで広がる、もがいて消そうにも上手く消えない。足の感覚がない。水に体を濡らした父親が近づくのが分かったがもう、だめだ。せめて文香ちゃんだけでも生きて...

気がついたらまた眩い光に包まれていた。痛みはもう無い。体も刹那に戻っている。

「どうだ?気持ちよかったか?」

ジルファだ。

今度は姿が見える。黒いローブを羽織った3メートル程ある筋肉質の男の姿がそこにあった。長髪でボサボサな髪のせいで顔はよく見えない。後ろには石でできた大剣を担いでいる。イメージしていた死神とは到底異なる。

「気持ちよくない、怖かったし痛かった。」

喋ることもできた。

「ガハハ、だろ?死はな、怖いんだよ。気持ちよくなんてない。軽く見るな、恐れろ。解放なんてない。自ら望んで死に向かうようなやつはそこんとこ分かってない。」

ジルファは本当に死神なんだろうか?死神なのに死を恐れろって。

「本当に死神だよ。というかお前、俺の事見えるようになったんだな。それに話せてる。」

「それは...普通じゃないの?」

ジルファの常識が私にはわからない。

「...そうだな...」

「それよりも事の顛末が気にならないのか?」

「悠斗くんのこと?あれはなんなの?夢?現実?」

「あれは過去に実際におこった火災事故さ。これを見てみろ。」

ジルファの指さす方向にはブラウン管テレビか白い光の空間にポツリとあった。

そのテレビにはニュースが写し出されている。

「2012年1月1日朝のニュースです。不幸なニュースが入ってまいりました。昨晩〇〇町で発生した住宅火災が発生しました。火災現場から性別不明の2名の遺体が見つかりました。行方不明となっている神山崇さん、悠斗くんと見られています。また風呂場で見つかった文香ちゃんは命に別状はありませんが意識不明の重体となっており...」

衝撃的なニュースに足がすくみ、立っていられなくなった。私がなんとかしていたらみんな助かったのかな。それに2012年...10年も前の話じゃない。

「死はな、変えられねぇんだ。いや、正確には違う、死に方、死に場所は変わっても死ぬ時間はどうやっても伸ばせねぇ。短くなることはあっても伸ばせた試しがないんだ。」

「ジルファは人間に生きて続けて欲しいの?」

「できればな。人間には恩がある。」

悲しげにジルファは遠くを見つめていた。その顔には大きな痣があった。

「ねぇ、もう一度悠斗くんの体に入れるの?根拠はないけど、私なら変えられるかもしれない。」

本当に何の根拠も無かったが、どうにかしたい気持ちで聞かずには居られなかった。

「きっと無理だ。死は決まっている。それに憑依できるのは死ぬことが確定している人間1人に対して1回までだ。」

「じゃあ悠斗くんじゃなく、亡くなったお父さんにも憑依出来るんじゃない?それにきっとでしょ?やらないと分からないじゃない。」

祈るように私はジルファにすがった。こんな悲しい事故私が何とかできるなら何とかしたい。それに私は知ってしまった。死の痛みを。あんな、痛み誰にも味あわせたくない。とくにあんな小さい子供たちに...

「また死ぬぞ。怖くないのか?」

「怖いよ。これは誰にでもできることなの?」

「...俺と刹那、お前だけだ。他に出来るやつはいない」

その理由は分からないけど決意は固まった。

「じゃあ私が行かなきゃ。」

「これ以上止めない。行きたきゃ連れてってやる。」

「うん、お願い。」

ジルファはブラウン管テレビをいじり始めた。映像が巻戻り始める。

「正確な時間は決められねえ。死ぬ直前かもしれねぇし、1ヶ月前かもしれねえ。そんな器用じゃないからな。」

「分かった。なんとかする。」

テレビから白い光が発せられる。

これからまた死がまってるかもしれない。でもきっと悠斗くんも文香ちゃんもあの炎の中で怖がって震えて助けを待ってたはずだ。私が、私が行くしかない。決意を胸に私は目を閉じた。

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